【 3 】
「な、なんだってんだよ、いきなり泣き出しやがって……。お前はそういうキャラじゃねぇだろうが……」
僕の横ではまだブツブツとカツが独り言を言っている。もう僕が何者なのか確かめるのも忘れているようだ。真柴さんがいきなり泣き出しちゃったことに相当驚いたんだろうなぁ。
「あのさ、真柴さんに謝ったほうがいいよ。今のはちょっとひどすぎるもの」
すぐ横から声をかけられ、カツはようやく僕のことを思い出したようだ。だけど横目で僕を見るその視線にもう怒りの色は無かった。それよりも動揺の方が遥かに上回っているからだろう。
「そんなに俺、あいつにひどい事を言ったか?」
「言ったよー! 大体真柴さんはおかっぱブスなんかじゃないもん。それに胸のことをあんな風に茶化すなんてさ。負け組だなんて言い過ぎだよ。真柴さんも自分の胸のことを気にしていたから君にあんな事言われてショックで泣いちゃったんじゃん」
「……」
拗ねたように口を尖らせ、前を向いて黙り込むカツ。そっぽを向いたツンツンな金髪が朝日を浴びてキラキラと輝いた。
「ねー真柴さんを追っかけて謝りなよ。後になればなるほど謝りづらくなるもんだしさ」
「俺があいつに謝る? やなこった! 絶対に謝んねーぞ!」
「へー謝んないんだ? じゃあ君はこれから先、真柴さんとはずーっと口をきいてもらえなくなるだろうねー」
僕の言葉にもカツはそっぽを向いたままだ。でも固めた両拳がさらにギュッと強く握りしめられたのを僕は見逃さなかった。
「ふーん、ま、それでもいいならいいんじゃない? 真柴さんを泣かせても心が痛んでないようだし、嫌われたって問題なさそうだもんね。僕には関係ないし、じゃさよーならー」
「お、おい! 待てよ!」
焦った声でカツが僕を引き止めて来た。うん、予想通り。そこでわざと思わせぶりな言い方をしてみる。
「もし君が謝るのに手を貸してくれ、っていうんなら、偶然にも似た顔を持つ者のよしみとして協力しようかと思ったけどさ、真柴さんに嫌われても別にいいんでしょ? なら僕、これでも結構忙しいからここでさよならさせてもらうよ」
「ちょ、ちょっと待てって!」
カツが素早く僕の前に回り込んで行く手を阻んできた。
「どうする? 僕、協力した方がいい?」
「…………」
僕から目を逸らして悔しそうな顔をするカツ。
えーここまでお膳立てしてあげたのに「うん」って言わないのかよー。しっかし素直じゃないなぁ、ここの僕はさ。
カツのタイプはきっとあれだ、好きな子に優しく出来なくて、でも気にはなるからついついイジめちゃうタイプなんだろうな。まったく何やってんだよ、もう僕らは小学生じゃないってのに。
たぶんこの世界の僕の性格なら「頼む」なんて間違っても言わないだろう。しょうがない、僕から誘ってやるしかなさそうだ。
「じゃあとにかく学校に行ってみようよ。まずは真柴さんを探さなくっちゃ。そんで二人で一緒に謝ろ?」
「あ、あぁ」
ほーらね、あっさり乗ってきた。なんか僕、段々と恋愛に関する空気を読むことに長けてきたような気がするよ。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
こうして真柴さんへの謝罪に向けて急遽コンビを組むことになった僕らは、芽羊中学に向かって並んで歩き出した。
「ね、カツ」
僕はこの世界の僕のことをそう呼んだ。勝利、というより、カツ、と呼ぶ方が本当にピッタリだと思ったから。
僕が気軽に名前を呼んできたのでカツは一瞬不快そうに眉間に立て皺を寄せたけど、その事については特に何も言ってこなかった。
「……お前はなんていう名前なんだ?」
「勝利だよ」
「マジか!? 俺も勝利って言うんだぞ!? 顔もこんなに似てて名前まで一緒なのかよ!?」
「あ、そうなんだ? 偶然ってたまに驚くぐらいの現象を引き起こすものなんだね」
もう一から説明するのが面倒だったので、話しを適当に合わせてうやむやにする。なんかこっちの僕って頭悪そうだし。
「ねぇカツ。その髪、そんな色に染めて大丈夫なの? 校則に引っかかるんじゃない?」
「全然だぜ? ウチの中学はこの辺じゃ一番校則が緩みまくっていることで有名なんだ。……っていうか、お前芽羊じゃねーのかよ? うちの制服着てんじゃん」
「転校してきたばかりなんだよね」
あまり考えずに嘘がポンポン出てくる。
僕、口も少し上手くなってきているのかもしれない。
「転校生か。道理で見たこと無いツラだと思ったぜ。こんなによく似てるのに今まで気付かないなんておかしいもんな。……おい、お前、鞄はどうした?」
「家に忘れてきちゃった」
「は? バカだなお前! 鞄忘れて登校するつもりだったのかよ?」
「うん、だから後で家に取りに戻るよ。それよりこれからのことだけど、学校の中には君が一人で行ってさ、真柴さんを呼んでおいでよ。僕らが二人揃って学校の中に行くと皆に騒がれそうだし、できるだけ目立たないほうがいいと思うんだよね。だって謝るわけだし」
「俺があいつを呼んでくるのかよ!?」
「うん。だって君が原因じゃん」
「お前が行けっ!!」
「なんで?」
「俺が行って素直にあいつがついてくると思うか!?」
あ、そうか。それもそうかもしれない。
「そだね。じゃあ僕が行って適当な理由をつけて呼んでくるよ。君は学校の外で待ってて。真柴さんのクラスは一年何組?」
「二組だ」
「ちなみにカツも同じクラス?」
「あぁ、俺も二組だ」
やっぱりか。この世界も僕らのクラスは同じなんだね。
さてさて、じゃあ張り切って行きますか!




