第27話 トラブル発生?
あぁ、ナビを見る限り、あと10分ほどで到着か。
とりあえず、俺は高速を降りて、番組サイドが用意したこの軽自動車で、ゆったりと今は道幅の広い国道を走っているところ。
特に道に迷うこともなく、スムーズにここまでは順調に進んでいる。
今までは役の為に免許を取ったりして、キャデラックなどの外車やスポーツカー、ハーレーダビッドソンなどのバイクやトラック等も仕事で乗ってはきたけれど、やはり、個人的には日本の軽自動車が小回りが利いて一番運転がしやすいと思ってしまう。
それに、助手席に座る高崎アナが、俺の話を笑顔で色々と広げてくれるおかげで、ここまで約1時間、正直、かなり楽しく、色んな意味で快適すぎた...。
今のところ、普通にいい人だな...彼女。いい人すぎるな。
ただ、俺があのドラマの主役?その点だけはどうも腑に落ちない。原作の小説から見ても、俺にあのコメディは無理だと思うし、やったこともない。だって、俺だぞ。全く役柄に似合わないだろう。うん。主役は絶対に高崎アナの勘違いだ。そうに違いない。
「柳楽さん、そう言えば、今日のロケでは何やら幻のプリンを食べることができるみたいですよ。ふふ、プリンは好きですか?」
「もちろんです」
愚問だ。プリンなら俺は冗談抜きで100個でも200個でも食べられる。
「......」
って、何だ...。
車が一方通行の道に入った途端、さっきからずっとこの車の前を走っていた黒のワンボックスカーが急にブレーキをかけて止まっている。
もちろん、あんなところで止まられると邪魔で進めない。
かといって、バックもできない。
「.....」
何だ...。嫌な予感がする。確かに、今思うと、明らかにずっと前を走っていたあの車の挙動はおかしかった気がする。もしかして、一度、あまりにも遅すぎて抜いてしまったあれが駄目だったのか...?
すると、前の車からは、いかにもな刺青を身体に入れた、チンピラ二人組が乱暴に車から降りて、こちらに近寄ってくる光景。
「......」
マジか...。これやばくないか。
助手席をふと見ると、案の定、隣の高崎アナもその華奢な身体を震わせている。
「.....」
やばいな。一時期、煽り運転が社会的に問題になったりもしていたが、まだこんなことってあるのか...。
「......」
ん? いや、ちょっと待て。
「......」
あのチンピラ、ちょっと、あまりにもチンピラすぎないか?
片方は顔にまで刺青が入っているし、もう片方の両腕に刺青が入った方のスキンへッドも見るからに目がパキパキ...。
「......」
あぁ、そういうことか。
社長...。ありがとうございます。本当にありがとうございます。
そうか。よかった。何とか察することができて。
そう。ドッキリはドッキリでも、こういう俺にとってボーナスな《《ドッキリ》》もあるんですね。
要は、悪役俳優としての俺に、その狂気を見せつける場を作ってくれているというわけですね。少しでも名誉挽回をできる場を用意してくれたというわけですね。
あぁ....
