ローゼリア
遠回りになったが、二日掛けてローゼリアの街に到着した。
門の衛兵には貴族の証である指輪は見せずに、普通に旅の途中の裕福な平民を装い通行料を支払った。私が貴族だとばれると、きっとその報告は元兄にされるだろうし……面倒を避けたかった。
ローゼリアの街は一見して活気があり治安もよく見える。上の元兄とは年齢も離れていたし、そこまで接点はなかった。正直、オリビアの無関心のせいで、顔も微妙で記憶にない。数回食事の席を共にした時に、遠くから睨まれている記憶ならあるけど……。仲がいいとは程遠い兄妹だったと言える。もう、今は元兄妹だけど。
アントンとマイルズが聞き込みで調べてくれた宿、リトルカメリアに数日泊まることにした。このリトルカメリア……実はシナリオにある宿だ。ランカスター公爵家が失速したのち、ローゼリアは王家管轄になる。そして平民に扮して街を視察にやってきたクリストフェルとリリアンが、このリトルカメリアで深く結ばれるのだ。
部屋のベッドを見ながら大きな舌打ちをする。
「オリビア、すごい顔をしているぞ。大丈夫か?」
「虫がいたような気がするだけだから、大丈夫」
私とカル、ティアとエリアス、アントンとマイルズと一部屋ずつ取った。アルカディアは、四人部屋でいいというのでそのようにした。
馬車や馬留めの費用もあるので、一晩、まとめて金貨三枚の出費になった。王都に泊まった宿と同じレベルだけど王都よりも安い。とりあえず三泊分支払う。先払いをすると朝食はサービスとのことなのでそうした。
エリアスが療養する間、少しだけ時間ができた。なので、ローゼリアの街をカルと共に見学することにした。
街を散歩しながら、肉串を屋台で購入する。銅貨二枚のわりには分厚い肉だ。
肉を受け取りながら尋ねる。
「これはなんの肉なの?」
「ジャイアントシープだ」
大きな羊、そういえば街の外でひと際大きな羊たちを見かけた。牧羊犬もせわしく動いていた。羊が大きかったので、それに比べると牧羊犬はかなり小さかったのが印象的だった。
羊肉を一口頬張り、驚く。思ったより臭みはない。羊は肉もだが、ミルクや羊毛もとれる。領地の資料に羊はいなかった。領地の確認をして準備が整えば、ジャイアントシープを購入してもいいだろう。そうなると牧羊犬も必要になるかもしれない。
「集まって集まって! 今月の当たりはこの大剣です!」
突然太古のような大きな音と共に、子供たちの声が鳴り響いた。
人だかりに釣られて、覗いてみると、そこには布の上に大剣とパンが並べてあった。パン屋?
客引きをしている髪が緑色の少年に声を掛ける。
「これは何を売っているの?」
「クジです! クジ一枚、銅貨三枚、当たればこちらの大剣が手に入ります。外れても参加賞のパンがもらえます」
「へぇ……」
クジは五百枚くらいあるだろうか、外れてもパンがもらえるという心理からか次々とクジは売れていく。パン自体は銅貨一枚もしない代物である。
試しにクジを一つ購入、引いてみる。クジを引いた時、微かに違和感がした。何かクジが動いたような? とりあえず、適当に一枚引き出す。
「ああ、外れ! 残念、また挑戦してね!」
緑の髪の少年にパンを渡される。んー、何か怪しいな。
カルにも一枚引いてもらうが、こちらも外れ。カルは特に違和感はなかったという。
クジが百枚ほど売れたころだろうか、カンカンと鐘が鳴ると売り子の子供たちが大げさに手を叩いた。
「当たりが出ました! おめでとうございます!」
客の男性は、大剣を掲げながら喜びを叫ぶ。実に演技がかかった子芝居だ。
肩の上で酒を飲みながらダンが笑う。
(ありゃ土魔法でズルをしとるな)
(あ、やっぱりそうなんだ。何か変な感じはしたんだよね)
(魔力が増加したオリビアどんくらいじゃろうな、気づくのは)
ダンが言うには、当たりのクジを引かせないように土魔法で加工された紙のクジを箱の下に引っ張っているという。あの大剣を手にした男は、同じ土魔法でクジを引っ張り当てたという。グルってことか。日本でも当たりなしのクジ引き詐欺が場所によっては横行していた時期があった。それと似たようなものだなと少し感心した。




