守るべき一線
カルにクジ引き詐欺を伝えると、呆れた顔をしていた。
「狡賢いな」
「まぁ、世の中そう甘くないってことよね」
被害は銅六枚だし……まぁ、パンも手に入れた。実質被害は銅貨四枚だ。それくらいならくれてやるわ。
もらったパンを頬張る。
「普通ね」
「少し硬いくらいか? 食えないことはないな」
それから街を散策、そろそろ暗くなりそうだったので宿に帰ろうとして道に迷ってしまう。主にディーネのせいで……。
(オリビア、たぶんこっちだよ!)
(小童、さっきから適当にあちこち指差しよって。こちらに決まっているだろ)
ダンが指差すほうを見れば、暗い路地裏だった。すました顔のカルに尋ねる。
「カルは、道を覚えてる?」
「いや、俺もわからない」
全員して、迷子だ。
絶対違うと思うのだけど、ダンの顔を立てるためにも路地裏に進む。すると、すぐに誰かがもめている声が聞こえた。
「おいおい、誰のおかげで儲けられていると思っている? 所詮お前らは子供だ。そんな金を溜め込んでも使い道がないだろ。銀貨三枚くらい稼いだなら二枚くらいよこせよ」
「約束は純利益の半分だ。パン代だってあるんだ! 銀貨は一枚ずつだ」
大人の男と子供の声が聞こえる。子供がしっかりしていて一瞬、本当に子供なのか迷ってしまう。
「てめぇが俺の言うとおりにクジを全部売ればもっと稼げただろ!」
「そんな荒稼ぎしたら疑われるだろ」
「うるせぇ」
鈍い音が何度かしたので、路地裏のさらに細道を覗くと子供三人が倒れていた。揉めていた男に殴られて気絶したようだ。
カルが助けに行こうとするのを制止する。よく見ると、子供の一人は今日のクジ詐欺をしていた緑の髪の少年だった。気絶した子供たちの前で仁王立ちするのは、当たりクジを引いた男だった。
――やっぱり詐欺だったか。
二人とも詐欺師なので、特に助ける義理はないでしょう。私たちは別に正義のヒーローではない。ここで助けても責任も取れないだけでなく、問題になって衛兵を呼ばれるのも困る。
男が緑の髪の少年の懐をまさぐり、手を止める。
「なんだ、お前、女だったのか。早く言えよな。今日の女代が浮くな」
ため息をつく。この世界、クズ人間率多すぎ問題だ。そしてあの少年に見えた子供は少女なのか。まだ十歳そこらの子供に盛って――
「キモッ」
(オリビア、あいつ悪いやつなの?)
(うん。でも、今回は大事にならないように片づけないとね)
カルに「やるぞ」という視線を送り、少女を担いだ男に声を掛ける。
「変態さん、そこまででーす」
「ああ? だれだぁ……はん、俺好みのか弱そうな女じゃねぇか。こいつよりも楽しめそうだな」
男が緑の髪の少女を地面に投げ捨て、私を舐め回すように見る。きしょ。
私とカルになら勝てると思ったのか、躊躇なく男が拳を上げながら向かってきた。ああ、話し合いはできそうもない……始めからその気はないけど。男の足元を石化してまずは盛大に転ばせる。ディーネのコントロール講座が実をなしたのか、ピンポイントで男の足を狙うことができた。
「な、なんだ! 何を――」
「はいはい、静かにして」
口元を土魔法で固めると、男は目を見開きながら困惑した。
無事に捕縛したのはいいけど、どうしようこれ……。
「俺の出番、なかったな……これ、どうするんだ」
「衛兵は面倒なのよね」
「じゃあ、収納に入れるか? 食べ物が減った分、少し空いているぞ?」
「ゴミなんか入れてもどうしようもないでしょ」
カルが噴き出す。ゴミがツボッたようだ。
とりあえず、ハンカチを使い男の持ち物を物色する。ナイフ、銅貨がたくさん入った小袋、銀貨の入った財布、それから使用済みの女物の下着……。
「こっちの銅貨はそこの子の分も取ったのでしょ? 確かあなたの取り分は銀貨一枚でしょ」
銅貨の入った袋から銀貨一枚分を取り、男の財布に入れる。
「あ、でもあなたが殴ったあの子たちが怪我しているから、その分の治療費は払わないと。それと契約の違約金で……まぁ、銀貨二枚で足りるでしょう。そんなに睨まなくても下着はちゃんと返すわよ」
男の財布から銀貨二枚を抜くと、カルが黒魔法で男の記憶の改ざんをした。
「カル、その魔法は危ないって話だったでしょ?」
「前とは違う。ほんの五分くらいの俺たちの記憶を消しただけだ。支障はない。殺したくはないのだろ?」
気に入らない奴を片っ端から抹殺していたらキリがない。こいつはクズだけど、別に死に値するとは思っていな――いや、こいつが持っていた下着やけに小さいな。これ、子供の下着?
「ああ、やっぱり始末一択かもしれない」
「それは笑いながら言う台詞ではないと思う……」
「殺すことはやめておくわ。ただ……今後悪さをできないようにはしないと」
白目を剥く男の頬に石化を巧妙に使い【変態注意】と彫った。これなら一目でこいつが危ない人間と分かるだろう。
カルが苦笑いをする。
「きついが、妥当だな」
「別の部分の石化の選択肢もあったのだから、頬で済ませたことに感謝してほしいわ」




