【 4 】
校門の外にカツを待機させ、芽羊中学の中に入る。
ドアを開けて教室内に足を踏み入れると、クラス内にざわざわとした空気が一気に巻き起こった。
……まぁ、ドアを開ける前に予想していたことだけど。
だって金髪ツンツンで乱暴者の北原勝利が、なぜか髪を黒く染めて銀縁眼鏡なんてかけて颯爽と現れたんだもんね。何事が起きたのかと思っているんだろう。頭でも打って、粗野粗暴な暴れん坊から品行方正な少年に生まれ変わったとでも思われてるのかもしれない。皆が異星人を見るようなキョドッた目で僕をトタチラと見ているのもよく分かるよ。
戸惑っているクラスメイトは放っておいて教室内をグルリと見渡してみる。
あれ、真柴さんがいないや……。近くにいる女の子たちに聞いてみようっと。
「ね、真柴さんはもう来ている?」
僕に話しかけられた女の子がヒッ、と小さく叫んだ。
どうやらカツは女子の受けが相当悪いらしい。きっとその中で唯一、ああやって心配して構ってくれるのが真柴さんなんだろうなー。なんだかその辺りは僕とカツの立場は似ているかも。
「まだ来て……ですけ……」
もうそんなに怖がらないでよー。僕はカツじゃないんだから。語尾がほとんど聞き取れなかったじゃないか。
「来ていないの?」
「ヒィィッ! ハハハハハハハイッ!!」
来ていないのかぁー。でもおかしいな。学校の方に走っていったし、僕らより先に着いているはずなのに……。
でも教室にいないのなら仕方がない。僕は答えてくれた女の子に「ありがとう」とお礼を言ってそのまま教室を出た。
即座に後方でウォォォンと校舎を揺るがすような大きなどよめき声が。
「み、見たか、今の!?」
「ありがとう、って言ったぞ……あの北原が……!!」
「今の北原くんよねっ!? あたしの見間違いじゃないわよねっっ!?」
「まさかあの北原が体を張ったギャグをやるとはな……」
……あーあ、またしても予想通りの展開。
これで後からツンツン金髪のカツが学校に行ったら皆また驚くんだろうな。今の僕はクラス全員で見た、壮大な白昼夢だと思うかもしれない。まぁいいや。
靴箱を確認してみた方がいいな。真柴さんの靴箱どこだろう……。あ、これか。
あっ上履きがある! 真柴さんは学校に来ていないんだ! 急いでカツの所に戻んなきゃ!
急いで校門にまで駆け戻った。
「カツー! カツー! 大変だよー!!」
「ヒナはどうした? なんで連れてこねぇんだよ?」
「それが真柴さん学校に来ていないみたい!」
「何? だってあいつ、俺らより先に学校に向かったよな?」
「学校に行かないでどこか別の所に行ったんじゃない?」
「何!? あいつ俺にはサボるなって偉そうに言いやがったくせにてめぇがサボッてるんじゃ世話ないぜ!」
「でもそうさせたのは君じゃん」
僕の的確な突っ込みにカツはうっと言葉を詰まらせる。
「そんなことより早く真柴さんを探そうよ。どこか彼女が行きそうな所、心当たり無い?」
「んなもん知るわけねぇだろ」
「もうっ真柴さんを好きなくせにダメだなぁ」
「……ぬぅわっ!? なっ、なっ、何を言い出してやがるんだ! てめぇわ!!」
もしもーし、何だか最後がおかしな発音になってたよー?
もう、本当に素直じゃないなぁ……。うーん、なんかカツをからかいたくなってきたかも。
「だって好きでしょ? 好きだよね?」
「だっ、誰があんなでしゃばり女なんか好きかよッ!」
「ふーん……好きじゃないんだぁ……」
「当たり前だあああぁっ!」
「じゃあ僕が真柴さんに告白してもいいよね?」
「ぬわにいいいいいいいいいぃぃぃぃ――――ッ!」
あ、ますます金髪が逆立ってきた。このままスーパーサ〇ヤ人3になったらどうしよう。でも面白すぎるからもうちょっとだけからかってみようっと!
「だってさ、真柴さんってすっごく可愛いんだもん! 僕さっき見て大好きになっちゃった! 君が好きなら同じ顔のよしみで譲ろうかと思ったけど、そうじゃないなら安心して告白させてもらうね!」
「マ、マジかよ!?」
「ん? もしかしてやっぱり好き?」
「だっ誰がだあああああああぁぁぁぁっ!!」
うーん、筋金入りの強情さだな……。
すぐ人の意見に流されやすい僕から見ると、その意固地さが少々羨ましいくらいだ。まぁからかうのはこれぐらいにしておこうっと。すでに覚醒しているから渾身のエナジーボールでもぶつけられたらたまらないし。
「それよりカツ、これからどうする? 手分けして真柴さんを探す?」
カツは少し考え込んだ。そして突然「シウラに行ってみようぜ」と言い出す。
「シウラって新杜浦に出来る予定の大きい公園のこと?」
「あぁ」
―― シウラとは、緑地都市を目指している僕らの住む新杜浦市が、グリーンベルト構想に基づいて開発を始めたエリアのことだ。
百ヘクタール以上の土地を綺麗な更地にし、人口の池とか川とか山、そして様々な木々を植樹して、市民が憩えるようなビッグな公園を作るらしい。予定されている高さが約二十メートル近くという、マジックガラスで作る「シウラマジックタワー」がその中でも最大の呼び物の一つだ。
最近、その建設が予定よりも大幅に遅れだし、工事を急ピッチで進めているとニュースで見た記憶があった。
「ヒナの奴、あそこのマジックタワーを見たがってたんだ。それにあいつ工事現場とか見るのが好きらしくてよ、重機が動いているのを見るとワクワクするんだと。わけ分かんねぇ趣味してんなって言ったら引っぱたかれたぜ」
僕はカツの話を聞いて吹き出しそうになった。なんだかんだで仲いいんだなぁ、ここの僕と真柴さんは。
「だからあいつ、それを見に行ったような気がする。もしそこにいなかったら別の場所を手分けして探そうぜ」
「そだね。急ごう!」
建設中のシウラは芽羊中学からそんなに遠くない場所にある。真柴さんが向かった可能性は確かに高い。僕らは急いでその場所に向かうことにした。