「任せてください」
社長。しっかりとお茶の間に俺のプロとしての厳つさと狂気をあらためて見せつけてやりますよ。この絶好の見せ場、絶対に無駄にはしません。
そして、隣の彼女を見る限り、これは演技ではなく本気でビビっている顔。
ということは、俺も彼女も一緒にドッキリにかけられているということ。
「高崎さん、大丈夫ですよ」
とりあえず、そんな彼女に、状況を理解した俺は大丈夫だから余計なことはしないでくれという意味も込めて、優しく微笑みながらそう声をかける。
そう。パニックになられて警察でも呼ばれてしまえば、この社長が用意してくれたであろう俺の最高の見せ場が台無しになってしまうからな。一応、こっちもそれっぽく見せる為に、しっかりと車の全てのドアにロックをかける。
そして、そんなことを考えている間にも、もうこの車の傍にまで歩いてきているチンピラ達。
集中だ。集中。もうスイッチは入っている。
絶対にこの機会を逃すまいと、イカれたほどに顔面の眉間や口元などにこれでもかと力を入れる俺。
そう。目で殺す。あらためて言うが、目で殺す。
一流の悪役に言葉はいらない。本物は目で他を圧倒して殺す。
今回は本当にガチでいかせてもらう。
鬼の様に、般若のように、虎のように、俺の全ての技を駆使して、こいつ等、いや、お茶の間の人達をこの目で殺す。
集中、集中。集中...。
すると、ちょうど、俺の座っている席の窓がコンコンと叩かれる。
「おい、開けろ!!!」
よし、もう準備はできていると、俺はおそらく外の死角にあるであろう隠しカメラに、この顔面がしっかりと映るように、窓をゆっくりと全開にしていく。
「おい、コラ!!!兄ちゃんよお!!!!さっきか...さ、さっき、さっきかかかかかかか」
「は゛い?」
な、何だ...。
いや、おそらくシールではあるのだろうが、この顔面にまで刺青を入れている男...というか、俳優。
「......」
え、めちゃくちゃ演技上手いぞ...。
何だ。唇がその恐怖から痙攣する演技...。いや、ちょっと凄すぎないか。
どこの所属だ。
やばい。やばいぞ。俺も負けてられない。
もっと、鋭く、もっと凶悪に、もっと、邪悪に。
そう、殺す。目で殺しきる。俺は鬼。鬼神の如く怒りを目で表現しろ。
そう。血がでるぐらいに唇を噛みしめろ。
「あ?お前、何してんだよ。どけ」
そんなことを考えていると、もう一人の後ろにいたチンピラも、前の男を強引に押しのけて、その顔を俺の窓の前に。
「おい、コラッ!!!!テメェよお!!!さっきから俺らの車のま、え、お、おれ、おれらの、俺らの、お、俺らの...」
「は゛い?」
お、おお...やばいな。もう一人の方もかなり凄腕...。
何だ、この人達のこの演技力。
今も、俺の目には、さっきまで目がパキパキだった男が、今度はその目を泳がせている様子が映り込む。
本当に凄い。目の表現がそこまで器用に自由自在なのか...。
マジでこの人達、これまで俺とは一緒の現場にはなったことはなかったのだろうが、どこの事務所に所属している俳優だろうか。
俺にはわかる。間違いなくこれは熟練のプロの技だ。
そして、気がつけば、二人供、この車のすぐ傍で道路に尻もちをついている光景。
「.....」
すると、いつの間にか、急いでさっきまで自分達が乗っていた車の方に彼らが戻っていく光景も目には飛び込んでくるのだが...
やはり、プロだ...。
何だ。あの腰が抜けながら逃げる演技は...。
いや、言っては悪いが、二人供、こんなドッキリ番組の仕掛け人で収まる器ではない。本当に一体、何者だ...。
「......」
とりあえず、俺達の進路をふさいでいた車はもう行ったから、俺もあらためてエンジンをかけなおすが、ちょっと真剣に後でまた聞いておこう。彼らの所属先が知りたすぎてやばい。
お世辞抜きで今度はドラマや映画で共演したい。いや、本当に。
「ハハ、何か愉快な人たちでしたね。じゃあ、もうすぐ到着しますし、気を取り直して、あらためて出発進行しましょう」
まぁ、俺は俺で実力のある俳優達を相手にしたことで、自分自身の演技をさらに一つ上のものに消化できた気がして気分がいい。それに、一応、ドッキリのネタバラシはどうせ現地につくまではされないだろうから、隣の彼女を一旦落ち着かせる意味も含めて、微笑みながら、俺はそう高崎アナに言葉をかける。
「はい。ありがとうございます。柳楽さん」
そして何だろう、高崎アナ。そんなにまたじーっと見つめるように目を向けられると緊張してしまうのだが...。
ただ、とりあえずこの感じなら、警察等にはさっきの件で、彼女が通報とかはしなさそうで何よりだ。
「......」
それにしても、幻のプリンって...一体どんなプリンなんだろう。
楽しみだなぁ...。幻かぁ...。




