サプライズ
ドリュアデスの国にも年末年始という概念はある。
日本同様、年末年始は冬にあたる。
広大な草原には冬の雪が降り積もり、日桂樹の影で暮らす人々は積みあがっていく雪を見上げていくのだ。
多くの仕事が休みで、学校も休みとなる。
そのような中で、学校の生徒たちも夏休みの時のようにワープ駅を使用しようとしていた。
なのだが……。
オレイアデスのエコーとランパデスのオルプネは、駅の前で大いにもめていた。
「クロリスとヒュヘルムネーだけ連れていくなんてずるいわ~~! 私も連れて行って~~! 日本各地の専門ショップをめぐって、各地の『二進数携行女神』期間限定グッズが欲しいの~~!」
「私も連れて行ってくださいな! 日本全国食べ歩きツアーを催したい~~! 新幹線で長距離移動して、宿をとって、三食食べて、移動してを繰り返したいのですわ~!」
「その旅行内容を聞いて、誰が連れていくと思うんだよ! 年末年始ぐらい、ごくごく普通に、実家でのんびりしたいんだよ! 少なくとも冬休みは東京を出ねえよ!」
日本人の芦原大和は、懇願してくる二人の令嬢に激怒の表情で罵倒していた。
周囲の生徒たちも『さすがにそれはねえな』とあきれ顔である。
仮に自分たちが年末年始の休暇を令嬢の休暇につぶせるかというと、断るのが当然だ。
なんなら、クロリスとヒュヘルムネーを連れていくだけでも、大和はだいぶ温厚である。
「特にオルプネ! お前は実のご両親だって『アイツを出島に連れて行ったら予定通りに帰れない』って言われて、連れていくの断られてるだろ! 実の親が無理なことを、俺に頼むな!」
「しょんな~~! 村づくりゲームの『ボクハゴッデス』の村の景色を調整したいだけなのに~~!」
「無限に時間を溶かすゲームで有名なアレを『だけ』で済ませるな!」
ここでエコーが挙手をする。
「私は! 親に駄目と言われていませんわ!」
「じゃあ親に連れて行ってもらえ!」
「そんな……」
大和は頑として聞き入れなかった。
そんな、ある意味で酷い光景を見て、ヒュヘルムネーは……。
(いい、そのまま絶対に断って……!)
心の底から大和を応援していた。
(なし崩し的にあの二人を連れていくと言ったら、その方がむしろ嫌いになるし……ゴネ得なんて、私が認めない!)
これが百パー他人事なら、いっそ連れて行ってあげればいいのに、と無責任に考えるかもしれない。
だが今の彼女は当事者だ。断固たる態度をとる大和にむしろ好感度を上げていた。
なにせ二人のどちらかを連れて行ったら、委員長ことアトランティエの時のように、あらゆる予定をぶっ壊してあちこちに連れまわされてしまうのだ。
そうなったら疲れるだけじゃない。ご両親に挨拶をすることも叶わない。
(クロリスが一緒というのは良くないけど、とにかくこれ以上予定は増やさない……!)
ふとクロリスをみれば、待ち時間を利用してオカリナを吹いている。
かなり情熱的、冒険的なメロディーをノンストップでヘビーローテーションしていた。
ある意味で強敵だが、矢印が互いに向かなければそれでいい。
そう思うしかなかった。
(大和君には私との時間を意識してもらう……そしてその後も、特に強く食いつかない! この二人や委員長のようになってはならない……! 大和君に嫌われるし、普通に周囲もドン引きしているし!)
品位って大事だなあ、という反面教師を実践している二人に呆れている生徒たち。
そのような空気を切り裂いて、圧倒的な魔力を放つ四人の大人がワープで出現してきた。
寒色の種族ランパデスと、赤の種族オレイアデス。
それぞれの夫妻であった。
「お父様、お母様!?」
異口同音。
エコーとオルプネが驚いていた。
二人の両親は『有力者』であり、四人ともが成熟した魔法使いである。
政治的にも武力的にも、この場の子供を制圧するのに過剰な戦力であった。
呆れムードだったが、一気に引き締まる。
やはりエコーもオルプネも、軽々に扱える相手ではないのだ。
(ヤバいか……?)
