第24話 緊張する男
いよいよ、明後日か。高崎アナとのロケ。
結局、俺の幼い頃に生まれ育ったアメリカへのロケはさすがに無理となり、当初の予定通り、箱根に二人旅ロケ。
それにしても、緊張するな...。初めてのロケ。
しかも、現地まで二人でドライブだもんな...。
それも、台本なしのフリートークって。
プロデューサーさんからは、柳楽さんはとにかく普段どおりにしてくれればいいんです。と言われているが、普段に女性と二人でどこかへ行ったりすることなんてないから、本当に何を話せばいいのかがわからないんだよな。
俺には面白いことなんて特にできないし。
それに、あくまでテレビの撮影。それも朝の番組で放送されるロケ。下手なことは話せないし。
そして一応、そんなことを考えながら、俺はさきほど、マネージャーの桐谷さんから提供してもらった、高崎アナのプロフィールに目を通す。
笑顔の写真。もちろんだが、めちゃくちゃ可愛い。さすが、好きな女性アナウンサーランキングで三年連続1位になる女性。
でも、実際に二人きりになった場であの愛想のよさを俺に向けてくれるのかは疑問。
カメラを回している間は安心だが、それ以外の場で裏の顔を知ってしまったりしたらちょっとショックだな...。
ただ、もし素でもあの感じであれば、個人的な好感度は爆上がり間違いなし。
まぁ、俺からの好感度が上がったところで向こうからすればむしろマイナスなのだろうが。
で、えーっと、肝心のプロフィールの内容はホームページに載っていたものとほぼほぼ同じだな。
趣味が料理...ぐらいしか、やはり共通点がない。
かといって、俺から料理の話は抵抗がやっぱりあるし...。
さて、どうしたものか。
いや、案外、向こうの方から話を振ってくれたりするものなのか?
明らかに社交的な人だしな。それならば、かなり楽だし、嬉しいのだが。
一応、今聞いている情報では、基本的には食べ歩きをしてブラブラと箱根を探索するという、のんびりとしたものらしいし、あまり力を入れすぎる必要もないか。
「お待たせいたしました。柳楽さん。こちら、追加資料をお持ち致しました」
そんなことを考えながら、事務所でぼんやりと悩んでいると、扉のノックの音と同時に目の前にはもう一人のマネージャー、小泉さんが颯爽と現れる光景。
そして、眼鏡をクイっと指で上げたかと思えば、一枚の資料を俺の前に差し出してくる。
えーっと、何だ...。
【㊙ 高崎アナ情報】?
「......」
な、何だ。これは。
凄い。事細かく、最近の彼女のことについてまとめられている。レイアウトも見やすい。やはり、小泉さん。その見た目通りに仕事が丁寧で優秀...。
いや、優秀だと思うのだが...何だ。どういうことだ。これは。
そう。そこに、記載されているのは、彼女の住所、家族構成、好きな男のタイプ、今週に足を運んだ飲食店、仲のいい芸能人、最近見た映画、好きなブランド等々...。
「......」
いや、住所とか、他にも色々と、これはどうやって...。
あと、小学校、中学校、高校、大学時代の写真まで...。入っていた部活やサークル情報なども。
いや、本当にどこからもらってきたんだ...この写真。あと、昔からめちゃくちゃ可愛いな。
「ちなみに、高崎アナは現在、彼氏がいません。フリーです」
「え、あ、うん」
そして、何だ。その情報は...。
「一応、台本も考えてきました。」
台本?え、プロデューサーは無いって言ってたよな。
ロケの台本ってマネージャーが考えてくるものなのか?だから無いってことなのか?
あと、何だ。このページ数は。し、小説?
「さらに、箱根と言えば、温泉。制作側に掛け合いまして、混浴シーンも追加してもらいましたので」
え、混浴?混浴って、あの混浴?
え?高崎アナと...混浴?
「そして、こちらお渡ししておきます」
そして、目の前の小泉マネージャーは、俺に透明の小型ワイヤレスイヤホンを手渡ししてくる。
「もし、困ったことになったら、これを耳に装着して、小さく頭の横で右手を上げてください。 僭越ながら、状況を見て私がイヤホン越しに助言をさせていただきますので」
「え、あ、ありがとう...」
え、な、何だ。この手厚さは...。
と言うか、ロケってこういうものなのか?
それに内容はどうあれ、ここまでのことをしてくれるって、やはり小泉さんはかなり優秀なのか?
「フッ、柳楽さんの当日の夜のスケジュールは開けていますので」
そして、目の前にはそう言って、指をパチンと鳴らして微笑んでくる小泉マネージャー。
「.....」
そうか。おそらく、慣れないロケで俺がヘトヘトになるであろうから、アフターケアも万全というわけか。
何だろう...。
初ロケ、さっきまで不安でしかなかったけど。ここまでしてくれるのであれば、色々と自分の身体が軽くなった気がする。そう。何だかそれなりに上手くやれそうな気がしてきた。
ありがとう。小泉さん...。
「......」
でも、本当に何だ...。
「......」
ここまでのプライベートな情報を、彼はどこから仕入れて...。
あと、この人。やっぱり昔にどこかで会ったことがあるような気が....
指パッチン...。
「.....」
駄目だ。思い出せない。




