第16話 ???
「いやー、とうとう奴をお縄にかけることができそうだな。この前はうまく示談にされて逃げられちまったから、ようやくだ。」
「はい。でも、水谷先輩。まさにどんどん出てきますね。彼に対する被害届」
「おう、加えて違法薬物の疑いまで出ているからな。さすがに女の方は今までのようにどうにかできても、こっちはもう現行犯で押さえさえすればどうにもならねぇだろうからな」
「本当に、イメージと違って全く爽やかじゃないですね。ファンは泣き崩れることでしょう」
「寺脇、そういうお前はファンじゃないのか?イケメンだぞ?」
「はい。私はこんなヒョロっとした男はイケメンだとしてもちょっと。でも、芸能人といえば最近、SNSでも話題になっているあっちの方。えーっと、そう。柳楽 雄大。ハハ、どちらかというと私は彼の方がタイプかもです」
「あー、雄大くんのことか。あいつも本当に元気そうで何よりだよ」
「え?先輩、彼のことを知っているんですか?」
「おう。あれはかなり昔。俺がまだ交番勤務だった頃だな。忘れもしない。そう。俺が始めて職質をしたのがあいつだったんだよ」
「え、すご。そうなんですか?それはちょっとびっくりです。その話、めちゃくちゃ聞きたいです」
「ああ、あの頃はまだ雄大くんも俳優としては全然テレビなんかも出ていなかったし、もっと目つきや顔面が今よりも凶悪でな。俺の職質デビューの相手として不足なし。額に汗かきながら、念の為にいつでも動けるように警棒に手をかけて声をかけたんだ」
そう。初っ端から生き死にの戦いになることを覚悟しながらな。
「そして、おなじみの所持品チェック」
いきなりデビュー戦で違法薬物でも出てくるのではないかと、緊張で唾を飲みながら、やつの鞄をオープン。
「そう。それはもう、わんさか出て来たよ」
「え、何がですか?もしかして...」
「何かを小分けにして入れている怪しいミニポーチがわんさかと出てきたんだよ」
「ポーチ...」
「ああ、あいつの容姿や雰囲気にそぐわない、その当時流行っていたゆるキャラの絵が刺繍されているミニポーチたちが一層、俺に緊張感をもたらしたんだ。これは絶対に何かをカモフラージュしているとな。」
「確かに、それは怪しく思えてしまいますね...」
「おう、そしてさらに、そのミニポーチのチャックを開けてオープン」
その時は近くにあったベンチの上に一つずつ中身を出させてもらった。
「な、何ができてたんですか...」
おう。いっぱい出てきたよ...。
そして、あんなに昔のことなのに鮮明に覚えている。
「ああ、左から、苺味のミニチョコパイ、苺味のキッツカット、苺味のホワイトサンダーチョコ、苺味の飴、そして苺大福...他にも」
「プッ..ちょ、あの顔で、ふふ...しかも」
そう。あの凶悪な面の奴の鞄からピンク一色のブツがたくさん...。
「俺はちょっと頭が混乱して思わず、『苺、好きなの?お、美味しいよね』なんて言葉しか口から出なかった記憶がある」
「プッ、ハハハハハハハハハッ!!!ちょ、水谷さん。フフッ、笑わせないでください。冗談でしょ?じゃあ、最近SNSとかでバズっている柳楽 雄大はやっぱりキャラではなく、昔から裏ではずっとあんな感じだったってことですか?」
「ああ、そこからも何度か職質をして、いつの間にか仲良くなったりもしたが、俺からすれば、最近のあれが柳楽 雄大だ」
本当に懐かしい。
「あいつ、いつ鞄の中身チェックしてもお菓子しか出てこなかったからな。フッ、それでな、当時は今よりも割と色々と緩かったから、こっちがちょっとポケットに入っていたお菓子とかを職質のお詫びにあげるとさ。子供みたいにめちゃくちゃ嬉しそうな顔で喜ぶんだよ」
「プッ..ふふ...可愛い」
「で、さすがにそれは直接的には受け取れなかったけど、律儀にお返しなんて交番によく持ってきたりしてさ。ハハ、一緒にそこでお茶を飲みながら話をした時間もいい思い出だ」
「ハハハハッ、真面目!!!いいなぁー。一緒にお茶」
「他にも、近くで子供が鳴らす防犯ブザーの音が聞こえてきたと思って急いで駆け付けたらさ。あたふたと、しどろもどろしている雄大くんがそこにいたことが3回ぐらいあったっけ。雄大くん、ああ見えて本当にただの良い奴だからさ。自分が例え子供から怖がられることがわかっていても、迷子の子とか見るとつい力になろうと近づいてお菓子とかあげちゃおうとしちゃうんだよなー」
「ハハハッ、凄い。本当にいい人なんですね。あの人」
「そうなんだよ。雄大くんはああ見えて、ただただ普通にいい奴なんだよ。あぁ、刑事になってからは全くもう関わりもないけれど、また会いたいなぁ」
「ハハッ、でも、いい人ならば、私たちとは残念ながら縁がありませんね」
「そう。残念ながらないんだよ。全くな」
「フフッ、でも、本当に人は見た目で判断してはいけませんね。柳楽 雄大のような悪そうで実はめちゃくちゃ良い人もいれば、彼みたいにその反対もあるんですものね」
「おう。そうだ、あいつ、《《爽やか王子》》こと神宮司 大翔のようにめちゃくちゃ悪い奴もいるからな。その通りだ」
本当に。
「よし、寺脇。おそらく、もうまもなく奴の逮捕状がでるだろうから、《《来週の水曜日》》には神宮司の自宅に乗り込むぞ」
「はい。水谷先輩。あんな屑。今回こそは絶対に捕まえましょう!」




