大和君は結構素直
さて……オルプネが来日したときのことである。
オルプネは多くの買い物をし、テーマパークでも豪遊した。
学生の身分としては、大いに散財したと言っていい。
だが同行している大和はそこまで出費がなかった。
自分ではゲームを買っていないので、せいぜいテーマパークでの出費ぐらいである。
次いで、アトランティエである。
彼女は船に飛行機に新幹線と大いに移動し、本格的な宿屋で宿泊もした。
大和はそれに同行していたが、アトランティエがその費用は持っている。
だがそれは全く当然のことであろう。ある意味勉強にはなったが、不本意な移動だったのだ。
大和は楽しんでいなかったので、全額払ってもらっても申し訳とは思わないし、なんなら金をもらったって今後付き合う気は無かった。
そして現在、ヒュヘルムネーとクロリスが来日している。
今までクロリスが結構な出費をしているが、それは彼女個人が自分の物を買っているだけだった。
大和は損も得もしていないし、出費もなかった。
そのような状況で、ライブに行こうとクロリスが提案した。
なので大和とヒュヘルムネーは同行しようとしたのだが……。
『ライブに行ったら、その服汚れるんじゃない? 着替えるか汚れる用の新しい服を買ったら?』
クロリスがそのように提案をしたので、早めに昼食を食べた後で、ライブまでの道中、ヒュヘルムネーの服を買うことになったのだった。
※
ドリュアデスの国では、服を自作する文化があった。
だが現在は服を店で買うことも多くなっている。
だが大抵の服飾店は個人経営の店である。
日本の『大型小売店』というよくわからない名称のショッピングモール内にあるいくつものお店で買い物をするということはない。
少なくともヒュヘルムネーはそうだった。
「お、おう……?」
大和の提案で、まずショッピングモール内を適当に歩き回ろう、という事になったのだが……。
都内の大型ショッピングモールに入った彼女は、目を回しかけていた。
建物、店、商品、客。
あまりにも多くのものが視界に入ってきて、情報処理が追い付いていなかった。
「おい、ヒュヘルムネー。道の真ん中で立ち止まるのは失礼だから、ゆっくりでもいいから歩こうぜ」
「う、うん……あのさあ、私、本当に、この服でこの店に来てよかったのかなあ」
「気にすることねえよ。ドリュアデスの国の伝統衣装なんだから、むしろちゃんとしてると思うって」
「なんかさあ、何もかもがたくさんあって、全部綺麗なんだけど……この中から、私が着る服を選んで買うんだよね……?」
情報過多で、パニックを起こしていた。
目に映る範囲ですら、お洒落……らしき服が大量に陳列されている。
その御手本のように、このショッピングモール内にはたくさんのお洒落な日本人たちが歩いている。
ちらほらと異世界側の住人や混血らしき人も見える。彼らもまたお洒落な格好をしていた。
自分が彼らと同じような服を着ている姿が想像できない。
その良しあしなどなおさらわからなかった。
「無理……もうオウチ帰りたい……」
「ん~~……いきなり刺激が強かったか。これじゃあしょうがないな、帰ろうか」
「……ちょっと待って」
大和はヒュヘルムネーの意見を尊重しようとしている。
特に急ぐ用事があるわけでもないのだから、彼女の気持ちを尊重しようとしたのだ。
だがクロリスからすれば今帰るのはそんなにいい話ではない。
自分だけで日本国内を移動するのもどうかと思うし、どうせならこの二人と思い出を共有して、アレクサンドロス学園に帰ってからも話をしたかった。
なのでなんとかしようとしたのである。
「ヒュヘルムネー、聞いてちょうだい」
「え、なにか、こう、演奏でもして私の気分を楽にしてくれるの?」
「だから、音楽に、そんな力はない」
「う、ご、ごめんなさい……」
クロリスは若干キレていた。
彼女らは自分を何だと思っているのだろうか。
「大和は最初に適当に歩いて、好きなものを探そうと言ったでしょ。でもあなたは洋服の良しあしがわからないから、何を着ればいいのかわからない。おーけー?」
「うん。変な服を着たら、変な子だと思われるかもしれないし」
「じゃあそれを大和に伝えよう。それでこういうの。大和君が決めてって」
「ええ!? 大和君が私の着る服を決めるの!? 大和君が似合うよっていう服を私が着るの!? 着てお出かけするの!?」
「そうそう。ちょっと考えてみて」
大和に聞こえないように話していたのだが、ここまで行ってクロリスはヒュヘルムネーの元を離れた。
「大和。適当な店に入って、適当な店員捕まえて、あの子に似合う服はありますか、って聞いて、それを自分の提案のように話せ。それで丸く収まる」
「ええ!? 帰る流れだっただろ?」
「まあまあ、考えてみて。私が仮に『音楽が素敵なゲームを教えて』って言ったらどうする? AIでも使って候補を上げる? それでも膨大でしょ。全部候補にしないでしょ」
「ああ、絞るに絞れないな。かといって全部見せたら、それはそれでクロリスも困るよなあ」
「似たようなもんよ。ヒュヘルムネーはいい服を着てお洒落したいとは思っているけど、初めてたくさんの服を見たから何を選べばいいのかわからない。だからプロに選んでもらった服を貴方がおススメすれば万事解決」
「そんなにすんなりいくかなあ?」
「ここは日本の大型店舗なんだから、ドリュアデス向けの服もある。でも絶対数は多くない。だから店員も無難に選んでくれるんじゃないの? 明らかに変な服しかないなら別の店に行けばいいし。とにかくさっさと決めて、みんなでライブに行きましょう(強弁)」
「ヒュヘルムネーがそれでいいなら、俺はいいけど……」
「ヒュヘルムネーは大和が好きなんだから、きっと大丈夫よ」
「その話の信ぴょう性が、あるのかないのか俺にはわからないんだが……それ、本当なのか?」
「話しているとそういう感じがするわよ。今も大和に服を選ばせるって言ったら喜んでたし」
「そうか? なんかもだえてるけど……」
大和がヒュヘルムネーを見れば、何やら悶えていた。
楽しそうでも幸せそうでもない。挙動不審に見えた。
「ヒュヘルムネー、帰りたいんなら帰ろうぜ? 気にしなくていいからさ、ほら、また別の日に……」
「……や、大和君が服を選んでくれるなら、着る」
「そ、そうか?」
新緑の肌が赤く染まっていたが、ヒュヘルムネーは大和に見えないように顔を逸らしていた。
その初々しい反応を見た大和は……。
(俺のことが好きだったらもっと喜ぶよなあ?)
