第29話 休憩中の男
あぁ、今のところは高崎アナのリードもあって何とかやれている気がする。
とりあえず、俺、柳楽雄大は今、午前中のロケが終わって休憩中。
既に色んな美味しいものも食べたが、まだ今日の俺の中のメインである幻のプリンには出逢えてはいない。
そして、ちょうど、高崎アナが別用で一瞬ではあるがマネージャーと現場を離れているため、俺は俺で、お土産屋をブラブラとひっそり見回っているところ。
「.....」
ただ、完全に油断をした。
そして、今でも、まだ信じられない。
そう。今日は特にすごい。
ロケってこんなにも周りの人から声をかけられるものなのか...。
「きゃああああ、柳楽さん!!!サインください!!!」
「きゃああ!!!握手してください!!柳楽さん」
「ファンです!!!!一緒に写真撮ってください!!!」
しかも、修学旅行中の女の子たちだろうか。
皆、まるで、まさかのこの俺のことを、トップアイドルかの如く扱ってくる光景...。
今はとりあえず、俺の周りには10人ほどの制服姿の女子高生たち。
本当に俺を誰か別の人と勘違いしているわけではないんだよな、これ。
でも、10人か...。
「......」
思い出すな...。かなり昔に夜、普通に焼肉屋で食事をとって店を後にしたところで、何か、ヤバそうな若者の男、10人ぐらいに囲まれた時のことを...。
確か、あの時はちょうどドラマで、当時大人気だった女性アイドルを殺〇する悪役を演じていた時で、結構色々とあった時期だった。
それに比べると、何だろう。この幸せな空間は...。
同じ10人でもこうも違うか...。色んな意味で涙が出そうになる...。
そして、とりあえず、状況的に俺は店の迷惑にならないように、彼女達を連れて外に場所を移したところ。
「......」
それにしても、俺のファン...。
少し前の俺ではこうなることなんて想像もつかなかった。いや、つくわけがない。
これまでも、たまにファンだと言ってくれる人はいたけれど、あれ?もしかしたら、そっちの世界の本物の人かな。っていう人が正直割といた記憶がある...。
当然、彼らも大切なファンではあるが、ちょっと層があまりにも変わりすぎていないだろうか...。
「......」
もちろん、いくら悪役俳優とはいえ、ファンは大事だ。時間が許す限り、サインはするし、握手もする。
でも、サインか...。
多分、俺が今までで一番してきたサインは警察官からの職質のサインだったけど...
これは、今日でその記録を真っ当なサインで更新できるかもしれない...。
いや、何か、自分で言っておいて勝手に悲しくなってきたな...。
「柳楽さん。筋肉触らせてください!!!!」
そして、聞こえてきた、その言葉に、とりあえず今日これでもう何度目かはわからないけれど、俺は近くにいる小泉マネージャーに小型ワイヤレスイヤホンで小声で判断を仰ぐ。
これはどうだろう...。
そして、返ってきた言葉は『GO!』
まあ、全然。俺も触ってもらう分には問題はない。触られて減るものではないからな。
とりあえず、今日の今までの感じからも、困ったときは小泉さんの指示に従っておけば悪いことにはならないだろう。
今日のこれまでの動きを見ていても、あの人はやはりかなりの有能な人材だと思う。
さすがアイドル事務所に元々いただけはある。色々と慣れている。
「きゃああ!!!凄い。今度は見たいです。筋肉見せてくれませんか!!!!」
「みたい。みたいです!!!」
「一生のお願いです。柳楽さん!!!」
そして、もう一度また、小泉さんに確認するも、これはさすがに...。
『GO!』
まじか。
まぁ、見られて恥ずかしい鍛え方はしていないけど...。
「「「きゃああ!!!!!!!!!!!!!凄い!!!」」」
何だろう。悪い気分ではないな...。
全然、悪い気分ではない。
悪い気分ではないが...。
「......」
何だろう。
さっきまで10人ぐらいだった女の子達の数が明らかに...。
10...20...30...4...駄目だ。数えられないぐらいに...。
「......」
やばい。
俺は俺で変なゾーンに入ってしまっていたのか、全然気がつかなかったけれど、これ。色んな意味でやばくないか。
どうする。小泉さん。
この数はやばいぞ。
もうすぐ休憩時間も終わるし、個人的には、そろそろ撤退した方が...
「柳楽さん!!!私、柳楽さんの大ファンなんです!!!お願いします!ほんとにちょっとでいいので一緒に踊ってくれませんか!!!」




