第9話 柳楽軍団
今日は行きつけのファミリーレストランの初夏の贅沢パフェフェアが始まる日。
俺、柳楽雄大は日課のランニング終わりに店に入り、一人ひっそり目当てのパフェを堪能して、静かに自宅に帰宅するはずだった。
もちろん、週刊誌であんなことがあった後だ、いつもより一層しっかりと変装はしていたし、席も人目のつかないところを選択、その点に関しては何の問題もなかった。
とにかく、一人静かに落ち着いた憩いの時間を過ごすはずだった。
そう。この、『高級完熟メロンとレモン&ココナッツの盛り盛りサマースプラッシュマウンテンパフェ』を味わいながら...。
それがだ...。
「やっべえ。食ってみろ、これ!!飛ぶぞ!!!」
「うぉー、これは効く~。効くぜ~!!たまんねぇ!!!」
「何だ。このチョコ!上物すぎんだろ、おい!キタキタキタキタァ!!」
「スーハ―...スーハ―...あー、やばい。脳が、脳が覚醒する。やばい。マジやべえ」
「これはドーパミンがやべえ!刺激が強すぎて、もう半端なもんじゃ満足できない身体になっちまったぞ、おい」
それなのに、なぜか、なぜか俺は、一人ではなく今、パンチパーマや金髪、スキンヘッドなど、騒がしくはしゃぐ明らかに柄の悪い七人の男達と、同じテーブルを囲んでパフェを食べているカオスな状況...。
「.....」
大丈夫か?大丈夫だよな。通報とかされたりしないよな?
こいつ等、言動はバグっているけど、本当にただただパフェを食べているだけだからな。いや、本当に、ちょっとこいつ等おかしいぞ。マジで裏で変なもんやってないよな...。
「柳楽さん。シェアしましょう!俺たちのパフェも一口でも二口でも食べてください!」
「あ、ありがとな。ただ、もうちょと静かに頼む。静かにな」
「あっ、配慮が足りずにすいやせん!!コラァ!テメェ等、柳楽さんに迷惑かけてんじゃねえぞ、バカ!」
「ちょ、いや、叩くのは駄目、叩くのは」
いや、本当にちょっと、色々と予定と違いすぎる。
本当、今が天気のいい昼下がりということもあって、店内が空席だらけのガラガラなことだけは幸いだ。
実際に覗くように店内を見回しても、ほぼ人はいないに等しい。
俺らの姿が見える位置に座る人物もみる限りでは、俺らと対面の位置に座る一人の男性ぐらい。
その一人に関してもだ。今チラッと様子をあらためて見てみると
「Excellent!ええ、2,000億ですね。買います。買いですよ」
さっきから時たま、どこかの誰かと電話で凄い金額のやりとりをしている様子の、スーツの胸ポケットに凄く高そうな万年筆が挿されている、いかにも頭の良さそうな眼鏡とスーツ姿のインテリ系の男性が一人、スマホ片手にゆったりと珈琲を飲んでいる。
何だろう。彼は言動的に外資の証券マンとか、そういう関係の職業の方だろうか?少なくとも週刊誌等の記者ではなさせうだし、俺らに興味がありそうな素振りも全くないから、そこは安心だ。
あと、その頻繁に指パッチンをするのは癖だろうか。まぁ、別にそれはどうでもいいか。
「いやー、でも柳楽さんとこうやって飯食うのは久しぶりっすね」
「そうだよな。俺らもようやくこの仕事で飯食えるようになってきたけど、駆け出しの頃は柳楽さんにずっと飯食わせてもらって何とか生きてたようなもんだもんな」
「いや、マジでそう。俺らみたいなのに中々声かけてくれる先輩なんていない中、柳楽さんはしょっちゅう気にかけて俺らに声かけてくれてたもんな」
「ああ、柳楽さんがいなかったら、俺ら食えなくてまた悪い方の道におそらく手を出してしまってましたよ。柳楽さんにはマジで感謝っす」
「いやいや、大したことないって。大げさ大げさ」
そう。大げさだ。
逆に、あの頃は、いや、今もかもしれないが、悲しくも声をかけて一緒に飯に来てくれるのがむしろコイツらだけだったという話。
あと、役の幅を広げるために、元ヤンだったコイツらからそっち方面の話を色々と取材も含めて聞きたかったり観察したかったのも大きかったから、あの時の飯代は半ば取材費のようなもの。だから大げさだ。
そして、肝心の、一体コイツらが誰なのかという話だが、そう。
全員、同じ事務所の《《後輩》》だ。つまり俳優仲間。それも、この人相からわかるように悪役側の。
たまたま、俺が店に入ったところを見ていた一人の後輩が、後ろから一緒に入ってきて、そこから誰が呼んだか、気がつけばどんどん増えてこの状況。
「......」
ただ、俺がパフェを食ってるからって、全員が俺に合わせてパフェを食っている理由はマジで意味がわからない。俺は何を食ってもいいって言ったのに...。