乙女心の恥じらいを正確に観測できていなかった。
※
さて……。
大和は少し考えた。
服装、それもドリュアデスの女子に似合う服など自分にはわからない。
プロの店員に選んでもらった方がいいのは事実だろう。
だが店員が選んだ服を自分が選んだという体で彼女に推すのはあまりいいことではない。
そこで店ぐらいは自分で決めようと思ったのだ。
(まあぶっちゃけ、ここだよな……)
大和にはよくわからない感覚だが、女子とは買い物をすること、多くの店を歩き回って選ぶこと自体が楽しいらしい。
なので最初はショッピングモール内を歩き回ることを提案していたが、最終的には『ここ』に来るだろうと思っていた。
ぶっちゃけ、このショッピングモール内で一番安い店である。
そもそもの趣旨として買いたいのは『汚れてもいい服』なのだし、ヒュヘルムネーはオルプネやアトランティエほど実家が裕福ではない(あくまでも相対的な意味。大和の家よりずっと金持ち)。
なのだから、男性用も女性用も売っている、安い店に入ったのである。
条件は絞れるほうが、案内はしやすいのだ。
(安い店だから決めたってのは内緒にしよう……)
芦原大和は欺瞞もできる男であった。
「大和君が選んだ服を私が着る……大和君は私が着る服を選んでくれる……」
(やっぱりヒュヘルムネーは大和が好きっぽいね~~)
ヒュヘルムネーは多好感でいっぱいになっているからか、待ちの姿勢であった。
店の入り口でクロリスの隣に立ち、恍惚の表情でもだえている。
(ヒュヘルムネーがあそこで待ってくれているんなら都合がいいな……)
大和は足早に店員を探す。
量販店ということで店員も多くいて、そのうちの一人……女性に声をかけた。
「お忙しいところすみません、ちょっと服選びについてアドバイスを……」
「ああ、はい。なんでしょうか」
大学生か、あるいは社会人一年目か。
それぐらい若い店員は、大和の方をビジネススマイルで迎える。
「実はあそこにいるドリュアデスの子に似合う服を探しているんです。どういうのがいいですかね?」
「へえ、ドリュアデスの……」
若い女性店員は、店の入り口側にいるヒュヘルムネーを見た。
幸せそうにもだえている姿を見て、彼女は私情の入りまくった笑みに変わる。
「へえ、へえ、へえええええええええ!」
(なんだろう、父さんと母さんと姉ちゃんのような顔をしている)
「そういう事であれば、こちらなんてどうですか?」
「え、え?」
「ご安心ください、女性服ですから」
「それはまあそうかもしれないですけど……喜んでくれますかねえ?」
「大丈夫ですよ、それにこう言えばいいんです」
アドバイスを聞いた大和は、とりあえず大人の女性の言葉を信じることにしたのだった。
※
試着室の中に、ヒュヘルムネーとクロリスが入った。
ヒュヘルムネーは服の着方がわからなかったので、クロリスの補助を必要としていたのである。
大和は少し離れたところに立って、少し不安そうに待っていた。
ほどなくして、着替えたヒュヘルムネーが出てくる。
「どうかな、似合ってるかな?」
(似合ってはいないな……)
以前に大和は、アトランティエに対して『やっぱりメガネが似合う』と言っていた。
彼にも多少はファッションセンスがある。
そのうえで、思うのだ。
ヒュヘルムネーに革ジャンとデニムは似合わない。
かなりワイルドでボーイッシュな服装であったが、本当に似合ってない。
彼女のイメージに合わない。
もちろん、女性用の服であるし、変な柄でもない。
なので『絶対にナシ』と言うほどではないのだが……。
(でも嬉しそうだな……それならもうこれでいいか。ライブに行くには十分だしな)
「に、似合ってる?」
「ん、うん。似合ってるよ」
「そ、そっか! どういうところが?」
「それは、ほら……」
大和は店員からの受け売りを口にした。
「俺と同じ服なら、疎外感とかないだろ?」
「そっか!」
芦原大和は現在、革ジャンとデニムを着ていた。
つまり大和が意識していないだけで、一応お揃いなのである。
ヒュヘルムネーはそのことに舞い上がっていた。
この状況に安心したのはクロリスであった。
(上機嫌になってくれたか……ヨシ!)
そんな彼女は、遠くから自分たちを観ている若い女性店員に気付いた。
なかなかいい笑顔でサムズアップをしている。
クロリスはそんな彼女へ返礼をするのだった。




