外への一歩
オルプネというランパデスの美少女がいる。
彼女は名家の女子であり、何不自由なく育っていた。
だが相応に教育や礼儀作法は厳しくされており、精神的には一般人と変わらない彼女にとって負担だった。
だからこそ彼女は故郷から留学し、アレクサンドロス学園に留学しているのである。
そんな彼女が芦原大和と友人関係になったのは……。
実のところ、彼女だけが特別というわけではない。
芦原大和は、留学生として模範的だった。
学校でも積極的に異種族と交流し、学校で催される交流会や文化に触れるイベントに積極的に参加。
アンケートやレポートも質が高い物を作成し、提出している。
金や異性関係に汚いところもない。
やや潔癖すぎるほど、しっかりと一線を引いていた。
だからこそ友人にするにはいい相手だった。
ホスト側であるドリュアデスの生徒や教師からの覚えも良く、他の種族の留学生とも交流があった。
アイドルだとかリーダーだとかクラスの人気者とはまた違うが、真面目ゆえに信頼を得ていた。
オルプネも彼と交友関係があり、だからこそ故郷へ同行したのである。
その二人なのだが、現在は芦原家でゲームをしていた。
※
二人が日本に来て一週間ほどが経過していた。
オルプネが『二進数携行女神』にドはまりした結果、アニメ映画の次はゲームに手を付けたのである。
そもそも『二進数携行女神』はデジタルゲームが原作であり、そこからアニメへ進出していったのである。
もちろんゲームもまた長期シリーズであり、何作も出ている。
彼女は『二進数携行女神』のゲームを何作もプレイし、クリアしていった。
そんな彼女が、同じリビングで宿題をしている大和に話しかける。
「ねえ大和。私はシリーズを一通りクリアしたんだけど……仲間にできていないどころか、シナリオにも登場しないクリーチャーが何体かいるの。コレってどこにいるのかしら?」
(攻略情報を調べずに、地道にシナリオクリアしているのか!? その発想自体が無いとしても、クリエイターからすれば好感度の上がる遊び方だな……オルプネがゲームの感想とかを会社に送ったら、とっても喜ばれそうだ)
高度な情報化社会で生きている大和は、初見が売りの動画配信者でもないのにゲームの攻略情報を見ず自力でプレイしているオルプネに驚いていた。
だがそれも些細なことだ。
彼女の質問に答える。それこそ攻略情報を見ることもいとわないつもりだった。
しかし彼女が仲間にしたいと言っているクリーチャーをみて、ああ、と納得する。確認するまでもないことだった。
「オルプネがこのクリーチャーを見たのって、映画?」
「ええ。映画で活躍していたからお迎えしたいって思ってたのに……」
「映画館で配布される系のクリーチャーだから、もう手に入らないぞ」
「え……えええ!? そんな!?」
映画を観に来てくれたお友達全員にサービス、というのは良くある話だ。
このゲームの場合は、映画館でしか仲間にできないクリーチャーの配布をしていたのである。
「それじゃあ私は、あのコたちを一生お迎えできないという事に……なんとか手はないの!?」
「……俺のゲームデータには入ったままになっているかもしれないな」
「そんな!? 貴方はあんな可愛いコたちを置き去りにして、こっち側の世界に来ていたの!? 鬼畜!」
「……で、いるの? いらないの?」
「このまま譲られると、なんか負けた気がするわ。なので……ここは勝負と行きましょう!」
「なにで?」
「もちろん、PVPで! クリーチャーバトル!」
(それがしたかっただけだろ……)
自然な流れで通信対戦が始まることになった。
現役プレイヤーであるオルプネは、もちろん自分のデータで。大和は昔使っていた自分のデータを使っての試合である。
原初のように物理的に接続する必要はない。
無線での試合は可能であった。
