【 2 】
はぁー、不良みたいな僕にビックリしたけどやっぱりここもパラレルワールドかぁ……。
時間が惜しいから先に進むことにしようっと。そう思い踵を返した途端、背後から鋭い声が飛んでくる。
「おい!! そこのお前!! 止まれ!!」
カツの声だ!
怯えた僕はビクン、と体を強張らす。もしかして顔を見られちゃったのかな!?
とにかく僕は時間が惜しいんだ! あんな怖そうな僕の相手なんかしていられないよ! さよならっ!!
「てめぇ何逃げ出してやがんだっ!! 待てっつってんだろうがぁ――っ!!」
カツのドスの効いた怒り声が僕を追いかけてくる。
必死に逃げる僕。だけど笑っちゃうくらいあっさりと捕まってしまった。
足、速っ!!
こっちの僕は運動神経がとってもいいみたいだ。羨ましい。
捕獲した僕の右肩を乱暴に掴んだカツはグイ、と僕の体を無理やり自分の方に向けさせる。
「お前誰だ? 俺の親戚か?」
あぁまたこの台詞だ。もう聞き飽きちゃったよ。
「親戚じゃないよ。僕は君なんだ」
「お前バカか?」
カツは僕の右肩を掴んでいる手にギシッと力をこめる。
「いっ痛い!」
「くだらねぇ嘘を言ってねぇで白状しろ! お前は誰だ!? なんで俺に顔が似ているんだ!? 紛らわしい顔をしやがって! さぁ言え! さっさと言わねぇとお前の顔面をボコボコにぶん殴って見られねーぐらいのツラにし……」
ここで “ ボゴッ ” とかなりいい音が鳴った。
僕らを追っかけてきた真柴さんが持っていたスクールバッグを真横に振り抜いてカツの側頭部を思いっきり殴ったのだ。うわぁ真柴さんかっこいいー!!
衝撃でよろけたカツは僕から手を離し、後ろにいる真柴さんに向かって怒鳴りつける。
「いっ……てぇな!! 何すんだよヒナ!?」
「あんたが一般ピープルさんに道端で理不尽な暴力をふるうのを止めてやったんじゃない! ありがたく感謝しなさい!」
「毎度毎度でしゃばりな女だな! 俺に構うんじゃねーよ!!」
「ダメッ! カツ、絶対にその人に暴力ふるうもん! その人に話があるならあたしも一緒に聞く!」
「なんでお前が首を突っ込んでくるんだ! いいから行け! 河童みてぇな頭しやがってこのおかっぱブスが!」
うわわっ、そんなこと言っちゃっていいの!? 真柴さんは全然ブスな人なんかじゃないのに……。
あ、ほら、真柴さんの顔つきが変わっちゃったじゃん。絶対怒ってるよ、あの顔は……。
「おかっぱブスですって……!」
気色ばんだ真柴さんの目の色が怒りの色に変わってきた。するとカツはヘラヘラと笑いながらますます真柴さんに向かって言葉の暴力をふるう。
「おう、お前はおかっぱブスだよ! それになんだ、その胸? お前、女の癖によ、そんな平べったい胸でよく恥ずかしくないな。お前本当に女? つーかマジ男じゃね?」
うわわわわっ、そんなことまで言っちゃって、だ、大丈夫なの!?
た、確かに真柴さんは元々そんなに胸が大きい女の子じゃないけど、っていうか正直かなり小さいけど、でも一応それなりに膨らんではいるよ。だって僕、一つ目のパラレルワールドでポニーテールの真柴さんに抱きつかれたことあるから分かるもん。
でもこんなこと言ったら今度は僕が不審者になっちゃうよなぁ……。うん、今は真柴さんのフォロー役に回るのは止めておこう。
あ! 真柴さんの両肩がふるふると震えて出し始めてる! スクールバッグを持った手も!
カツ! このままだとまたさっきのカバン爆弾が飛んできちゃうって!
それに僕らはまだ中学生になったばかりだから、真柴さんの胸だってまだ本気を出してないだけかもしれないじゃん! 謝ったほうがいいよ!!
だけどすぐ側でハラハラしている僕の気持ちなど知りもしないカツはまだ真柴さんにしつこく絡み続けている。
「しっかしお前って勇者だよなぁ! 女なんて胸があってナンボの生き物じゃん? 俺がもし女だったらよ、そんなあるかないか分かんねぇくらいの胸なら恥ずかしくて外を歩けないぜー? もしそれ以上でっかくならなかったらお前の人生完全に終わったようなもんだよな! 負け組み確定じゃんかよ!」
あわわわわわわわ、ぼ、僕っ、今この場にいるのがとってもとっても怖いですッ!
とうとう俯いちゃった真柴さんの怒りの震えはもう全身を覆っているし!
こ、怖いっ!! 怖いよーっっ!!
「カツ……」
ボソリと真柴さんの口から低めの言葉が漏れる。
「お! 来るか! 来いよ!」
カバン爆弾に備えてカツが防御のファイテングポーズを取る。
真柴さんはキッと顔を上げた。その顔を見て僕たちは二人とも声を失う。
「ひどい……ひどいよ……」
ぽろぽろとたくさんの透き通った涙が、真柴さんの両の頬を尽きることなく流れ出している。
「あたしだって気にしてるのにっ……!」
真柴さんは人目もはばからずうわぁああんと大声を上げて泣きながら学校に向かって走り去って行ってしまった。その両頬から落ち続ける大粒の涙が朝日にキラキラと反射して何粒も何粒も地面に散って行くのが見える。
「な、なんだよ……なんで泣くんだあいつ…………?」
僕の横でアホの子みたいにポカンと口を開け、走り去っていく真柴さんを見ているカツ。
今のは恐らく僕に言ってるんじゃないんだろうな。たぶん無意識に自問自答しちゃってるんだろう。
僕はそんなカツの横で大きくため息をついた。
……だってこのまま三人目の僕を放っておいて次の世界になんて行けないよ。




