状況の把握
移動中、村長に尋ねる。
「小さい子供は普段どこにいる?」
「小さい子供は親が畑仕事をしている間、ミシェルの家に預けられている」
「今日、そこに寄れるかしら?」
「はい」
村長の足が村の作物の貯蔵庫の前で止まる。ここには税分の農作物も入っているという。
アントンとマイルズが重い扉を開くと、中は思ったよりも広かった。
どこからとなく黒と白の猫が現れる。
「あら、可愛いわね」
「シロとクロは蔵のネズミ番です」
重要な仕事だ。二匹とも艶がいいので狩りの名人なのかもしれない。
貯蔵庫は少し衛生上気になるところはあるが、基本は美香時代に見た協力組合の小型版の倉庫だった。
「作物を保存するときは壁からせめて、これくらい離せばカビが繁殖しないから」
三十センチほど手の感覚を広げ見せる。これだけでもカビ予防になるはずだ。村長も頷きながら理解してくれる。
「こちらが今回の税のためのライ麦を収納する場所です」
村長が貯蔵庫の端から端まで指さしながらいう。
「ここ一角全部?」
「はい」
そこには貯蔵庫の八割以上の場所だ。
緊張したように村長が私の返事を待つが、これは明らかに量が多い。ここまでライ麦を税として取らてしまえば、生活できないだろう。
アントンとマイルズに視線を移しながら、村長に尋ねる。
「税は収穫の何割なの?」
「年々上がり、今では五割ほど徴収されています」
「……そう」
ルーズとはどうやら話をしないといけないようだ。ただ、こちらに不利なこともある。貯蔵庫のログがされていないことだ。税として渡されている作物も、過去の取引などをされていない。この場合、過去の過剰に徴収された税金を証明することができない。言った言わないになると平民の領民よりも、どうしても代官の言葉が強くなってしまう。
「これを払えば、去年税金が足りなくて働きに出た者たちも帰れますか?」
「税金が足りなくて出稼ぎに出た者たち?」
「はい。去年は村の分が足りず……ルーズ様が足りない分は労役するようにと」
「へぇ……」
ルーズが労役だと連れて行った若者は男性十四人、女性六人の合計二十人の二十代前後の男女だそうだ。道理で若者が少ないわけだ。今年抜けた分、村で頑張って働き倹約してきたそうだ。
村長の息子が、一年前ほどにルーズに税金を下げてほしいと嘆願したという。だが、その後に折檻をされて腕を折られて以来、誰もルーズに疑問を投げかけることはなかったという。貴族と平民の間には大きな溝がある。貴族が平民にしつけをすることは別に悪とされていない。残念なことに、それは貴族としての正しい行いなのだ。
だけど、領主は私になったのだ……私の領民を返してもらわないとね。
村長がまた震えだすと、カルに耳打ちされる。
「顔、顔が怖いぞ」
思っていることが顔に出ていたようで、アントンとマイルズも若干私の表情に引いていた。
「村長。それで緑の民はどうなっているの?」
「あ、その……やはり税がきついようです。たまに手伝いをお願いして食べ物を分けますが、私たちも食べるのにやっとなので」
緑の民のほうは連れていかれていないようだ。それはそうだ、彼らの立場では領地から出られない。それを無理に連れて行くとなると、それはもっと大きな問題になる。ルーズは結構狡賢い奴なのかもしれない。
それから貯水場や養鶏場を視察してから、子供たちが預けられているという民家を訪れた。そこにいたのは、十歳以下くらいの子供が十人、五歳以下の子供が四人だった。
少ない……二百人くらいのド田舎の村なら二十人以上、できれば三十人くらい子供はいてほしい。聞けばここに二年で急に税率が高くなったせいで子供もだが、結婚した者もいないという。これは由々しき事態だ。受け取っていた資料と話が違う。資料には最低限のことはしている風に報告されていた。
村長と別れ、ローゲンハイム村から馬車で三十分ほど北に向かった場所にある緑の民の集落へ向かう。
静かになったアントンとマイルズに尋ねる。
「二人が村にいた六年前、税は普通通りだったのよね?」
「はい……」
元父が代官を置いたのはそれよりも前だ。その間で変わったのは、代官の息子が現れたことだ。元父を問い詰めたとしても、これは領主である私が解決すべき問題だとつき放つだろう。直接、代官本人に事情を尋ねるべきか……。
緑の民の集落に到着、こちらの住人は見るからに疲弊しているのが分かった。
「新しく領主になったルナヴィル子爵よ。急で悪いけど、表に集まってくれないかしら」
今にも朽ちそうな家屋から恐る恐る出てきた緑の民は、やつれていており、年寄りや子供は体調が悪そうだった。
緑の民の一部からは表情からは恨みがうかがえた。ザイルとセイが私の前に立ち、剣を抜く。
「二人ともやめなさい」
「しかし、あのような敵意をむき出しに――」
ザイルが剣を剥けながら、地べたに座る男に向ける。
確かに彼からはすごい敵意を感じる。だが――
「よく見なさい。子供を抱いているわ」
男に近づこうとすれば、ザイルに止められる。
「危ないです」
「ありがとう。でも、私の魔法は見たでしょう? 自分の身を守ることくらいできるのよ」
何かあれば妖精たちが助けてくれることを期待している。
(ディーネが一番にオリビアを守るから!)
(ワシもじゃ!)
ルルのいる荷馬車からダンが叫ぶ……やっぱりダンは家で待っていてもよかったのでは?




