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パラレル人生 ミジンコなボク  作者: IKEDA RAO
◆三つ目の世界 ・ とっても粗野なボク◆
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30/46

【 11 】



 足音を消して歩くのは結構得意だったりする。

 臆病者なら大抵の者がマスターしている必須スキルの一つだ。その技を遺憾なく発揮し、隠密行動中の忍者と化した僕は覗き見には最適なポジションに身を潜める。


 あれ、まだカツが来ていないなぁ。

 見つけられないのかな。この場所、大して広くないのに。

 真柴さんは……と、あーあ、僕さっきハンカチあげたのに、涙も拭かないでまだしくしく泣いてるや。



「ヒナ!」



 林の手前からカツの声。あぁやっと来た。遅いよ。

 カツの声がしたのでそれまでひっく、ひっくと泣いていた真柴さんはひっ、の所で泣き声を止めてパッと顔を上げた。

 …………あらら、涙で顔がべちゃべちゃになっているよ。目もさっきより激しくウサギさんの目の色になってるし。でもそれでも可愛く見えちゃうのはさすが美少女な真柴さんだなぁ、と変な所に感心してみたり。

 真柴さんの泣き顔を見たカツは黙ってこちらに歩いてくる。そしてさっきと同じように真柴さんのすぐ前に片膝を立てて座り込んだ。


「……もう泣くなよ。お前のせいじゃねーから」


「あたしのせいだよ! あたしが周りを見ないであんな事したからカツが……!」


「違うって」


「違わないもんっ! ごめんね! ごめんね! カツ!」


 また真柴さんの瞳から涙がナイアガラの滝のようにダーッとこぼれ出す。それを見たカツは心底参ったようにガクリと首を前に垂れた。うん、分かるよ。女の子に泣かれちゃったらどうしていいか分かんなくなるよね。


「だからもう泣くなって」


「だってあたしはどこも怪我していないのに助けてくれたカツが怪我しちゃって……! カツ、あたしどうすればいい!? どうしたら許してくれる!?」


「別に怒ってねぇし」


「だってこのままじゃあたし、どうしていいのか分からないんだもん!」


 カツは苦々しい顔でしばらく自分の首筋を掻いていたけど、やがて「……要するにお前は俺に償いをしたいってことかよ?」と言い出す。


「うん!」


 真っ赤な目で強く頷く真柴さん。するとカツは真柴さんの目の前にぐい、と自分の顔を近づけて大声で「じゃあ金払えッ!!」と叫んだ。


 ハアアアアア――ッ!? 何言い出してんだよカツ!?


「うんっ払う! 幾ら!?」


 …………って真柴さんも払う気満々だし!!

 両者合意の上での金銭搾取が目の前で行われようとしています!! ここの二人ちょっとおかしいよ!! 


「だが金って言っても実際の金じゃなく代価で払ってもらうぜ」


「代価?」


「そうだ。俺はお前を助けて全然大した事はねーけど、ま、一応傷は負った。そしてお前はそれに勝手に責任を感じてるっつーことだろ? じゃあお前も俺と同じような嫌な目に遭えばよ、それで平等、イーブンになると思わねぇか?」


「あっそうか! うん! そうだね! そうしよっ! じゃあ、もう一度あそこから鉄パイプを落としてもらって今度はあたしがカツを助けに行けばいいんじゃない?」


「おっそれいいじゃん!」


 ……ちょっ、ちょっとちょっとちょっと!! ここのパラレルカップル、絶対に頭おかしいって!! もう僕には理解不可能です!! 


「よーし! じゃあ早速行こっ!」


 ちょっぴり元気を取り戻した真柴さんが立ち上がろうとして芝生に手をつく。するとその腕をカツがすかさず引き寄せた。


「きゃあぁぁっ!?」


 いきなり乱暴に引っ張られてバランスを崩した真柴さんはカツの胸の中に倒れ込む。


「な、なに!?」


「……今の案もまぁ悪くはないんだけどよ」


 悪戯っ子がこれから悪さを仕掛けるような顔でカツは笑う。


「俺、もっと欲しい代価があるからやっぱそっちの方を貰うことにするぜ」


 と言い終わるか終わらない内にカツが真柴さんの唇を塞いだ。あっという間のことで真柴さんもカツの腕の中で固まってしまっている。

 カツが真柴さんの身体をさらに自分の方に強く引き寄せ、最初は驚きで目を見開いていた真柴さんの瞼がぎゅっと抱きしめられていくうちに少しずつ少しずつゆっくりと閉じられていくのが遠目から確認できた。


 ……えーと、何これ?

