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悪役令嬢という面倒くさい役割、もう捨ててもいいですか? ~妖精たちと辺境ルートを満喫します!~   作者: トロ猫


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旅路

 馬車の旅が始まって二時間……道に沿って進む。始めは道なりに続く農家などの家々があったが、徐々にそれもなくなり長閑な景色に変わった。この旅路……思ったよりも暇だ。これを一か月? 体力の心配をしていたけど、それよりも暇すぎて死んでしまうかも。


(オリビア! オリビア! 暇なら水魔法の練習をしよ!)

(まずは土魔法じゃろ!)


 ディーネとダンが揉めながら飛び回る。確かにいろいろ忙しくて魔法は必要な範囲のものを習得するにとどまっていた。


(でも、馬車の中よ。たくさんは練習できないでしょ?)

(そんなことないよ! オリビアはまずコントロールを極めないと! 水魔法を使うとき結構飛び散るから!)


 思い返せば、確かにあちこちに水飛沫が舞っているような感じがする。

 それからディーネの考えたゲーム「水魔法カップ」という、水魔法をA地点から一滴も落とさずにコップに運ぶという苦行を延々とやらされた。

 さらに二時間が経ち、エリアスとカルは馬車の中ですっかり熟睡していた。

 ティアが私の水魔法を眺めながら感心する。


「オリビア様、こんなに長時間魔法を操れるようになったのですね。素晴らしいです」

「まぁ、借りた力だけどね」


 窓の外を見れば、広大な畑と小さな村の集落が増えてきた。

 ザイルが馬車の窓をノックする。


「本日宿泊予定の街、カリームが見えてきました」


 その晩は、王家統治の街で一泊した。宿は商人が利用するという中くらいの宿に泊まった。アルカディアを含む全員分の宿代が私持ちなので、序盤から高級宿に泊まるという無駄遣いはできない。かといって安い宿だと休まらない。アントンによると、安い宿はトコジラミが繁殖した藁ベッドに当たる時があると言われたので――さすがに、安宿は却下した。

 王都から五時間かしか離れていないからか、カリームの街は人の行き来も多く、栄えていた。

 ベッドに入り、カルに声をかける。


「長旅、大丈夫そう?」

「いや、俺よりもオリビアのほうが大丈夫なのか?」

「思ったより大丈夫だけど、まだ序盤だからね。でも、思ったより馬車の中が暇でしょ? もう少し本とか購入しておけばよかったかも」


 そんな話をしていたら、無自覚のうちに目を閉じていた。

 翌日、早朝に出発。

 それから二週間、旅程に沿っていくつかの街を移動する。

 初めて経験した野営は、少しキャンプのようで楽しかった。馬車の中で就寝したので、オリビアの体力でも問題なく過ごせた。朝活と称してラジオ体操と腹筋を毎朝する様子はカルとティア以外には首を傾げられたけれど……。

 一度、商人のフリをした盗賊たちが絡んできて馬を盗まれそうになった。

 ディーネとダンの過剰な防衛……のおかげで、盗賊はほとんど討伐した。

 ザイルが生き残った盗賊のリーダーを捕らえる。


「こいつは賞金が出る」

「そうなの?」


 面倒だけど、ここに置いたままにしててもね……。

 ディーネとダンの連続の攻撃のせいで抉れた地面を見ながらザイルが呟く。


「子爵様は我らの護衛などいらなかったのではないか?」

「そ、そんなことはないわよ。あれは――」

「大丈夫です。雇い主のことは他言しませんので」

「ありがとう」


 次の停泊した街の衛兵に盗賊を突き出した。すると、ザイルの予想通りのお尋ね者だった。

 賞金は金貨二十枚だった。妖精たちはお金に興味がない。それに、面倒なことはすべてザイルたちがやってくれた。なので、遠慮されたが賞金もそのまま彼らに渡した。

 貴族を襲ったということで、盗賊の持ち物は私に委ねられた。古いがそこそこの馬車と馬一匹、それから積まれていた荷物を手に入れた。荷物は確認すると、旅人から奪っただろう金品の他に石鹸や油があった。

 荷物の安全性を確認した街の衛兵が言う。


「これらを売りながら、表向きは商人として目当てを定めていたのだろう。すべては子爵様の物ですので、お好きなように」

「分かりました」


 この貴族の特権は慣れるのにしばらく時間がかかるかもしれない。それに、この特権を悪用している貴族も確実にいるだろうと予想できる。私の馬を泥棒しようとしたのだから、無料馬車はありがたくもらう。けれど、この馬車にも御者が必要でありアントン、マイルズ、それからティアに負担がかかってしまった。


「アントン、私にも今後のために馬の扱いを教えてくれる?」

「え?」

「え? だめなの?」

「いえ、ですが貴族のお嬢様にそんなことを頼まれたのは初めてで……子爵様は私が知っている他の貴族とは全然違いますね」


 まぁ、中身はお貴族様ではほとんどないからね。辺境に行くのだから、なんでも他人任せにしていても埒が明かない。オリビアがつまようじ体系でなければ、もっといろんなことが始めからできただろうけど……。

 御者練習の結果は散々だった。お尻が痛いのもだけど、オリビアは体幹が皆無だ。  ティアは御者をしていても平気な顔をしている。ティアの体幹と体力が羨ましい……。

 カルが手綱を持ちながら言う。


「怪我をする前にやめたほうがいいかもな」

「クッ。自分は極めたからって!」


 不満を言う私にティアとカルが目を合わせ笑う。

 悔しい! その夜、意地を張り腹筋を五回半、腕立て伏せを二回して翌日筋肉痛に苦しんだ。

 それから一日ほどして旅路の疲れが出たのか、エリアスが体調を崩してしまった。気を付けていたのに申し訳ない。ディーネの浸かった水を与えたが、体調は悪そうだ。数日どこかできちんとした宿に泊まったほうがいい。

 アントンに相談すると、言いにくそうに返事をする。


「一日ほど西に向かった場所に大きな街がありますが……ランカスター公爵家の領都ローゼリアになります」


 今はオリビアの上の兄が伯爵位を賜り統治している街になる。正直、そこには向かいたくないが……エリアスには休憩が必要だろう。私のプライドは飲み込む。

 アルカディアには、回り道をする分、追加料金を払うと申し出たが、賞金の件で十分にもらったと断られた。


(オリビア~街に行きたくないの?)

(ううん。街は別にどうでもいいけど、元兄に会いたくないだけ)

(オリビアの元兄がでてきたらワンパンで倒してあげる)

(ワシも小僧一人くらい埋めてやるぞ)


 それはそれで別の問題になりそうなのでやめてほしい。


(二人の気持ちだけ、受け取っておくから)


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