これには大和も血相を変えていた。
手打ちにされても文句が言えない状況に思えたのだ。
「……ふむ。君が芦原大和君だね? 娘やレアードから話は聞いているよ。大変迷惑をかけているようで、謝っておきたかったのだ」
「本当にごめんなさいね」
なお、エコーの両親……この学校の生徒の親の中では最上位に近い上流階級のオレイアデスの夫妻は、普通の親同様に申し訳なさそうな顔をしていた。
娘の行動を問題視していたのである。
「こんな下品な真似をして……恥を知りなさい」
「まったく美しくないわよ」
「お、お父様とお母様が悪いんです! お二人が私をあおるように日本の食を小出しにして……それに! 私のことを連れて行ってくれないではないですか!」
ただでさえ赤い顔を赤面させつつ抗議するエコー。
そんな彼女に二人は笑いかけた。
「うむ、ということで今回は一緒に日本へ行こうではないか」
「今回は仕事じゃなくて、純粋に観光なのよ。一緒に楽しみましょう?」
「……え? え、えええ!?」
「私たちがただ娘に嫌がらせをする親だと思ったのかい? そんなことはないさ、一緒に楽しむとしよう」
「日本の美味しい料理を、沢山食べましょうね」
「や、やったわ! やりましたわ~~~!」
ここでエコーは、『サプライズで日本に行けることになった外国人の子供』のようなリアクションを取った。
芦原大和は『アレってガチだったんだ……』とドン引きである。他の生徒も同じようなものである。
オーバーリアクションで大いに盛り上がっていたエコーは、うっ憤が解消されてからか一気に冷静になっていた。
「大和……今までの非礼をお詫びするわ。今後はあんなことがないように努めるから、今後も友達でいさせて」
「……うん」
いつものエコーに戻ったことで、大和は逆にドン引きしていた。
彼女の中のスイッチがどれだけ急激な変化をもたらすのかわかると、本当に恐ろしくなってしまったのだ。
「お父様、お母様! もしかして、私も!?」
目の前でエコーが日本に行くことになって、オルプネは期待を込めて両親を見る。
「いや、お前は普通に実家に連れて帰る」
「普通に実家で『役目』を果たすわよ。ほら、行きましょう」
二人は期待を裏切った。
「いいいいい~~~や~~~!」
「おわあああああああ!」
オルプネは絶叫しながら大和にしがみついた。
大和も絶叫した。
「ちょ、ちょっと! 離れて!」
「絶対にはなれないわ!」
がっちりとホールドしているオルプネを、ヒュヘルムネーは引きはがそうとする。
大和もはがそうとするが、なかなかはがれなかった。
「えい」
「おうぎゃあああああああ!!!!」
そこでオルプネの母親が拷問魔法を放った。
昭和のギャグマンガのようなダメージ描写とともに、オルプネは地面に倒れて痙攣する。
「オルプネ。そんなにお友達に迷惑をかけてはいけないよ。それに家のことを軽く扱ってもいけない。お前がこの学校に通えているのも、日本で好きなだけ遊べたのも、家があるからこそだ。いいとこどりだけしようなんて、甘えすぎだぞ」
「そうよ。そんなことを言っていると、大人になった時苦労するわよ? だいたい、日本が楽しめるのは、お金があるからよ。お金がない状態で日本に行っても楽しくはないわ。日本を楽しむためにも、おろそかにしちゃダメなの」
実の娘を軽く拷問し激痛を味わわせた両親は、ちゃんと説教していた。
(俺とヒュヘルムネーが密着しているのに魔法をぶっ放して、しかも成功させやがった……!)
(あれ、そうとうな威力の拷問魔法だよね? なんでノータイムで撃てるの!?)
なお、周囲の生徒は今の拷問魔法の精度や威力を感じ取り、ドン引きしている模様。
「でも……お父様もお母様も、若いころには自分の時間を大事にしていたじゃありませんか! 私だって、自分の時間を……ゲームの時間を求めます!」
ダメージが抜けたのか、抗議するオルプネ。
家族との時間、家の義務の時間。
それよりもゲームがしたいという、お年頃の娘の主張。
「私だってゲームしたいわ。でも我慢してるの」
「私もだ。お前も我慢しろ」
(説得力があるのかないのかわからん……だが言っているのが正しいのは親だな)
父母娘。三人ともゲームがしたいようなのだが、我慢して実家で親戚付き合いをすることになっていた。
これは決定事項であり、変えられそうにない。そのために両親はここに来たのだろう。
「それから、大和君……君が教えてくれた新作なのだが、とても、とても……最高だった! 教えてくれて感謝する! 一羽の鳥として、感謝を!」
「私もドライバーの一人として感謝するわ! やっぱりゲームは最高ね!」
「あ、はい……教えただけですから、そんなに感謝しないでください」
「そんなことはない! 反射神経が衰える前に教えてもらってよかった!」
「今も週に一度は出島に行って遊んでいるの! そのために仕事の密度も上がって、周囲からの評価も上がっているわ!」
ゲームの経験は大人になった後に何の役にも立たなかったと語った二人。
しかし仕事をまじめに頑張るという意味では、ゲームが役に立っていると言えなくもない。
「私もそうしたいのにぃいいいい!」
「我儘を言うんじゃありません」
「お父様とお母様だけずるい~~!」
「ほら、行くぞ」
ランパデスの親子三人はワープして故郷へ帰っていった。
その姿を見て、大和は……。
「さすがに可哀そうになってきたから、日本に行ったらお土産を買っておこうか」
「……そうだね」
流石のヒュヘルムネーも、同じ年代として同情してしまうのだった。
なお、クロリスはまだ演奏を続けていた模様。
一方アトランティエは、両親に樹木操作魔法で拘束されていた。