 まさに急転直下の事態発生です。

 影でこっそり一人観劇していた僕もビックリの一大フィナーレが起きている。



「カ、カツ……」


 キスが終わり、真っ赤な顔でカツを見つめる真柴さん。

 そんな真柴さんにカツはニッと笑いかけ、彼女の髪をくしゃっと乱暴に撫でた。


「これでイーブンだからもう泣くなよ?」


 ……うーん、金色の戦闘民族が地球の女の子との恋を実らせた瞬間かぁー。なんか感動しちゃいそうになっている僕。

 そしてこの感動劇場の一部始終を細部までよーく見ることができたのはトシさんがくれたこの眼鏡のおかげだ。ありがとうトシさん!!



「えっ……だ、だめよカツ……」


 ん? どしたの?

 眼鏡の位置を直して再びパラレルカップルを見ると、真柴さんがくすぐったそうに身をよじらせている。カツの顔は真柴さんの首筋の向こう側に隠れて見えなくなっていて…………って、お、おいカツ! 君、ちょっと大胆過ぎじゃない!? ここは林の中とはいっても工事現場の中ですよ!? あーあ、お幸せになって良かったですね! もう僕は知らないよ! 勝手にしてくれ!

 茂みからがさがさと派手な音を立てて立ち上がり、「僕ここにいるんですけど」アピールのために大きく咳払いをする。


「あー、ごほん、ごほん! えーお取り込みの途中大変恐縮ですが、僕はとっても急ぎの用があるのでここで失礼させていただきます。どうぞ僕に構わずに好きなだけそこでいちゃいちゃラブラブをお続け下さい」


 野次馬の突然の登場にカツは驚くどころか勝ち誇った挑戦的な目で僕を睨んできた。


「おいお前!! 今の見てたかッ!?」


「うん、全部見ちゃいました。すみません」


「へへっ! どうだざまあみろってんだっ! これでヒナは俺のモンだ!! 俺はたった今!! ここでお前を越えたあああああぁぁぁ――ッ!!」



 ―― いえ、元々あなたの一人勝ちですから。



「そ、そうだね。どうやら僕の負けみたいだね……。負け犬はこのまま素直に引き下がるよ。お二人ともお幸せに。じゃあね」


 くるりと背を向けて歩き出すと「おい待て!」というカツの声が僕を呼び止める。

 振り返るとカツが僕に向かって全力で何かを投げつけてきた。


「わあああぁっ!?」


 顔面に目掛けて一直線に飛んで来たそれを脅えながら慌ててキャッチする。そしてガードした手の中に飛び込んできた物を見て僕はすごくビックリした。


「こ、これ……?」


 手の中の光る物とカツの間を何度も視線を行き来させながらそう呟くと、カツはその鋭い視線をほんの一瞬だけ和らげて言う。


「お前のその開襟シャツ、知り合った奴にもらったもんなんだろ? じゃあ俺はそれをくれてやるよ。俺が今お前にやれそうな物はそれしかないからな。結構気に入ってたから大切にしろよ? さっきあんだけ必死に守ってたそのシャツのようにな」


「あっありがとうカツ……!」


 銀色に鈍く光る飛び出し型の(コーム)をしっかりと手の中に握り締め、僕はお礼を言った。


「あなた、やっぱりこれから夜逃げしちゃうのね?」


 カツの胡坐の上に座り込んだままで僕にまたそんなずれた事を聞く真柴さん。

 それよりなんていうはしたない格好ですか。一体僕はどこに目線を合わせればいいんですか。


「う、うん、実は怖い借金取りのおじさんに追われてるんだ」


 あぁもう自分でも何言ってんのか分からないよ。

 するとカツが急に同情的な声になり僕をねぎらってくれる。


「借金取りに追われてるだと? お前苦労してんだな……」

 

「ううん全然だよ! これからまた新しい世界に行ける喜びに満ち溢れているくらいなんだ!」



 ―― だからとにかく一刻も早くここを離脱したいです。



「気をつけてな」


「トラックの荷台って体が痛くなると思うけど頑張ってね!」


「あ、ありがとう……。じゃあさよなら!」



 僕は急ぎ足でシウラ公園予定地を脱出する。

 あー、疲れたぁ……。それにお腹も空いてきたな……。

 腕時計の表示は【 9 : 45 】になっているけど、最初のパラレルトリップからもう四時間半近く経っているはずだ。


 よし、とりあえずあの空き地から次の世界に行こう。そこでまずお昼だ。

 財布をスクールバッグじゃなくて制服のポケットに入れていて良かったー。くぐったらきっとまた朝になってるだろうけどどこかで何かを食べよう。そう決めて僕は例の空き地に向かった。




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