本当に、幸いにも店がこんな閑散とした状況だからいいけれど、凶悪面した良い歳した八人の大人が、全員でただただ、パフェをつつきながらキャッキャッとはしゃいでいるこの光景はある意味では覗いてはいけない深淵その者だろ...。目も当てられんぞ。こんな光景が世に流れようものなら、色んな意味で人生が本当に終わることだろうな...。マジで人が全然いなくて助かった。
「......」
でも、まぁ、各々が仕事の都合とかで確かにこんな感じで一緒に飯を食うことはこの頃は中々、無かったから、とりあえず皆が元気そうなことがわかったことはいいことだとは思う。普通にパフェも美味いしな。当たりだ。
「ところで柳楽さん。女はどうなんっすか。女は?」
「え、女?相変わらずいないな」
「えー、なんでっすか。マジでもったいないっすよ、柳楽さん。俺が女なら絶対に柳楽さんいきますよ。俺が紹介しましょうか。どんな女がタイプっすか」
「いや、大丈夫だ。フッ、俺にとってはこの仕事が恋人だからな。気持ちだけもらっておくよ」
そう。俺はあらためてこの仕事に骨を埋めることをつい最近また決意したところだ。
「「「「「「......」」」」」」」
い、いや、ちょっと待てよ。その、ついに頭おかしくなったかこいつみたいな、悲しそうな表情やめろ。いますぐやめろ。さっきまで騒いでたくせに何で今ので静かになるんだよ...。
「あ、で、でも柳楽さん、俺、知ってますよ。最近また柳楽さんに新しい波が来てますよね。本当にさすがっすよ」
「え、ああ、そうだよな。さすが柳楽さんだよな。ほんと最高っすよ」
いや、その沈黙を破る為に頑張って話変えました感もやめろ..。やめてくれ。逆に心が痛い。
ただ、まぁ、そうか。フッ、新しい波...。同じ俳優仲間だもんな。もう噂はこいつ等には流れているということか。
そう。こいつ等が言っているのは、間違いなく、ネットリフックスで配信予定のドラマ。この俺、柳楽雄大が出演予定の『リキッドマン』のことだろう。
まぁ、あれだけ有名な監督が力を入れて撮る作品だ。当たり前だなと、俺もついニヤリと表情が緩んでしまう。
よし、ちょうどいい機会だし、この際だ。景気付にバーッと行くか。
「よし、もしよかったら。今晩は俺の奢りで皆で高級な焼肉でも食いにいくか!!」
こことは違って、夜の高級焼き肉店であれば、こいつ等と一緒にいるところを万が一週刊誌などに撮られても何の問題もない。むしろプライベートでも任侠映画のそういうワンシーンぽい生活をしていると知れ渡って、拍がつくまであるからな。
「マジっすか。さすが柳楽さん。太っ腹っす...と言いたいところですが、俺もう少ししたら撮影があって...」
「すみません。俺もマジで行きたいんですが、撮影が入っていて...」
「本当に申し訳ございませんっす。柳楽さんからのお誘いを断るなんて言語同断なんですけど、お、俺も、仕事が...糞、糞、くっそ!!!!柳楽軍団の一員として本当に面目ないっす。」
「い、いや、そんな軍団は無いから。あと、そうだよな。皆も最近、仕事いい感じに波に乗ってきてるもんな。よし、また今度タイミングがあった時に皆で行こう。絶対に」
まぁ、こればかりはな。仕方がない。若干寂しくもあるが、仕事が入っているのはこいつ等が売れてきている良い証拠だ。むしろ喜ばしいこと。
「......」
でも、あれだな。『リキッドマン』の初回打ち合わせがバラシになってもう数日経つが、まだリスケ後の打ち合わせの日程連絡が来てないな。ちょっとまた桐谷さんに確認するか...。
あと、逆に昨日連絡があったけど、結局のところ決まってしまったあの話。
『おはようTV』の高崎 華アナとのロケの日程が再来週の水曜日に決まった件、マジでどうしよ...。いや、本当に。もう絶対に断れないみたいだし...。
俺、ロケとか初めてだから右も左も全然わからないし、もし立ち回りをミスしようものならまた、前の生放送の時みたいに悲惨な...
「.....」
い、いや、今回は生放送じゃないんだし、大丈夫だよな。
そうだよ...な。
「.....」
あと、何だ...。
いや、俺達も結果として騒がしくしてしまっているから何も言えないし、元から言うつもりもないけど。
対面のテーブルのあのエリートっぽい人...。
相変らず、指パッチンがちょっとうるさいな...。
やっぱり癖だな。あれ...。
何だろう。身体がリズムを刻んでいる感じで嬉しそうに揺れているし、良いことでもあったのかな?
「.....」
ま、俺は俺でパフェも美味しかったし、とりあえず出るとするかな。
あぁ、楽しかった。




