表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
悪役令嬢という面倒くさい役割、もう捨ててもいいですか? ~妖精たちと辺境ルートを満喫します!~   作者: トロ猫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/66

領主邸

 しかし、ライ麦は栄養不足から菌に感染しやすい状態なのだろうか。


(ダン、ライ麦が黒くなっていく病気を知っている?)

(夜の穂……か? あれを最後に目にしたのは数百年前じゃが……)

(夜の穂って何?)

(呪いじゃ)


 は? 呪い……? 苦笑い交じりに笑う。 


(それって対処法あるの?)

(聖力じゃの) 


 何それ……呪いとか聖力とかそんなスピリチャルな話、私にはハードルが高いような気がする。

 シナリオによると聖力はほんの一握りの人間に現れる魔法だ。そのほとんどが教会の司祭になる。終盤でリリアンが一度だけ魔族の戦いで発する力だけど、詳しいことについてはほぼ書かれていない。いや、あまりにも記述が抜け落ちている。女神の仕業か?


(呪いってことは意図的なものなの?)

(ワシもよく分からない。呪いは唐突に現れる。時には誰かの邪念、時には突発的にじゃな)

(曖昧過ぎて、そんなのどう止めればいいか分からないわね)

(夜の穂が訪れると女神さまのお告げか?)

(女神のお告げ……ではないけど、今後、警戒はすべきね)


 シナリオが変わっている今、その呪いは現れないかもしれない。

 念のためにライ麦以外の作物を育てる必要がある。

 そのようなことを考えていると、エルダ地方の唯一の村であるローゲンハイムに到着した。時刻は夕方、家々はあるが明かりはほぼ灯っていない。田舎だからか、見張り等もいない。盗賊に襲われたらどうするのだろうか。それとも、田舎過ぎて盗賊すらいないのだろうか……。

ここから少し行った丘に領主邸があると資料に書いてあった。

 アントンが御者席から声を掛ける。


「村長宅に向かいますか?」

「いや。もう暗くなるから、今日はそのまま領主邸に向かってちょうだい」


 オリビアの元父が置いていた前任の代官には新領主就任の書状は送られている。はっきりとした到着日は知らせていなかったが、領主邸の基本の準備は……期待しないでおこう。アントンによると、領主邸に関しては、村の人たちも貴族の財に勝手に触れることはできずにそのままになっているという。

 前任はオリド子爵領の近くにランカスター公爵領の小さな街も兼任しているので、普段はそちらに暮らしているという。

 ローゲンハイムに入らず、領主の館がある岡へと向かう。

 馬車が停止すると、アントンの戸惑った声が聞こえた。


「……到着しました」

「やけに元気がない――」


 馬車から降り停止する。

 そこには薄暗い中、佇む廃墟があった。

 カル真顔で言う。


「扉が壊れているな」

「扉? いや、屋根すら吹き飛んでいるんだけど……」


 確かに長く人が住んでいないとは聞いていたけど……十年前の資料にはまだ領主の館は使えると書いてあったし、一応代官もいたのだから……ここまで酷い状態なら報告くらいしない?

 かつては豪華でないにしろ、それなりの建物だとは分かる。ただ、割れた窓がまるで眼窩のような外観……それは暗闇の中で見ると、大きなドクロのようだった。

 双子は領主邸が幽霊屋敷にでも見えたのか、私のスカートの後ろに隠れてしまった。


「報告とはずいぶん違う……わね」


 ダンは肩から静かに降りると、何も言わずに家の中へと飛んでいった。


(ダンはどうしたの?)

(んー? どうしたんだろう? それよりオリビアはこのボロボロの家に住むの?)

(ここに住む予定でやってきたけど……)


 最低限、衣食住は必要なのに……その住がこれだ。始めから滑っている。辺りを見回すと、全員がなんと言っていいか分からない顔をしていた。


「とりあえず、中を確認するわ。ティアと子供たちはここにいてね」


 壊れたドアを無理に引くと、中から湿気のこもった臭いがした。外観も中も石作りだけど、風通しが悪かったのだろう。

 ランタンを灯し、カルとアルカディアと共に入り口から続く廊下を歩く。

玄関付近はそこまで酷くなかったが、部屋の一つを開け笑う。


「草が生えているじゃない……」


 そこは床の石の隙間から生えた緑のカーペットができていた。

 リノベーションが必要だと思っていたけど、もうブルドーザーして更地にしたほうがよくない? 石造りだから大変だろうけど。  

 この部屋は、見た感じリビングとダイニング兼用なのだと思う。暖炉もあるし、奥の部屋は竈などがあるので台所だろう。一階は他に二部屋あった。どちらとも質素な部屋だったので、使用人の部屋だったのかもしれない。

 天井を見上げれば、屋根が取れた隙間から夜空が見える。星が綺麗だ。

 廊下に続く軋む階段を上がると、二階には部屋が三つに執務室、それから小さいけど図書室なのだろうか、棚が壁に埋め込まれている。残っている本は状態が悪い。表面に白カビの生えた革製の表紙の本を開けると、ページは枯葉のように砕け散る。

 領主の館についての資料は十年前が最終のアップデートになっている。

 最後にここに住んでいた貴族は、元父の叔父であった。子爵位を賜っていたと資料には書いてあった。私に譲られた子爵位だ。

 亡くなったのはこの家の中ではない。魔族領を遮る山に登ると数十年前に言い残し、以後行方不明になっている。貴族籍にはすでに死亡登録されている。前公爵、オリビアの祖父に当たる人物はオリビアが生まれてから数年の後に病死している。

 ダンの光が読書室の暖炉の近くに見えたので覗くと、小さな赤い花が咲いていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