第18話 願掛けする男
明日のリキッドマンの初回打ち合わせ。絶対にうまく行きますように。
「......」
雲ひとつない快晴の空の下、そんなことを頭に思いながら、俺、柳楽 雄大は今、ネットで調べた《《商売繁盛》》の神様が祀られていると有名な神社で一人、強く、それはもう強く、両手を顔の前で合わせてお祈りをしているところ。
実際のところ、俺は普段から神社などに行くタイプの人間ではない。ないのだが、今日の俺の朝の占いの結果は最下位。そのラッキーアドバイスが『神社にお祈りすること』だった。
そして、そうすれば明日は最高の一日になるだろうという御告げが示された。
俺は占いみたいなもの自体は正直あまり信じていないタイプの人間ではあるのだが、今回ばかりは話が別だ。景気のいいスタートダッシュのために、今はとにかく、すがれるものには、とことんすがっておきたいところ。
「......」
さらに、俺は昨晩とある夢を見たんだ...。
それはもう嘘のように鮮明に。
そう。明日の打ち合わせを皮切りに、俺の悪役としての仕事が爆増していく夢を。
そして、俺が日本最高の悪役俳優として世界に羽ばたく夢を。
俺は確かに見たんだ。
ここまで、自分にとって都合のいい夢を見たことが過去にあっただろうか?
いや、ない。それをこのタイミングで見ることになるとは...。
おそらく、これは運命だ。
もうそう思わざるを得ない。
そう。色々とあったが、未来の俺はこの国を背負う悪役俳優として大成する。絶対に。
俺はそんなことを考えながら、こんな金額、もちろん初めてだが、財布から一万円札を静かに取り出して、額に当てて念じる。
どうやら、お賽銭に1万円を入れることは、「万円」をひっくり返して「円満」と読む語呂合わせから、「万事円満にいきますように」という願いが込められているとされるらしい。
だから、この際、出し惜しみはしない。
俺は成功する。絶対に成功すると再び念じて、賽銭箱に1万円を豪快に投入。
「頼みます。死ぬ気で頑張ります。だから、頼みます。俺ならできる。絶対にできる」
思いが強すぎて、俺は無意識にその言葉が口から漏れでてしまうも、そんなことはもうどうでもいい。
とにかく、俺はこれからも死ぬ気で悪役俳優のトップを狙っていくつもりだ。
そう決意しながらあらためて、俺は瞳を強くギュッと瞑り、神にその成功を祈る。
「......」
でも、何だ。この神社、女性が結構多いな。
今も、女性が騒いでいるような声が俺の耳には聞こえてくる。
まあ、仕事運を上げたい気持ちに男女の違いはないもんな。
ここにいる皆、仲間だ。
「....」
よし、皆の願いも叶いますように。
―――――彼、柳楽雄大は勘違いから根本的に大きな間違いをしている。この神社は商売繁盛の神様が祀られていることで有名な神社では決してない。そう。この神社は《《恋愛成就》》で有名な神社である。
そして、周りの人から見れば
そんな彼は、顔面凶器が一万円という大金をはたいて、命をかける気概で彼女が欲しいと必死に神頼みしている、ある意味レベルの高すぎる人間にしか見えていないことを当然、彼はわかっていない。
そして、今、まさにSNSで、とある男の画像や動画の数々が絶賛拡散中で、それがリアルタイムでバズリにバズっており、不覚にも神社にいる彼が彼であることが、今も周りにいるそれなりの人達にはバレているということを、そしてスマホでまた撮られているということを、当然彼は知る由もない。
「.....」
そして、最凶の悪役俳優になる予定の柳楽雄大は、自分が明日、本当に運命の日を迎えるということを、今は当然まだ知らない...。




