子供たち
気を失った子供たちを確認する。外傷は少々頭から血が出ているくらいだ。ディーネによると大した怪我ではないようだ。緑の髪の少女の頬を軽く叩くと、瞬きをしながら目覚めた。
「起きた? 気分はどう?」
「みんなは…?」
「他の子たちも大丈夫よ」
「あ、あんた、今日クジを買った人たちか。何が……?」
驚いた。あんなに客がいたのに、この少女は私とカルの顔を覚えていたようだ。
「男に殴られて気絶していたのよ。あんな詐欺を働くから、こんな目にあっているのよ」
「……仕方ないだろ。生きていくには金がいるんだ。それに、あのクジは月に一回、参加賞にパンも渡している。そこまで詐欺じゃないだろ」
「十分詐欺でしょ。それよりも、あのクジはあなたが思いついたような言いようね」
「そうだけど、それがなんだ?」
「へぇ。まだ幼いのに頭がいいのね。でも、そんなに頭がいいのなら、いつか詐欺が見破られるのも分かるでしょ?」
「なら、お姉さんがお金を恵んでくれるの?」
この子供たちの事情は分からないけど、服装から裕福でないのは分かる。でも、それは罪を犯していい理由にはならない。そして、私が金を恵む理由にもならない。
「それくらい図々しいなら大丈夫ね。一応、あなたの取り分、治療費、それから違約金をもらったから。これはあなたに返すわね」
お金の入った小袋を少女に渡すと、キョトンとした顔をされた。
「衛兵に突き出さないのか?」
「なんでそんな面倒なことしないといけないの?」
立ち上がり他の子供を確認しようとすれば、緑の髪の少女が立ちはだかる。
「何をするつもりだ!」
「何を勘違いしているの。大丈夫かどうか確認しているだけよ」
「そ、そうなのか?」
「それ以外何があるの? あなたたち、親はいるの?」
「い、いや」
この子供たちはストリートチルドレンだという。ローゼリアは領都であり、ある程度大きな街だ。比較的治安はよいが、すべてに手が届くわけではない。正直、いい思い出のなかった元兄の采配は悪くないと思う。街が育てば育つほど闇というものはできてくる。
細道の先から数人の声がしたので、フードを深く被り緑の髪の少女に手を振る。
「じゃ、私たちは行くから」
「待ってくれ。名前を教えてくれ」
「いや、もう会わないから知らなくてもいいでしょ。それから、あんな詐欺よりもまっとうに這い上がる努力をお勧めするわ」
「それを言うのは簡単だよな。あんたはずっと金があるから分からないんだ」
確かにそうかもしれない。でも、オリビアはオリビアなりの苦しみを経験している。
「人は平等じゃないのよ。賢いなら犯罪以外で使いなさい、その頭を」
これ以上話しをして身バレをしたくない。子供は放置してそのままカルとその場を去った。
それから数日、ティアやカルと交代しながらエリアスの面倒を見た。三日目の朝には元気になったので、四日目の朝の今日ローゼリアの街を出発した。ここから領地までは、あと半月だ。十分に食料の確保もできたので、その点はローゼリアに寄ってよかった。元兄とも相まみれることはなかったしね。
実は今朝、エリアスが初めて「ありがとうございます」と少し枯れた声で返事をした。以前のエリアスがどんな子かは知らないけれど、少しずつ昔の彼に戻ってきているのだと思いたい。
ローゼリアを出発して三日目の夜、野営中に夕食のスープを飲んでいるとディーネが古いほうの荷馬車を指さしながら言う。
(あの子たち、そろそろ水を飲まないと死んじゃうよ?)
(え? あの子たちって馬のこと?)
(ううん。あっちの馬車に乗っている子たち)
強盗か? それにしてはディーネは警戒していない。
ザイルに荷馬車を確かめてもらうが、誰も乗っていないと首を振られる。
ディーネが馬車の端にある藁の上を クルクルと回りながら言う。
(ここ、ここ! ここの下にいるよ!)
馬車を下から確認すると、確かに何か空間があるようだった。ディーネが藁を除けジャンプすると床がパカリと少し開いた。隠しハッチだ。開けようとすれば、ザイルから止められる。
「子爵、ここは俺が」
「そうね。よろしく」
ザイルがハッチを開けると、子供三人が追いかぶさるように狭い場所で眠っていた。よく見ると、クジ引き詐欺に加担していたあの路地裏で助けた子供たちだった。どうして、いや、どうやって?
+++
いつもご愛読いただきありがとうございます!
明日、2026.07.17刊行します!
よろしくお願いいたします。
トロ猫




