第8話 裏の顔
はぁ、胃が痛い。
「おい、番場ぁ!!!!テメェ、仕事が遅すぎるぞコラァ!!あんな売女とのいざこざの示談にどんだけ時間かかってやがんだボケ!!」
そして、まただ。神宮司 大翔。またの名を爽やか王子。
俺、番場 二郎がこいつのマネージャーになってもう何年経つのだろうか...。
いくら大手男性アイドル芸能事務所、フォニーズ所属のトップアイドルとはいえ、最近は色々とこいつの行動は限度を超えている。
今回のこいつの不祥事の火消しであってもだ。どれだけの労力が俺達に掛かったと思っているのだろうか。これまでも散々こいつのお痛をもみ消してきが、今回、外に情報が洩れてしまったように、ここまで派手にやらかされてしまうと、もうそろそろ事務所の力だけではメディアのコントロールもできなくなってきているのが現実だぞ。
「しかもだ!!番場ぁ!!!!高崎 華とのロケ、それに花村 凛とのCMまでバラシになってるって、お前これどういうことだ。マジでありえねぇぞ。お前ら、俺のおかげで飯食えてるってわかってるよな!!!!ちゃんと説明しろ、コラ!!!!」
そしてだ。今回の不祥事は公に問題になったんだ。少しは反省して、大人しくなってくれるかと思っていたら、これだからな。
今も、事務所のイギリス産の高級ソファの上でふんぞり返りながら、目の前の机を盛大に蹴り飛ばした神宮司の姿が俺の目には映る。本来ならばクビでもおかしくないレベルのことを他にも色々とやらかしてきているこいつだが、噂では事務所の社長のそう遠くはない親族の一人という話も上がっており、それが今もこいつが大きな顔をしていられる理由としては信憑性がかなり高い。
今回だって、何とか強引なメディア操作でイメージダウンを最小限に食い止め、芸能活動を休止しなくて済んだだけでも恩の字のはずだろう。ほとんどのレギュラー番組だって、何だかんだで俺達が寝る間も惜しんで尽力したおかげで残っている。感謝をされる覚えはあっても、こんな感じで罵倒されるいわれは少なくもないはずだ。
「はい、説明いたします。まず、おはようTVの高崎アナとのロ「おい、コラ!!!言い訳は聞いてねぇんだよ!!!!番場!!!!ロケもCMも取り返せるかどうかっていうことを聞いているんだよ!!!バカが!!!!」
はぁ、いや、取り返せるわけないだろう。そもそもがお前の我儘を何とか通して、元々他の俳優やアイドルがキャスティングされていたものをかなり強引な手段でぶんどってきたロケとCMなのに、こんなことをやらかしやがったんだからな。無理に決まってんだろ。
本当にこれのどこが爽やか王子なんだよ。こんなの、どこからどう見てもただのパワハラ愚王だろう。
それに、ただただ一人で暴れてくれるならまだしも、最近は事務所内の気に入った他のグループの後輩を連れまわして軍団を作り、さらに女遊びなどに歯止めが利かなくなっているし、気に入らないタイプの後輩には露骨にパワハラみたいなことをしている姿が、その部分は既に編集で消されているが、事務所のyoutubeチャンネルにも映って、一部のファンの間で問題になっていたところ。本当に存在が害悪でしかない。
そう。自分より人気のある後輩アイドルは露骨に潰そうとするし、自分が中心になれない空間で露骨に機嫌が悪くなる最低なガキ。これでもう30歳なんだろ?本当に勘弁してくれよ。
今回の件も相まって、最近は自分の人気が露骨に落ちてきていることがわかっているからか、もう手のつけようがないほどに暴れ散らかしているときた。
「おい!!!聞こえてんのか、番場!!!もちろん、ロケもCMも取り返せるんだよな!!!!」
だから、無理に決まってんだろ...。
はぁ、こいつのせいで何度この仕事を辞めようと思ったことだろう。一応、俺はチーフマネージャーということもあって、他のアイドルの受け持ちもある。あいつ等の存在がなければ絶対に既に俺は辞めているだろうが、あいつ等を放ってどこかへ行くことだけは避けたくて、何とかここに踏みとどまっている状況だ...。
「いえ、率直に申し上げますと無理です。両方とも別の者がもう内定されています」
「あぁ?誰だよ、そいつ等あああああ!!!!!」
はぁ、心の中のため息がとまらない。
この状況をボイスレコーダーで録音して外に流してやろうか。いや、厳密に言うと、保険に録ってはいる。録ってはいるが、それを流すことは実際にはないであろうことが事実。
なんせ、こんなもんが外に流出した際には、おそらく今ここにいるマネージャー全員のクビが飛ぶ。いや、比喩ではなく、社会的におそらく一生...