(俺だってガチ勢っていうわけじゃないけど、真面目にプレイすれば、シナリオクリアしただけの子に負けるわけない。とはいえ攻略情報を見ずに楽しんでいる真のエンジョイ勢をボコすなんてそんな……)
「言っておくけど……やるからにはマジよ? 手抜きしたら許さないわ」
オルプネからすさまじいオーラが幻視された。
エンジョイ勢かと思ったらガチ勢だったらしい。
「全力でかかってきなさい……それを叩きのめしてやるわ!」
圧倒的な強者の風格を持つ少女の威圧によって、否応なく真剣勝負をすることになったのだった。
※
1
「このクリーチャー構成は……!」
「そうよ! これは私が旅の序盤でお迎えしたコたち。一緒に戦い抜いた、私の最初のコたちよ! この絆……長くゲームから離れていた貴方に切り崩せるかしら!?」
「はい、先制破壊ダンテ光線」
「ああああああ! いきなり全滅させられた~~!」
※
2
「貴方の強さはわかったわ。勝利に徹する……真剣勝負ってそういう事よね!?」
「このクリーチャー編成……シナリオボスを倒した構成だな!」
「そのとおり、負ける可能性なんてない!」
「ほい、捨て石ロック」
「技が! 魔法が! だせない! なんにもできない~~!」
※
3
「もう、容赦はしないわ。恥も外聞もない……この構成で圧殺する!」
「シナリオで一回しか出てこない強ユニットだけの構成! ネット対戦のレギュレーション違反だな」
「勝てばいいのよ、勝てばね!」
「スリップダメージで削り殺す」
「あああああああ! お迎えするの、大変だったのに~~!」
※
オルプネは現行の『二進数携行女神』シリーズの、ゲームシナリオをクリアした。
だが『二進数携行女神』はPVPとなると別の様相を見せるゲームである。
予備知識や基本戦術を知らない者と知っている者では、勝負のステージが違うのだ。
本気で勝負をすれば、勝ち目などあるはずもない。
「全然勝てない……」
「もう諦めて、ハンデ戦にするか?」
「いや! 絶対にあきらめない! 編成を見直して、今度こそ全勝してみせるわ!」
(深みにはまっていく……縛りとかRTAに手を出さないようなのが救いか……)
不屈の闘志を燃え上がらせるオルプネ。
しかし大和はいい加減疲れていた。
(せっかくの夏休みを帰省に浪費しているだけでも嫌なのに、実家にこもってゲーム三昧……をしているクラスメイトの遊び相手か。せめて外出したい……とはいえ、イヤな思いをさせるのは不本意だな)
ここで大和はスマートフォンを取り出し、AIに質問をする。
「『二進数携行女神』のゲームが好きな女の子、外出。どこがいい?」
『『二進数携行女神』のテーマパークが近所にあります。きっと気に入っていただけるかと』
「……はっ!?」
大和としては『二進数携行女神』が好きな女の子が好きそうな外出先を聞いていたのだが、AIは素直に『二進数携行女神』の関連施設を紹介してきた。
そのAIの返答は音声であった。そのため、オルプネは聞き逃さなかった。
「テーマパークって何?」
『特定の場所で設営され続けるサーカスのようなものだとお考え下さい。この場合は、『二進数携行女神』の作品に関連した施設などが多くあります』
「行きたい!」
「AIを活用しやがって……」
彼女は大和のスマートフォンのAIで状況を把握する。
一方で大和は乗り気ではなかった。
「AIはこう言っているけどさ、夏休みのテーマパークは混んでるなんてもんじゃないぞ?」
「それはそれでいいじゃない! 沢山の同志がいるなんて素敵だわ!」
「……わかった、それじゃあ今から行こう」
「やった~~!」
やはり自分に置き換えて、行けないと言われた場合のことを考える。
そうなればいかないわけにはいかなかった。
それに家の中でひたすらゲームをするよりはマシに違いない。
「……そのテーマパークの閉園時間は?」
『21時です』
「晩飯はいらないって書置きしていくか……」
閉園ギリギリまで粘るであろうことを予測して、家族に連絡をしておく大和であった。




