第26話 ドライブロケ
あぁ、本当に今日は絶好のドライブ日和だ。
そして、ちょうどたった今、車が高速道路に入ったところ。
「え、あの駅前のクレープ、柳楽さんも好きなんですか?私もすごく好きなんです。美味しいですよね!どのクレープが好きですか?」
「僕は最近は苺あずきスペシャルが好きです」
「うそ、私もつい最近それ食べました。めちゃくちゃ美味しかったですよね。味覚が一緒ですね!」
何だろう。とりあえずただ一言。
普通に楽しいな...。
キャラを考えずに女性と話せるのって、こんなに楽しいのか...。
ここ最近はそれなりに楽しく話をできる女性っていうのはマネージャーの桐谷さんだけだったからな。仕事とはいえ、かなり新鮮だ。
「あ、そう言えば、話は変わるんですけど。これは前から気になってたし、視聴者の皆さんも気になると思うんですけど、柳楽さんって、どういう女性がタイプだったりするんですか?」
えーっと、どういう女性のタイプ。
あ、そう言えば、これに関しては小泉マネージャーの作成した想定質問台本にあった内容だな。
確か、書いてあった内容は...。
【君みたいなタイプかな】
「.....」
ま、まぁ、ちょっとこれは、小泉君ならいけるのかもしれないが、俺にはレベルが高すぎて無理だな。あながち嘘ではないが、これは無理だ。
そう。正直、高崎アナは、もちろん別人ではあるが、片思いに終わった俺の初恋の人にめちゃくちゃ似ていたりはする。するけれど、無理だ。
「まぁ、優しくて、笑顔が素敵な人ですかね...」
そして、そう言って、とりあえず何の面白みもない無難な返事をする俺。
まぁ、別に視聴者は俺の好きなタイプなんて全くもって求めてはいないだろうから、問題はない。
「フフッ、私って、よく笑顔が素敵って皆から言われますし、優しいんですよ」
すると、気が付けばそう言って、隣から俺にニコニコと上目遣いで微笑みを向けてくる高崎アナの姿がチラっと横目で見える。
「.....」
何だ。こ、これはなんて返すのが正解なんだ。
あ、違う。今は右手あげても意味ない。まただ。今のなし。
「へぇー...」
と、とりあえずこれでいいだろう。クールな表情で上手く話しを受け流せてた。流せたはずだ。
「フフッ...」
何か、隣からクスクスと聞こえては来るが、空気自体は悪くなってはない。よって問題なし。
「.....」
まぁ、もう少しで現地へは到着するし、何だかんだでかなり心配していた二人きりでのドライブは無事に終わりを迎えることができそうだ。
やはり緊張はしたが、圧倒的にこれまでよりは気楽ではあった。
そう。社長からも昨晩あらためて連絡があって、俳優としてのお前に絶対にマイナスにはさせないから、明日のロケは素を出していけと言われているから、そういう面では今日は全然、気負ってはいない。
おそらく、ある程度、これまでの騒動で俺の隠していた部分が世間に露出してしまったようだし、今回のロケに関しては、あくまで本業に影響が出ないレベルで最終的には俺にとって都合のいいように編集するよう番組側とは話が出来ているということだろう。
実際、撮影はまだ先のようだが、新たに、俺がとあるドラマへ出演する話が決まったという話も聞いた。
何やら、腕っぷしは極道の中でも最強クラスだが、学力は小学生レベル以下の中卒ヤクザの若頭が、次期組長になる条件として現組長である父親から高校の卒業を命じられ、年齢を10歳以上サバ読みして私立高校に裏口入学するといった、バイオレンス要素もあるが、笑いあり、恋愛ありの割とコメディ色の強い学園ドラマらしい。
まだ、どんな役にキャスティングされるかは未確定の情報であるため、社長から伝えられてはいないが、個人的に推測する限りでは、おそらく俺は主人公に敵対するヤクザ組織の若頭といったところだろうな。
確かに、原作をチラっと見た限りでも、かなりの憎たらしい演技の必要そうな悪役ではあったし、全体的にはコメディ作品とはいえ、その敵役にはコメディシーンはなさそうだった。だから、悪くはない話だ。さすがに俺が主役ってことはあり得ない話だから、おそらくそうに違いない。
今回はこの話がドッキリではないことも念入りに確認済だ。
そう。やはり俺はまだ悪役俳優としては終わっていないということ。
「あ、そう言えば、柳楽さんが新しいドラマに出演予定の噂を聞いたんですけど、本当ですか?」
「え、あー、はい。まだ割と先の話みたいですし、一応、まだ確定ではないとは思いますが、そのような話はいただいてはいます」
そして、そんなことを考えているとまさにタイムリーな話題。
そうか。高崎さんの局で制作予定のドラマだから噂として話が耳に入ったということか。まぁ、おそらくここの会話は絶対にカットされるだろうし、普通に話をしても問題はないだろう。
「私も原作は知っているんですけど、今の柳楽さんに本当にピッタリの役だと思います。放映される日が本当に待ち遠しいです!」
「ありがとうございます」
そうかそうか。高崎さんもやはり、何だかんだで俺には悪役がぴったりだと思ってくれているということか。これは本当に気分がいい。
そうだよな。社長が言っていたことはこういうことだったんだ。俺のこの騒動を生かして、今までのようなシリアスやバイオレンスだけの作品だけではなく、コメディ色の強い全国ネットの作品にも悪役として出演し、悪役としての俺の顔をもっともっとさらに世間に売っていけということだったんだ。
さすが社長だ。ピンチをチャンスに変えるとはまさにこのこと。感無量です。
「フフッ、でも凄いです。柳楽さん、もしかして主役は今回が初めてなんじゃないですか?ほんと、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いですね」
あー、本当に気分がい....
「え?」
今、彼女はなんて言った...?