「はい。両方とも柳楽 雄大という俳優です...」
「あぁ?誰だよ、そいつ!!!!知らねぇよ。どうせ三流だろ!!!!何とかしろよ!!!!!」
いや、お前のせいで中断しているドラマの宿敵役、ある意味ライバル役だろうが...。
何が知らないだよ...。共演者として名前ぐらいは憶えておけよ。
しかも、彼は最近では別の意味でも話題になっていた人物だしな。
それにしてもだ。好みの女の名前は共演していなくてもすぐに覚えて無茶を言ってくるくせに、本当にこいつは...。
「とにかくだ!!!!番場!!!そいつから俺のロケとCMを絶対に取り返せ!!!!!!いいな!!!!!」
「いや、本当に申し訳ございませんが、今回ばかりは...」
そう。絶対に無理だから。
「コラァ!!!!バカかお前は!!!!!!その猿よりも小さい脳みそ少しは働かせて考えろよ!!!!何で俺がこんな目にあってわからねぇんだ!!!!!売れ!!!!!そいつの粗や不祥事を少しでも探して、とにかく週刊誌に売りまくれ!!!!SNSにバラまきまくれや!!!!俺でもこんなことになるんだから、他の雑魚なんて、叩けば絶対に埃の一つや二つ、すぐに出てくんだよ!!!!!で、そいつの評判を落としに落とせば!!!!!自然と俺にその二つの仕事は戻ってくるだろうが!!!!!!とにかくそいつを見張って見張って見張りまくれぇ!!!!」
はぁ、戻って来ねぇよ...。
あと、戻って来ねぇと言えば、こいつのせいでもう何人もマネージャーが辞めて入れ替わり立ち代わりしているし、本当にしんどい...。
今も俺を含め、この部屋にこいつのマネジャーとして五名が配置されているが、うち三名は最近また入れ替わりで入ってきた中途採用者ときた。仕事はできる奴らだが、チームワーク的な部分ではまだまだ上手く連携がとれない部分がある。
そしてとりあえず、神宮司は激昂を抑えきれずに手に持っていた吸いかけのタバコを投げ捨てて、部屋から勢いよく出て行ったが、本当にこの光景をファンやスポンサーに是が否でも見てもらいたいものだ。本当にあいつは、事務所の売れている先輩アイドルやカメラ、スポンサーの前では徹底的に爽やか王子を演じきる清々しいほどの屑だからな...。そういうところが、とにかく質が悪い。
ただ、さっきの話。絶対に無理とはいえ、形だけでも何かは行動しないとまた、手のつけらないレベルでとてつもなく奴が五月蠅くなることは目に見えている。
しかし、皆、常に忙しくて寝る間も惜しんで今もフル稼働している状況だ...。
一体、どうすればいい。
「......」
まぁ、仕方がない。こいつに任せるか。ちょうどいい。厳密に言えば、皆が皆、フル稼働しているわけではないからな。
「おい、小泉。王子のさっきの仕事聞いてたよな。お前に任せるからしっかりやってくれ」
そう。今も隣にいるマネジャーの一人、小泉に任せることにする。
こいつは、入れ替わりの激しいこの事務所の、しかもあいつのマネージャーとして、今年で働いて既に4年目になる稀有な存在。確か年齢は今年で25歳だったか。
「承知しました。あぁ、なるほど。私がアサインすることで彼のシナジーを最大限にブラッシュアップするということですね。納得しました。アグリーです」
今も、何故か俺の耳には指パッチンの音が聞こえてきたが、基本的にトップ級の人気グループにはチーフを抜くと一人に三人のマネージャーがつくことになっている。だが、神宮司には四人もマネージャーがついている。その理由は、つまりそういうことだ。
