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ダゲレオタイプ、あるブルジョワジー夫妻の奇妙な真実  作者: RiePnyoNaro


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ダゲレオタイプ、あるブルジョワジー夫妻の奇妙な真実 その4~占い師の住処を調べる~

フランツとレオポルトは無言で見つめあい、順番に占い師の部屋の中に入った。


リーダも(あと)に続いた。


台所を抜けると、奥の居間には木製の正方形のテーブルがあり、テーブル越しに対面するように椅子が2脚置かれていた。


テーブルの上には水晶玉がクッションの上にのせられている。


奥にある大きい窓から明かるい午後の陽射しが差し込んでいた。


薬草(ハーブ)の異臭が立ち込め、厚いカーテンで光を遮断し、赤い蝋燭(ろうそく)の光が薄暗くともった、陰気な空間で意識を失うようにして、白目(しろめ)をむいて怪しげな儀式により幻視する』


というフランツの想像とは、かけ離れた光に満ちた雰囲気だった。


窓のそばには簡素なベッドがあり、洋服掛けには冬用のフロックコートがかかっているだけで、クローゼットや棚は無く、極端に物が少ない生活感のない部屋だった。


レオポルトが窓に近づき、外を眺めながら


「カーテンもないとは。

ここで長く生活する気はなかったようだな。」


リーダが水晶玉ののったテーブルを指さし、


「そこに奥様と占い師が向かい合って座り、占い師が水晶玉を見つめながら助言してました。」


フランツは試しに水晶玉を覗き込んだが、がっかりしたように首を横に振り


「何にも見えない!僕に占いの才能は無いんだろうな!」


レオポルトは家主の実在を示す唯一の証拠とも言えるフロックコートに近づき、ゴソゴソとポケットを探り始めた。


手持無沙汰(てもちぶさた)になったフランツはリーダに話しかけた。


「なぜ占い師が怪しいと思ったんだい?」


リーダは苛立ったように唇を噛み


「あの事故の日、私が目を離したすきに、奥様は階段から転落されました。

私が慌てて階段を降りると、川岸にあの占い師がいて、奥様を横抱きに抱きかかえ


『僕が病院まで馬車で運ぶから、君はヴィーナーベルガーさんに事故のことを伝えてくれ』


と言ったんです。

彼が病院まで運んでくれたことには感謝してますが、たまたま奥様の散歩道に通りかかったなんて怪しすぎます!

あいつが(たくら)んだんです!」


悔しそうに吐き捨てた。


フランツはなるほどとうなずき、レオポルトに目を移すと、名刺ぐらいの大きさの数枚の紙を手に持ち、次々と点検するように見ていた。


フランツの視線に気づきその紙を手渡しながらレオポルトが


「これをどう思う?」


手渡された紙にサッと目を通したフランツは驚いたように眉を上げ


「これは・・・・一枚目の写真に写ったこの建物はシュテファン大聖堂だな。

二枚目は知らない建物だな。ネオヘレニズム建築の・・・・ん?このギリシャ彫刻はどこかで見たな、どこだっけ?

三枚目は家族写真?

父と母と幼児が写ってる。

四枚目は、その家族の数年後か?両親が年老いて幼児が青年になってるな。

それにしても、四枚中三枚がくっきりとした白と黒の写真だな。

幼児の写った写真だけは茶褐(セピア)色だ。

今、(ちまた)大流行(おおはや)りの鶏卵紙写真(アルブメン・プリント)なら、茶褐(セピア)色になるはずだが、知らないうちに新しい技術でも開発されたのかな?

それにしてもこの写真の男性・・・・見たことがあるぞ・・・・誰だっけ?」


ギシッ・・・・ギシッ・・・・


床を踏みしめる音がし


「バウアー君、捜査は(はかど)っているかい?」


低い男性の声が響きムスクの甘ったるい強い匂いが漂った。


三人の視線が部屋に入ってきた男性に(そそ)がれた。


フランツが驚いたように声を上げた。


「ヴィーナーベルガーさん!なぜここがわかったんですか?」


アロイスはトップハットにフロックコートという完璧な紳士の服装の、三十代半ばの、仕事に成功し自慢の妻(トロフィーワイフ)を手に入れたという自信に満ち、さらなる高みを目指す姿勢を持ち続ける、(あで)やかで魅力的な男性だった。


軽くうなずいてレオポルトに挨拶し


「家に帰るとちょうど君たち三人の姿を見かけてね。

妻の事故の調査だと思って(あと)をつけたんだ。」


そしてリーダに問い詰めるように


「奥様はこの部屋に住む占い師と浮気していたのか?

お前はいつも二人の逢引きに立ち会ったんだろう?」


リーダは焦ってブンブンと首を横に振り


「いいえっ!

二人っきりでお会いになったことは一度もありません!

いつも私がこの部屋で二人を見てました!

会話は声が小さくて聞こえないことが多かったですけど、身体を密着させるとか、怪しい動きはありませんでした!」


ハキハキと答える。


アロイスは怒りで顔を真っ赤にして


「だがその占い師が『奥様』を病院まで、『抱きかかえて』運んだんだろっ!

何たることだっ!

貞淑な婦人のすることじゃないっ!

今ごろエスターは奴と二人で逃げたんじゃないのかっ!

駆け落ちしたんじゃないのかっ!!

くそっ!!役立たずめっっ!!

お前は何をしてたんだっ!!」


しかりつけるように大声でリーダを責め立てた。


「失礼ですが!」


レオポルトが静かな鋭い声で割り込んだ。


「今までの状況を整理しましょう。

夫人の転落事故が偶然ならば、占い師はたまたま現場に居合わせただけで、二人が不倫関係にあったとは言えません。

しかし、占い師が夫人を恨んでいたとしたら、転落事故を引き起こした可能性はあります。

どちらにしても二人が親密だった証拠はありません。

リーダさん、夫人は占い師に何を相談していたんですか?」


リーダはチラッとアロイスを見て、レオポルトに視線を移し


「実は、奥様は旦那様の浮気を疑ってらっしゃったんです。

以前は優しかった旦那様の態度が近ごろ急に冷たくなったと感じていらした奥様は、浮気を疑って、どうすればいいかを相談してたんです!」


アロイスは(あき)れたように肩をすくめ


「バカげてる!

浮気が気になるなら探偵にでも調べさせればいいんだ!

私が潔白であることはすぐに明らかになったはず!

それに面と向かって私を問い詰めればいいのに、占い師に相談するなんて!

占いで何ができるというんだ!

無意味にもほどがある!」


あざ笑うように吐き捨てた。


レオポルトはコツコツと靴音を響かせ部屋を歩きながら


「さぁどうでしょう?

その占い師が超能力の持ち主なら、夫人を堤防の階段から転落させることも可能だと思いませんか?」

(その5へつづく)

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