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第11話 打ち合わせ


何だろう。ドラマへの楽しみを噛み締めた午前中とは一転して今、俺、柳楽 雄大は再来週に控えた『おはようTV』のロケの打ち合わせに、マネージャーの桐谷さんと共にお台場にあるスタジオに来ている。


「一応、柳楽さんと、うちの高崎の二人で箱根でロケという話で進めようかとは思っていたのですが、どうでしょう。柳楽さんが子供の頃に過ごした地元でロケとかもありかと思っておりまして」


今は挨拶なども済ませて、実際のロケの内容についての打ち合わせ中。


そして、プロデューサーさんがニコニコとそんなことを俺に向かって言ってくる。言ってくるが、俺の地元でロケ...。


いや、無理だろ。


「いや、ちょっとそれは...」


そう。絶対に無理だ。


「そこを何とかどうでしょう。高崎もいいと思うよな!」

「はい。柳楽さんが昔どんな人であったのかとか、私、ものすごく興味があります!あと、親御さんも見てみたかったり」


昔の俺に興味...。なんでわざわざそんな...特に掘っても何も面白いエピソードみたいなものは出てはこないというのに。


「.....」


まあ、親は単純に両方とも俺と顔の系統が同じだから、この顔から想像して欲しい。


というか、そもそも今日の打ち合わせの相手側はプロデューサーのみだと聞いていたのだが、何故だろう。


目の前の彼女、高崎 華アナが初めから同席していた...。


「.....」


あと、会議室の俺の前の机の上にこれでもかと用意されていたこれらは一体何だ...。


マカロンとかクレープとか苺のタルト、ドーナツやロールケーキやバウムクーヘン、パンケーキやカヌレなど...


「.....」


確かに全て俺の大好物だ。大好物だが...

俺のことを舐めているのだろうか?これらは明らかに俳優としての柳楽 雄大が口にするものではないだろう...。


「フフッ、柳楽さん。遠慮しないで召し上がってくださいね」

「いえ、高崎さん。僕は甘いものはあまり得意ではなくて...。仕事でどうしても食べないといけない時以外はちょっと...」


そう。俳優としての柳楽 雄大はそういう設定でやらせてもらっている。


「.....」


そして、何だ。何でプロデューサーも高崎アナも、俺から顔を逸らすようにしてニヤニヤと吹き出すように笑っている...?何だ?俺、何かおかしなことでも言ったか?


「....」


あと桐谷マネージャー。君はもう少し自重しろ。俺が我慢している横で何をハムハムとマカロンを美味しそうに頬張っていやがる。


そんなに幸せそうな顔で食われると、食べられない俺が苦しくなってくるだろうが...。


「ふふ、柳楽さん。美味しいですよ。半分食べますか?」


そして、隣に座る桐谷さんは俺の口に向かって、食べかけのマカロンを差し出してくる。


「いや、甘いものは本当に苦手で...知ってるだろ?」

「えー、そうでしったっけー。もったいないですね。あー、美味しい」


こ、こいつ、俺が大っぴらにこういうものを食べられないことがわかってて...俺で遊んでやがる。


もしかして今日、彼女とお昼ご飯を一緒に食べる約束を、すっかり忘れてしまっていたことを根に持っているのだろうか?まぁ、そうか。本来ならば、彼女は一食浮くはずだったのだからな...にしても、その行為は大人げないぞ。


「.....」


というか、ドラマや映画以外の現場の打ち合わせって、いつもこんなにほんわかとしたものなのか?いや、もうちょっと淡々としているイメージがあったから、何かいい意味で拍子抜けはしている。


高崎さんも、カメラが回っていないのにも関わらず、めちゃくちゃ愛想がいいし、リアクションもいい。


そして、正直、こういう可愛くて清楚で、いつも笑顔な明るい女性...タイプかタイプじゃないかと言われると、めちゃくちゃタイプ...。

自然にあざとさが出るところも、結構...。


あらためて思うが、さすが、世間の好きなアナウンサーランキング三年連続1位...。


だから、別の意味での緊張に関しては若干あるのだが、勘違いをしてほしくないのは、俺は俳優一筋で生きていくことを心に決めた男、柳楽 雄大だ。


女性にうつつを抜かすつもりはないし、彼女相手にうつつを抜かせるとも思ってはいない。


今日だってだ。この会議室に入った時に、向こうの方から俺にかけよってきて、『お久しぶりですー。柳楽さんとまた一緒にお仕事ができるようで光栄ですー!」と上目遣いで微笑みながら、高崎さんに両手を掴まれた時は割と危なかった。危なかったが、そこはしっかりと顔色ひとつ変えずに耐えた...はず。


今も、俺が口を開くたびにずっと俺の目をみつめるようにして笑顔で楽しそうに笑いかけてくる。


あざとい。あざといな。


そして、普段の仕事ではどうしても、こういうタイプの女性と一緒になることが多くはないというか、ほとんどないから、ちょっとまだ慣れはしないが、しっかりと斜には構えてどっしりと構えられている...つもり。いや、普通に顔には出ていないよな。出ていない...はず。


そして、そんなことを考えていると、また目の前のその彼女から声が聞こえてくる。


「ちなみに、柳楽さんは子供の頃、どこに住んでいらっしゃったんですか?」


あぁ、そうか。その話をちょうどしていたな。




「えーっと、ロサンゼルスです」




「え?」


え、何で桐谷さんが驚いているんだ。知っているだろ?

いや、もしかして知らないのか。そういえば、前のマネージャーとはその話をした記憶があるが、確かに桐谷さんとはしたことがなかったかも。そういう役の話も来なかったし。


「あのアメリカのですか?」

「はい。アメリカに子供の頃まで住んでました」

「英語、喋れるんですか?」

「まぁ、中学の途中までは向こうにいたので、日常会話なら特に困らないぐらいには..」


そう。一応、俺はアメリカに昔住んでいた。

だから、地元のロケは無理だと言っていたのだ。



「「「.....」」」



いや、何だ。この沈黙は。



すると、また目の前の高崎アナが口に手を当てて、なぜかまた、上目遣いでクスクスと微笑みだす光景。



「フフッ、柳楽さんって、知れば知るほど本当におもしろいですね。やっぱりもっと知りたいです」

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