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悪役令嬢という面倒くさい役割、もう捨ててもいいですか? ~妖精たちと辺境ルートを満喫します!~   作者: トロ猫


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緑の民の食事事情

 私を睨む男を見下ろす。腕に抱いている一歳にも満たないだろう子の顔色は悪い。息をしているのだろうか?


「その子供、生きているの?」

「どういう意味だよ……」

「いや、生きているならまだ助けられるでしょ? 死んでいたら無理だけど」

「へ?」


 ディーネに子供を調べてもらう。


(うーん。すごく弱くなってるよ! 明日まで持たないかも)

(そんなに重症なの? 分かったわ)


 カルに治癒ポーションを出してもらい、子供に近づくと父親が子供を強く抱きしめる。

「これ、治癒ポーションって言ってすごい効き目なのよ。このままじゃ、その子は死ぬんじゃないかしら。私はどちらでもいいけど、どうする?」

「――た、頼む」


 男がすがるような表情で、目に涙を溜める。

 子供の手を触ると、思ったより冷たくて驚いた。

口を開け、少しずつ治癒ポーションを口の中へと垂らす。最後の一滴まで飲ませると、子供の顔色が戻る。本当にこの治癒ポーションなんでできているのだろう、即効性がありすぎる。

 子供の目が開くと、男はしがみ付きながら笑顔で泣いた。


「ありがとう。ありがとうございます」


 振り返り緑の民に尋ねる。


「他に死にそうな人はいるの?」

「こ、こっち、お母さんが!」


 それから、集落を回る。治癒ポーションを必要としていたのは三人だった。すでに昨日の時点で亡くなっていたのは一人。三歳児の子供だった。亡くなる二週間前から風邪を引いていたというので、身体が耐えられなく諦めたのだろう。子供の両親を見れば、憔悴しきっていた。


「この集落にまとめ役はいるの?」

「はい。でも、今、その……」


 十代くらいの後半くらいの女性が言いかけた言葉を飲み込む。


「何?」

「ウサギを狩りに……」

「おい、バカ、やめろ」


 隣にいた男が、女性の腕を強く掴み止める。

 困惑していると、アントンが緑の民は領主の許可がないと領地で狩りをしてはいけないのだと教えてくれる。ああ、だから……。


「今は、その話はどうでもいいからどこにいるのか分かっているなら呼んできてくれる?」


 数人の緑の民が走り出すと、まとめ役の男と戻ってきた。男はアダムと名乗り跪いた。


「どうしても、食べ物が必要で――」

「ウサギは?」

「ここに二匹」


 麻袋から取り出されたウサギが二匹地面に並べられる。

 食事事情を聞けば、彼らはパンを水に浸したものや草、それからミミズや虫を食べていたという。それに耐えきれずに見つからないようにウサギ狩りをしたという。


「ライ麦は食べてなかったの?」

「ライ麦はすべて税金に持っていかれていたので……」


 しばらく無言で緑の民の面々を眺め、両手を叩く。


「食事を作るわよ」


 アダムが目を見開き尋ねる。


「ウサギを狩った罰は?」

「罰ねぇ。そうね、じゃあ調理を手伝いなさい」

「へ?」


 困惑するアダムの横で土魔法を使い、竈を作る。それから、石化を応用して巨大鍋を作成する。石鍋をイメージしたのだが、かなりうまくできたと思う。

 ダンが飛んできて、私の土魔法を褒める。すると、ディーネの頬が膨らむ。


(ディーネの水魔法も使うから、機嫌を直して)


 石鍋に水を入れていると、みんなの視線に気づく。


「き、貴族様は凄いな……」


 そんな声が緑の民から聞こえた。ああ、貴族に比べて平民や緑の民はほとんど魔法が使えない。数人は火を灯したり、以前のオリビアのように水を少し出したりする程度はできるとシナリオには書いてあった。私も自身も、妖精がいなかったら平民並みの魔法しか使えなかった。別に私が凄いわけではない。

 カルから受け取った野菜をアダムに渡す。


「これを細かく切ってね」

「はい……」


 野菜を崩したピーナッツと共に鍋に入れる。味付けは薄いが、今はそれでいい。


(ワシの芋は使わんのか? うまいぞ)

(今、芋はダメよ。みんなの体調が整ったらたくさん食べてもらいましょう)


 しばらくまともなものを食べていない彼らに、サツマイモのような糖分が多いものはよろしくない。リフィーディング症候群になる危険性がある。それは、急に食事をすることで発生する代謝異常だ。

 美香の前世で近所の歴史好きの爺さんに聞いた話があった。兵糧攻めの後に米や芋粥を食べさせたら死者が多発したということ。

スープができたので、器を持って並んでもらう。

 配膳する前に大声で伝える。


「スープは急にガツガツと食べることは許しません。ゆっくり、一口ずつ食べなさい。それができない者にはスープはあげません」


 ワラワラと並んだ緑の民にカルやアントンたちとスープを配る。

 がつがつ食べていないか、蜘蛛の巣を張るように視線を巡らせる。なんだか囚人を見張る看守の気分だけど、これに関しては妥協しない。

 最初は怯えながらスープを一口ずつ食べていた緑の民も、久しぶりまともな食事に安心したのか笑顔になる。

 人数を確認すると緑の民は資料通り八十人近くいる。

 アダムによると、こちらの税が酷くなったのもローゲンハイム村と同じ時期だ。

 食料はこのままでは足りない。私が持ってきた分で八十人全員を毎日食事させていたら、日数がもたない。

 帰る前にアダムに声を掛ける。


「アダム、数日は質素な食事になると思うけど、その後は狩りを許すわ」

「ありがとうございます!」


 アダムが満面の笑顔を向けた。

 帰りの馬車の中でルーズについて考える。問題は父親の代官だ。今まで制作された資料を見る限り、まじめで指示された内容を淡々とこなす印象であった。ただ、確かにここ二年ほどの資料は全く同じことを書き写していたかのようにも思えた。

 どういうことなのか調べなければ……しかし、いったいどうやって調べる? 影で動く味方なんていな――


「あ……」


 久しぶりに思い出した顔に口角を上げる。

 隣で今にも眠りそうなカルの耳にささやく。


「カルにお願いしたいことがあるの――」


   ◆


 それから数日、緑の民にスープを作った。

 よい時間をおいてにようやくダンの自慢の芋もスープに入れたのだが、そのおいしさにとにかく驚いた。


(どうじゃ、ワシの芋は美味いだろ!)

(美味いどころじゃないわよ。こんなおいしい芋食べたことないから)


 サツマイモに似た濃厚さと甘み、それに咀嚼する度に燻したような香りが心地よい。

 緑の民を見れば、全員の匙の動きが早い。


「食事はゆっくり食べてちょうだい!」


 注意してなんだが、私も食べ終わるまでスプーンを置くことができなかった。

その夜、身体の異変に気付く。


「カル、何か体がおかしいの……さっき腹筋が十五回もできたの」


 ダンの芋がヤバいということに気付いた時には、すでに時が遅かった……。

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