ただ、一応、この小泉という男。メンタルと体力だけは化け物級だ...。
つまり、まさに今がこいつの使い時。
「いや、何言ってんのかわからないけど、とりあえず、今から一週間ぐらいでいい。柳楽 雄大に朝から晩まで常に張り付いて、できればデカいゴシップとかの方がいいけど、とにかくいくら小さくてもいいから粗を探して、週刊誌に報告したり、匿名のアカウント使って、バンバン写真とかの証拠と共にSNSにバラまきまくれ。それがお前の仕事だ。一応、王子に言われた仕事をしっかりとしたという証拠を残すためにもしっかりな。あと、絶対に足がつかないようにやれよ。それだけは徹底的にな」
一応、こいつもこれぐらいの仕事ならしっかりとこなせるはずだろう...。
「はいはい。つまり、ターゲットである柳楽 雄大の裏の顔をとにかく私に暴きまくれということですね。そして世間にひたすらサプライすると。私、小泉にかかれば実にeasyな仕事です。お任せください」
そして、いつも思うが、こいつ。一応、見た目は悪くないし、何故かかなり堂々としてもいる。そして、細くて尖がった高そうなブランドの眼鏡やスーツを着用して、いつも意味もなく難しい顔をしていて頭もキレそう。
なのに、何で本当にこんなに残念なんだろう...。
何でいちいち喋る度に眼鏡を指でクイっとしたりするのだろう...。
見た目はめちゃくちゃインテリ系なのに、中身がめちゃくちゃ脳筋の体力系なのも何でなんだろう...。
あと、無駄に声がイケボなのも何でなんだろう...。
そして、一番の謎は、いくら人手が必要とはいえだ。何で会社はこいつを採用したのだろう...。
やっぱり、メンタルと体力か?あと、無駄に仕事ができそうなこの雰囲気に騙されたのか?
まぁ、とにかくだ。今はそんなことはどうでもいい。
「ああ、任せたぞ。小泉。わかったらさっさと行け。今すぐ仕事に取り掛かれ!!!終わるまではこっちには戻って来なくていいからな!!!!しっかり頼んだぞ!!!」
「はい。受けた依頼は必ずやり遂げる。それがプロのプライドってもんです」
はぁ、何かまた、無駄に雰囲気だけだして、部屋を静かに出て行った小泉だが、まぁ、とりあえず、さっき言われたその仕事はあいつに任せることができたし、俺はまだ残っているあいつの不祥事の火消しに走るとするか。
本当に身体がいくつあっても足りないとはまさにこのことだろうよ。
「......」
あれ...
さっき、確か小泉。『柳楽 雄大の裏の顔をとにかく私に暴きまくれということですね』とか言ってたっけ...。
「......」
いや、さすがにな。さっき神宮司が話をしていた場面にも奴はしっかりと俺と一緒に同席していたわけだし、あの話の流れ的に《《裏の顔》》の言葉の意味はちゃんと理解しているはずだよな。うん。それに関してはおそらく小学生でも間違わないはずだ。いくら小泉でも、あの話の文脈的に間違えようがない。
本当に、俺はちょっと王子のせいで、最近はあまりにも神経質になってしまっているようだ。さすがにそれに関しては大丈夫に決まっているから。
よし、一瞬だけ休憩して俺もまた動くかな。
はぁ、それにしても、俺もよくこんな環境で身体がもってるよな...。
ま、ウダウダ言っていても仕方がないか。
うし、行くぞ。お前ら。




