【 6 】
「あなた、視力あまり良くないの?」
涙を拭き終わった真柴さんが僕の顔を見てそんなことを聞いてきた。
「うん。両目とも0.4しかないよ」
「ね、あなたコンタクトにしたら? その眼鏡も似合っていてステキだけど、眼鏡をかけない方がもっとステキになるような気がするわ」
「そ、そうかな?」
「うん! 絶対そう思う!」
ニッコリと頷く真柴さん。キュートなアドバイスに顔が赤くなってきそうだ。
真柴さんは手にしている僕のハンカチを自分のスカートのポケットにしまい、「これ、洗って返すわね」と女の子らしいことを言う。
「いいよ。それあげるよ」
「ううん、ちゃんと洗ってアイロンかけて返すわ」
「あのね、僕もう少ししたらここから別の場所に行かなくっちゃいけないんだ。だからきっと君とはもう会えなくなると思うからそのハンカチはあげるよ」
「あなた、新杜浦の人じゃないの? だってそれ芽羊の制服よね?」
はははー、もうこれ以上なんて言えばいいの?
「まぁ色々ありまして」
「……もしかして夜逃げするの?」
―― よ、夜逃げ?
面白いなー、ここの真柴さんは。発想がちょっと飛んでる。
「夜逃げはしないよ。でももうここからはいなくなるから本当にハンカチはいいから」
「そう……」
真柴さんは僕から視線を逸らして少し考えた後、僕に「真っ直ぐ前を向いて」と命令した。
何だろ? とりあえず言う通りにするとその次の瞬間、右頬に柔らかい感触が。
…………ま、真柴さんが、真柴さんが、ぼっ、僕のほっぺにチューをしてきましたああああぁぁ!!
「ごめんね。ハンカチのお礼ってこれぐらいしか思いつかなかったから」
いえいえいえいえいえいえ充分ですッ!!
っていうか、もう余裕でお釣りを出せるぐらい、いやいや、逆にこっちからお金を払っちゃってもいいくらいのお礼です、真柴さん!!
そんなバカな事を考えるから、背後からナイスなタイミングで死の宣告がやってくる。
「何やってんだお前らあああああぁぁぁ!!」
きっ、来た来た来た来たああああああぁぁぁぁ――ッ!!
ひ、非常にお怒りになられております!!
あの燃えるような吊り上った目ッ!!
両方のこめかみを縦横無尽に走るあの青筋ッ!!
ほとばしる殺気という名の闘気ッ!!
恐怖の暴君がご降臨ですっ!! もうメッチャメチャに超殺気立っておられますっ!!
「カツ!?」
「ヒナッ!! お前今そいつに何したッ!?」
「何よ! あたしが誰にキスしようがカツには関係ないじゃない! あんたなんか大嫌い! あっちに行って!!」
「なんだとおおおぉぉぉ――――ッ!! 人が下手に出て謝ってやろうと思ってたのにお前って奴はああああああぁぁぁぁ…………!!」
僕らの周りの空気が本気でビリビリと震えているような錯覚。
あぁ、もう今回ばかりは僕もこの先この二人がめでたしめでたしになる図が想像出来ません。
それに金色戦闘民族と化したカツさんも現在気を溜めておられる真っ最中のようですし、そろそろ僕も名も無き雑魚キャラとしてあっさりと殺られる運命が近そうです。
「べーだ!! じゃあもっと面白いものを見せてあげるわよっ!」
そう叫ぶと真柴さんは僕の顔をグイと自分の方に向けた。そして一気に。
……………またキスしてきました。 今 度 は 僕 の 唇 に 。




