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無言の宇宙船から来たポンコツ美少女、地球のB級グルメで買収される 〜俺だけが知る人類採点阻止ミッション〜  作者: tky@複数作品連載中


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第8話:『人類代表メッセージ』と、戦犯の押し付け合い

月の横に真っ黒な宇宙船が現れてから、ついに半年が経過した。


驚くべきことに、あの巨大な箱は半年もの間、一ミリも動かず、一文字の通信も発していない。


だが、人間というのは「完全な沈黙」に一番耐えられない生き物らしい。


『向こうが何も言わないなら、人類側から正式な挨拶を送ってみようじゃないか!』という機運が世界中で高まり、なんと今夜、日本政府と民放各局が合同で『宇宙人へ届け! ファーストコンタクト生放送特番』を放送することになったのである。


そして、その歴史的番組のフロアディレクターを任されたのが、どういう因果かこの俺――佐伯蓮だった。


「……おい、葵。まだ怒ってるのか?」


生放送を二時間後に控えたテレビ局の巨大な第1スタジオ。


俺はおそるおそる、サブディレクターとしてカンペの準備をしている水瀬葵に声をかけた。


「……別に。怒ってなんかいませんよ」


葵はプイッと横を向いたまま、事務的な声で答えた。


前回のタワマンロケ以来、俺がノアと「秘密の共有」をしていることに対する葵のヤキモチは、過去最高潮に達していた。


俺は背中に冷や汗をかきながら、スーツのポケットから小さな紙袋を取り出した。


「あー、ほら。これ、局の近くの有名店で並んで買ってきた『特選・大粒シャインマスカット大福』だ。いつも俺の無茶振りに付き合わせてばかりだからな。葵が一番頼りにしてる相棒だってのは、本当だから」


「……えっ?」


葵がピタリと手を止め、驚いたようにこちらを振り返った。


「これ、一日限定五十個のやつじゃないですか……! せ、先輩が私のために並んでくれたんですか?」


「おう。……あ、もちろんノアと黒崎さんには内緒だぞ。お前だけの特別だからな」


俺が小声でそう言うと、葵の頬がみるみるうちにリンゴのように赤くなり、その口元がふにゃりと緩んだ。


「……っ。し、仕方ないですね! 限定スイーツに免じて、今日だけは許してあげますから!」


『よしっ! 地球のスコアだけじゃなく、後輩ヒロインの好感度スコアもなんとか回復したぞ!』


俺が胸を撫で下ろした、その時だった。


「おーい、業界人の皆さま! 本日は『ギロッポン』のスタジオでの収録、誠に『おつかれ山』ですわ!」


スタジオの扉がバンッと開き、サングラスをかけた黒崎レイナと、その後ろから「おつかれ山ですー!」と手を振るノアが入ってきたのだ。


しかもレイナは、肩からピンク色のカーディガンを羽織り、いわゆる『プロデューサー巻き』にした状態で颯爽と歩いてくるではないか。


『うわあああ!! 昭和のバブル期みたいなテレビ業界用語を使って入ってきたァァァ!!』


「く、黒崎さん……その格好と挨拶は一体……?」


「ふふ、驚いたかしら佐伯ディレクター。今日はテレビ局のスタジオ視察ということで、ネットのまとめサイトで『テレビ業界人の必須マナー』を完全履修してきたのよ」


レイナがドヤ顔で胸を張る。


「確か、生放送が無事に終わった後は、皆で『ザギン』に繰り出して『シースー』を『ルービー』で流し込むのがこの国の法律なのでしょう? スポンサーとして、特上のシースーを手配してあるわ」


『いつの時代の業界人だよ!! 今どき鬼塚部長だってザギンでシースーなんて言わねえよ!!』


俺が頭を抱えていると、隣の葵は「わあ、黒崎さん、今日は一段とノリノリですね! 昔のテレビマンモノマネ、すごく似合ってます!」とパチパチ拍手を送っていた。


***


だが、そんな平和なやり取りも束の間。


本番一時間前になり、出演者たちが控室から集まってきたところで、スタジオの空気は一変した。


今日の特番の目玉は、番組のラストに、出演者の中から選ばれた『人類代表』がカメラに向かって立ち、月の横の宇宙船へ向けた電波に乗せて【公式メッセージ】を読み上げることになっている。


