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第13話 プランB

そうか。いよいよ明日か...。


みやび坂56のアイドル、花村 凛と共演するCMについての打ち合わせの日は。


そして、そこで、この俺が最悪の()()()()を仕掛けられる日は...。


そんなことを考えながら、俺、柳楽 雄大は、落ち着いた雰囲気の喫茶店で一人、その明日の構想を練っているところ。


大体、芝居の構想を練る場合、俺はこれまでに訪れたことのない場所に基本的には足を運ぶことにしている。そう。これまでの経験上からも、初めての場所で思考を巡らせた方が柔軟な演技の発想を得ることが多かったから。


まぁ、いわゆるルーティーンのようなものだ。


そして、今日初めて訪れたここは比較的、若めの女性が多いみたいではあるが、まあ問題はない。当然、今日も俺は変装をしている。


それに今日は、俺も自重をして、特に甘いものを頼む予定もない。

現にさっき、女性の店員さんにアイスコーヒーをブラックで注文したところだ。


そして、この店は慎重な接客を心掛けているのか、三回ほど注文を繰り返されたが、別に慎重なことは何も悪くない。そんなことを考えながら、俺は静かに瞳を閉じて、明日の芝居の構想をあらためて続ける。



そう。明日の()()()()()()の構想を。



俺もずっと色々と考えてはいたが、やはりここはシンプルに反発することにした。それが俺の実力をカメラの向こうの世間の方々にわからせることのできる一番シンプルで効果的な方法でもあるから。


ドッキリが俺に打ち明けられることをスイッチにして、俺の怒りで現場を絶対零度の如く凍らせてやる。場にいる奴ら全員を震いあがらせて、涙をこれでもかと流させてやる。冗談抜きで、怖さで気絶させてやるぐらいの意気込みでいく。


別に俺は悪くない。やられたら倍以上にしてやり返す。それが俺の流儀だ。


少し酷かもしれないが、こちらは俳優生命がかかっているんだ。生半可な気持ちで俺に手を出してきたことを後悔させてやるだけだ。

二度と俺ような悪役俳優を生業としている人間にドッキリみたいな営業妨害とも言える舐めた真似ができないようにな。

そう。これは攻撃ではない。防御だ。


それに、もしお蔵入りになっても、それはそれで御の字だ。

どちらにせよ、リキッドマンの撮影に向けた肩慣らしにもなる。


「うわ、マジじゃん。ハハッ、やば。ウケるんだけど。絶対に私は『苺のふわふわスフレパンケーキ五段重ね』だと思うね」

「え、うわ、本物?いやいや、それなら『絶品メガトンベリーベリーパフェ』よ」

「ハハハハッ、本当じゃん。マジギャップ萌えなんだけど。とりあえず、私は『ちびかわコラボの激しぼりモンブランケーキ』に千円!」

「フフッ、もしかして全部頼んだりしたらどうする?」


それにしても何だろう。目を瞑ったままの俺の耳には、高校生ぐらいの女の子達の楽しそうな声が聞こえてくるのと同時に、魅力的な商品目のデザートの名前が次々と聞こえてくる。しっかりとは聞いていなかったけど、各々がメニューにある、どのデザートを注文するかでテンションが上がっているのだろうか。


青春だな...。


いや、もしかしたら、もうテーブルに届いたデザートに対して話が盛り上がっているのかもしれない。おそらくデザートを撮っているであろう彼女達のスマホのカメラの音がパシャパシャと俺の耳には聞こえてくる。


まぁ、一旦それは置いておいて、話を元に戻そう。そう。明日のドッキリ返しの話に。


うん。初めから威圧感を全開でいくプランにしようかとも思ったが、やはり今回はプランBの方でいくことにしよう。そう。初めはいつもより態度を丁寧に、そして人当たりをこれでもかとよくして、めちゃくちゃいい人を演じてやる。


ただし、フッ、ドッキリを打ち明けられた瞬間、俺の感情は怒りで大噴火だ。


その方が、変にガードを張られていない分、相手の感情を大幅に揺さぶることができるのだからな。どうせ、そもそも撮る予定もないCMの話だ。あらためて考えたが、アイドルの花村さんが明日の打ち合わせに同席するわけもない。だからこの作戦でいく。決定だ。緊張と緩和を自由自在に使いこなせるのがプロ。


「お待たせしました。アイスコーヒーでございます」


久々に加減なしの全力を出すとするか。

そう。例え、もし万が一、花村さんが同席していたとしても、やはり結局は作戦を決行しよう。

これは絶対だ。


「うわ、すご。珈琲のシロップ多すぎるでしょ。さすが。マジぱねぇわ」


そして、注文が届いたことにより目を開けた俺の瞳には、もちろん頼んでいたアイスコーヒーが映りこむが、確かにすごいな。


今ちょうど他の席からも声が聞こえてきたが、この店。ブラックを頼んでも、こんなにも...。

これがデフォルトということか。


「.....」


いや、ガムシロップが10個は多すぎるだろう...。さすがにサービスしすぎ。

え?これ、本当にこんなに?


「.....」


でも、まぁ、付いているからには無視するのもマナー違反だよな。ということで、予定とは異なるが三つほど入れてやるとするか。仕方なく。そう、仕方なくな。いや、もう一つぐらい入れた方がマナー的にはおそらく....


「.....」


でも、何だろう。つい最近までとは打って変わって、今は少し、明日が来るのを楽しみにしている自分がいる。


そう。明日また、自分の全力を試すことができるのだから。最近の不満や鬱憤からもうリミッターを外す準備はできている。本気でいく。


ドッキリを誰かがカメラと共に俺に打ち明けに来た瞬間、打ち合わせの場にいる方々には申し訳ないが、何もかもが終了だ。


フッ、それまでは俺の偽りの優しさに存分に気を抜いておけばいい。


明日、俺が悪役俳優の柳楽 雄大だということを、しっかりと思い知らせてやる。


俺という存在がどんな人間であるかを、あらためてその脳に刻んでやる。芸能界にも、お茶の間にも、しっかりと刻み込んでやる。


「......」


そしてとりあえず、後は、向こうのネタバレと同時に頭のスイッチを「極優」から「極悪」に即座に切り替える時のパターンだけ、出来る限りの想定をしておくとするか。  


「......」


うん。いいね。珈琲、うまい。


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