第28話 エナジーバー君
あぁ、今日のロケがあいつじゃなくて柳楽さんで本当に良かった。
「おい、大塚。お前、何を呑気にエナジーバーなんて食ってんだ。さっさと次の準備をしろ」
「はい。かしこまりました!」
そう。ちょうど今、先輩から名前を呼ばれた僕は、以前に柳楽さんから某スタジオでエナジーバーを恵んでもらったADの大塚 洋平。
今日で彼、柳楽さんと会うのは二度目となる男。
そして今回、さっき彼がここに到着して車から降りられた後、オープニングを撮る場所まで、この僕が案内したのだが...
本当に感激した。
まさかの、柳楽さんは一度、それも一瞬会っただけの僕のことを覚えてくださっていたのだ。
『おぉ、お久しぶり。ハハ、よかったら今日も俺のお気に入りのこれあげるよ』
そう言って、今回もまた、彼は僕にエナジーバーを恵んでくださったところ。
正直、エナジーバーをまたくれたことも嬉しいが、何よりも、あの彼が僕みたいな、ただの下っ端ADのことを覚えてくださっていたこと。それが物凄く嬉しい。嬉しすぎる。
「......」
それにしても、本当に何だ。柳楽さんのあの強面から繰り出される...
ギャップのありすぎるクシャっとした可愛い笑顔は...。
あんなの反則だろ...。
男の僕でも、あれを直にくらってしまって、普通にドキッとしてしまったからな。
それに、彼は身長も高いし、脚も長くてスタイルがいい。そしてあの広い背中。隣にいるだけでも安心感が半端ない。捲った服から見える腕の筋肉もかなりセクシーだ。
しかも、実際、かなり性格も優しいし、正直、僕が女なら間違いなく柳楽さんに惚れていたことだろう。
「......」
本当に、あらためて神宮司の野郎とは大違いだと思ってしまう。
そう。あいつはマジで逆のギャップがすさまじかったからな。
実際、僕なんて後ろから奴に陰湿に蹴られたこともある。
だからこそ、今回のキャスティグが、予定変更で柳楽さんになって嬉しいのだ。
おかげで、本当に今日は物凄く皆が伸び伸びとしていて、撮影が平和で良い雰囲気。
「......」
でも、そういえば、柳楽さんがさっき僕の方に近づいてきて、『さっきのドッキリのネタバラシっていつ頃されるか、知ってる?』って、コソコソと話しかけてきた件。
あれは一体、何だったんだろう...。
ドッキリを今日、柳楽さんに仕掛けるなんて話は聞いていないし、念のためにさっきディレクターにも確認してみたが、そんな話はないと言われた。
「......」
まぁ、よくわからないし、それは一旦おいておくとしてだ。それにしても、高崎アナ。
さっきから、見るからに柳楽さんにボディタッチを連発しているな...。めちゃくちゃ楽しそうだし、あんな感じで彼女から話しかけられたら、僕なら絶対に一瞬で惚れてしまうことだろう。
それを柳楽さんは、全く表情変えずに...。
本当に凄いな。カッコいい。
「......」
いや、あれ。柳楽さん...。表情は変わってないけど、何か顔が赤くないか?
それに、高崎アナは柳楽さんの目を積極的に覗きこむようにして話をしているのに、一方で柳楽さんは彼女と全然目を...
「.....」
いや、気のせいだな。
いくら彼にその見た目とのギャップが多いとはいえ、柳楽さんほどの男が、そんな僕みたいな童貞ムーブをかますわけがない。
「.....」
ただ、まただ。今まさに。
何だろう。さっきから、気が付けば、柳楽さんが、自分の顔の横で小さく手をヒュンヒュン挙げている光景が目には頻繁に飛び込んでくる。あれは一体何だ?
あ、また挙げた。
「.....」
まあ、とりあえず、何か面白いし、声は今のところは彼にはかけないでおこう。
「.....」
でも本当に、僕は僕で頑張ろう。
そして将来、僕が上にあがって番組をもった際には、絶対に彼に番組に出演してもらおう。
よし、今日も一日頑張るぞ