その出演者として集められたのは、以下の三人だった。


一人目は、前回「社会保険料の引き上げ」をぶち上げた与党の若手ホープ・大泉新太郎大臣。


二人目は、SNSで五百万人のフォロワーを持ち、「宇宙人様ウェルカム運動」を主導する恭順派代表のカリスマ実業家・堀内(ほりうち)。


三人目は、「宇宙人に媚びるな!」と連日テレビで吠えまくっている徹底抗戦派の軍事ジャーナリスト・鬼瓦(おにがわら)。


最初は三人とも、「私が人類を代表して歴史に名を刻みますよ!」と鼻息荒くスタジオ入りしたはずだったのだが……。


「――いや、ちょっと待ってくださいよプロデューサーさん!」


本番前のリハーサル中、突然、実業家の堀内が青い顔をして手を挙げたのだ。


「僕、今さっき気づいちゃったんですけど……もし僕が恭順派として『宇宙人様、地球へようこそ!』ってメッセージを読み上げた直後に、宇宙人が怒ってビームでも撃ってきたらどうなるんですか!?」


「え? いや、それは……」


「世界中の人間から『堀内の挨拶がキモかったせいで地球が攻撃された!』って袋叩きにされて、人類史上最大の『戦犯』として永遠にネットのデジタルタトゥーに刻まれるじゃないですか! 冗談じゃない、僕は読みませんよ!」


『おいおいおい!! 今さらそのリスクに気づいたのかよ!!』


すると、それを聞いた徹底抗戦派のジャーナリスト・鬼瓦までもが、ガタガタと震え始めた。


「そ、そうだぞ! もしワシが『宇宙人よ、地球をナメるな!』と一喝して、そのせいで連中が本気で攻めてきたら、ワシの家族まで世界中から石を投げられるじゃないか! そんな重責、一介のジャーナリストが背負えるわけがないだろう!」


「じゃあ、政府代表の大泉大臣が読むのが筋じゃないですか!?」


二人が一斉に大泉大臣を見ると、大泉大臣はキリッとした顔で「ろくろ」を回しながら言った。


「えー、今のままでは、誰が読んでも責任問題になると思います。だからこそ私は、政治家が読むべきではないと思っているんです」


「「なんでだよ!!」」


「考えてもみてください。もし大臣である私がメッセージを読んで宇宙人の機嫌を損ねた場合、内閣支持率が下がる恐れがあります。宇宙人へのメッセージとは、本来、無責任な民間人の方が読むべきものなのです」


『内閣支持率と地球の存亡を天秤にかけるなァァァ!!』


「ふざけるな! 大臣のお前が読め!」


「いいえ、宇宙人ウェルカムと言い出した堀内さんが読むべきです!」


「冗談じゃない、いつも強気な鬼瓦さんが読めばいいでしょ!」


本番開始まであと三十分というスタジオのど真ん中で、日本を代表する大の大人三人が、「お前が読め!」「いや、お前が戦犯になれ!」と、醜い『人類代表の押し付け合い(ババ抜き)』を始めたのである。


「……なんなんですか、この人たち」


サブディレクター席で、葵が呆れ果てたように声を落とした。


「普段はテレビやSNSであんなに偉そうなことを言ってるのに、いざ自分が責任を取る立場になったら、小学生みたいに擦り付け合いをして……」


そして、俺が恐る恐るスタジオの隅に立つレイナとノアを見ると――。


案の定、二人の顔からスッと表情が消えていた。


「(……ノア。どうやら地球の指導者やインフルエンサーと呼ばれる個体たちは、『自己保身』のためにしか知能を使えないようね)」


レイナがノアの耳元で、氷のような声で囁く。


「(対話のメッセージを送る前から、仲間内で生贄の押し付け合いを始めるとはね。……やはり、この種族と対話する価値はないわ)」


「(あわわ……さ、佐伯さん、またレイナ監査官の手が内ポケットに伸びてますぅ……!)」


ノアが涙目で俺に向かってハンドサインを送ってくる。


『くそっ、このまま生放送が始まったら、地球の醜態が宇宙船に届く前に、スタジオの中で地球更地化ボタンが押されちまうぞ……!!』

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