第19話 悪役俳優 柳楽 雄大
俺の名前は柳楽 雄大、30歳。職業は悪役俳優。
この道で必ず近い未来で世界を取ることになる男。
そして、今日は、そんな俺が出演することになる、あのネットリフックス常連の有名監督が手掛けるドラマ、『リキッドマン』の初回打ち合わせの日。彼の脇を固める一流のプロデューサーなどの面々との打ち合わせは、建設的で高レベルな演技についての討論が繰り広げられることは間違いない。初回ということで他にもかなりの数の関係者が参加すると聞いている。
そう。俺も一人の演者として、気後れしてはいけない。
特に俺は、昨日の神社へのお参りの後の昨晩、俺のことを飯に誘って鼓舞してくれた最高の後輩たち、俺なんかをボスとしていつも立ててくれている自称、柳楽軍団のあいつ等が胸を張って、俺の後輩だと言えるような存在でいなければならないと、今まさに強く自負をしているところ。
だから、今も俺は、お気に入りのオーダーメイドで特注したマフィア顔負けのイタリアの高級スーツ。そしてヴィンテージスタイルの渋い帽子。そして昨晩、後輩たちが皆で俺に絶対に似合うからとお金を出し合ってプレゼントしてくれた、指無しのレザーグローブ、少し大きめの存在感のあるサングラス、そして先端の尖りに尖った革靴を装着して今ここに。
しかもだ。あいつ等、まさかの運転手付きのリムジンなんてものをレンタルしてくれて、事務所からここまで俺はマネージャーの桐谷さんと共にそのリムジンでやってきた。
そこまで満足に金もない奴らもいるであろうに、本当に何から何まで、俺の新たな門出に対して背中を押してくれる最高の後輩たちに、俺はそのリムジンの中で感動から人知れず大号泣をしてしまった。そして同時に、俺は昔からこんな悪役である俺のことをずっと一番に応援してくれている親にも、色々と感極まって電話で感謝の言葉を伝えさせてもらったところ。
とにもかくにもだ。正直、昨日までは少し気後れしてしまっていた部分もあった俺だが、あいつ等のおかげでもうそんなことも全くない。全て吹っ切れて今はただただ堂々としたものだ。そう。俺にはあいつ等や、少ないながらも俺のことを応援してくれている人たちがついている。
フッ、それにしてもだ。今もスタジオに入って、スタッフの方に案内されるままに打ち合わせの場所まで、一緒に隣を歩いているマネージャーの彼女、桐谷さんも今日は朝からいつになく険しい顔をしている。
まぁ、俺にはわかる。これは彼女の本気の顔だ。本気の人間の顔。
もちろん、彼女もわかっているのだろう。
そう。今日が俺達の伝説の第一歩になるということを。
遠い未来で、俺が悪役俳優として世界一の名を称されるようになった時に、今日という伝説の始まりの日を思い出すことになることを。
本当に彼女にも、ただただ感謝だ。
マネージャーとして、こんなにも俺のことを自分ごとのようにしっかりと考えてくれている彼女には本当に感謝しかない。
そう。彼女達がついてくれている限り、俺には明るい未来しか待っていない。
そのことをあらためて、今また強く俺は確信させてもらった。
「柳楽様、こちらのドアを開けていただいて、スタジオをそのまま真っすぐ抜けると打ち合わせ場所になります。それでは」
そして、そんなことを考えていると俺達を案内してくれているスタッフさんからはそんな言葉が聞こえてくる。
そうか。いよいよか。
そして、気が付けばそのドアの前で、その緊張からか深刻な面持ちで身体を震わせる彼女。
まぁ、無理もない。そんな彼女に俺はこう声をかけてあげる。
「大丈夫。任せておいてくれ。俺が全てうまくやる」
そう。俺が全てうまくやる。
そして、最後に俺は、彼女にそして自分自身にも、好きな言葉であるこの言葉を英語で投げかける。
「A bright future awaits you just beyond that door」
(そのドアの向こうには、明るい未来が待っている)
そう。このドアの向こうには、俺が世界一の悪役俳優になる道と共に明るい未来がまっている。
よし。行こう。
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