【 2 】
真柴さんのマンションに着いた。
「ここですわ。今すぐに開けますから少しお待ちになってくださいね」
斜めがけしていたパステルブルーの長いひものついた小型のバッグからキーリングを取り出す真柴さん。
うわっ、すごいな、そのキーリング……。
色んな摩訶不思議なアクセサリーがごちゃごちゃといっぱいついてるよ。
「あら勝利さま、強張ったお顔をなされてますわね。どうかなさいましたか?」
「い、いや、その鍵になんかいっぱいついているなーと思って……」
「お気づきになったのですねっ!?」
“ よくぞ聞いてくれました! ” とばかりに真柴さんのテンションが急に上がる。
「これは全部ワタクシのお守りなんです! 素敵な王子さまが現れるように、って願いをこめて日々持ち歩いておりましたの! そしてその私の願いは今日叶えられたのですわ!」
うぁぁーどうしよう……、この誤解をどう解けばいいんだろうなぁ……。
お手上げな気持ちでキーリングに通されてじゃらじゃらと揺れている奇怪なアクセサリーの数々を眺める。
そこには木彫りで出来たドクロマークストラップや、何かのアニメキャラクターのミニフィギュア人形や、「Boys, be ambitious.」と書かれた銀のプレートや、恐山の金の勾玉御守とか、もう本当に統一感ゼロで訳が分からない。
…………あ、よくよく見たら安産の御守まであるよ……。真柴さん、いくらなんでもそれはちょっと気が早すぎじゃない?
「さ、どうぞお入りになってください。勝利さま」
その奇奇怪怪なキーリングを使って玄関のオートロックを解除した真柴さんが先に僕をマンション内に通してくれた。木彫りのドクロストラップの顎はどうやら可動タイプのようで、薄茶色の歯がカタカタと鳴っている。本気で不気味だ。
マンション内の廊下をスタスタと歩きながらどうやって真柴さんの思い込みを解けばいいんだろう、と考える。
あ! 不思議系の真柴さんなら僕の並行旅行の話ももしかしたらすんなり信じてくれるかもしれない!
……待てよ? でもすんなり信じてくれる代わりに、「素敵ですわね! ではワタクシも勝利さまとご一緒に旅行のお供させていただきますわ!」なんて言い出してきたらどうしよう!? そうなっちゃったらマズいよなぁ……。
「勝利さまぁーっ!」
考え事に夢中で勝手に先に進んでしまった僕を追ってくる真柴さんの声が聞こえる。
「あ、ごめん。先にさっさと歩いちゃって」
真柴さんちの玄関扉の前で足を止めて後ろを振り返ると、廊下の奥からパタパタと真柴さんが走ってきた。その顔がすっごく可愛くて、思わず頬が緩みそうになる。
「勝利さま……! あなたはやはり絶対に間違いなくワタクシの王子さまですわね……!」
「え!? な、なんで!?」
「あぁ……今日はなんて素晴らしい日なんでしょう!!」
感情の昂ぶりが最高潮なのか、その可憐なソプラノ声はかすかに震えていた。
「だって勝利さまは何もご説明していないのに、ワタクシの家の前にスッと行かれましたわ! まるで最初からすべてをご存知だったかのように!!」
あぁ――ッ!!
ち、違う違う!! 違うんだよ真柴さん!! それは僕が二番目の並行世界でトシさんと君の家に行ったから知ってただけなんだよ!!
…………なんて今どうやってここで説明できるの?
第一ここはまだマンション内の廊下だし騒ぐわけにはいかないよ。
僕を見上げる真柴さんの顔は本当にとっても嬉しそうだけど、どうしよう、ますます僕は真柴さんを迎えに来た星の王子様の最有力候補になっちゃったみたいだ。マズイな……。
そんな困り切った僕をあざ笑うかのように、真柴さんが持つキーリングの木彫りドクロがまたカタカタとその奥歯を鳴らしていた。




