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日本刀歌

総合評価、5,000pt突破!

ありがとうございます!

「委員長、眼鏡似合ってるな。前から似合うと思ってたんだ」

「容姿を褒められたら悪い気はしないけど、なんだかバカにされている気分だわ」

「いやいや。その携帯端末とグラス、マジで似合ってるよ……ん?」


 新出島の日本側に踏み込んだ二人は、早々に入国手続きを済ませた後、フェリー乗り場へ歩いていった。

 その途中で、橋への進路を確保する警官隊に遭遇した。


 何事かと思って待っていれば、ランパデスやオレイアデス、ドリュアデスから構成される異種族犯罪者が、捕縛されたままバベルの橋を渡ろうとしていた。


 日本人の警官がいるのは当然として、異種族側の兵士たちも受け取りに同行している。

 おそらくこのまま橋の異世界側まで行って、そこで警官隊が別れることになるのだろう。


「ああいう犯罪者がいるから、観光ビザなどが下りにくくなっているのよね」


「……ん、ま、まあな! そうだな! だけどそういう人ばっかりじゃないっていうのは、俺もわかってるぜ。少数の犯罪者のせいで、他のまともな観光客が割をくってるんだよな」


「なんでそんなに気を遣った言い回しをするのよ」


「いや~~……今までの自分を猛省していてさあ。気を遣うようにしているんだよ」


「それは、文明人として正しいことね。でも何がきっかけでそうなったの?」


「話すと長くなるんだけどさあ……。まあそもそも、昔の俺は日本が何一つ欠点の無いとってもすごい国で、俺は日本人であるというだけで偉大な存在だと思い込んでいたわけ。だから『日本最強系海外の反応動画』とかが大好物だったんだけど……それの中にフェイク動画、創作話が混じっていると知ったんだ。そうなると逆に冷笑系……日本はダメな国だっていう冷笑系というか自虐系動画を見るようになって、今までの自分が恥ずかしくなったんだ。留学しようと思ったのも、それが原因だったんだ。だけど、オルプネと一緒に日本をめぐって、日本を案内して、色々とフラットになったんだ。日本にはいいところもあるし、悪いところもあるし、普通なところもあるし、それは俺個人とは関係ないってね。なんでもかんでも混同して考えるのは止めようって思ったんだ」


「それはいいことね。でもこの点に関しては、本当のことだから仕方ないわ。犯罪者が多く出る国のビザ発行が厳しくなるのは当然じゃない。それでいけない国ができてしまうのなら、それはその国が悪いんじゃなくて、自国の犯罪者が悪いのよ」


 今更だが、オルプネもエコーもクロリスも、いいところのお嬢様である。

 海外旅行をする金銭的余裕はある。大和の家に泊まる必要などない。


 だが観光ビザに関しては大和の助力が必要となる。


 端的に言うと、日本人が同行せず、異種族だけで観光ビザをとるのは難しい。


 オルプネの問題行動どころではない、正真正銘の犯罪を行う異種族が多く現れてしまったため、日本政府は異種族へ簡単にビザを発行しないようにしている。


 これに関して、各異種族の政府も納得している。

 むしろ厳しくしてくれるぐらいでないと、犯罪者が魔法の使えない日本に大挙して逃げ込みかねないのだ。


 必要な措置ではある。

 だが善良な観光客には迷惑な話だ。


 まあ、オルプネが善良な観光客と言えるかどうかには議論の余地があるのだが。


「それにしても、実際に見ても理解に苦しむわね。魔法も使えない国で犯罪をするなんて……密航するのも楽じゃないでしょうに。噂のプラスチック容器の食品の密輸入でもしていたのかしら」


「けっこうな重罪を侵したみたいだぞ」


 大和は携帯端末を取り出して、ネットニュースで確認した。


 先ほど通り過ぎた者たちは『ごみ処理上問題のある食品の密輸』どころではない大罪を犯したらしい。


「国立図書館に押し入るために手製の爆弾とかを作っていたとか」


「……図書館、爆弾!?」


 アトランティエは顔をゆがめる。


「石でも投げてやりましょうか」


「おいおい、人権人権。死刑になるとしても、道中で暴行を加えるのは犯罪だって」


「わかってます! ……ところで、図書館に押し入るという事は、目当ての本でも有ったのかしら?」


「うん。300年前に寄贈された『ドライアード史 全30巻』を全部盗んで、ドリュアデスの国に持ち帰るつもりだったんだと」


「……『ドライアード史 全30巻』を、盗む?」


 怒りの感情のまま、アトランティエは大和に襲い掛かった。


「どういうこと!? なぜドライアード史が全部そろっているの! ドリュアデスの国にも現存していないのに! なぜ別世界である日本に保管されているの!」


「だから、寄贈されたって言ってるだろ!? 300年前に寄贈された本が国立図書館に保管されているだけだよ! 何がそんなに不思議なんだ!? それにそもそも……」


 ーーー他国の人に自国を紹介する時、自国のいいところや悪いところを学ぶことができる。

 逆に他国に行くことで、自国との違いを知ることができる。


 それは楽しい学びである。

 だが物事には限度もある。



「アレクサンドロス学園の図書館にある本のほとんどは、日本の国立図書館に保管されている本の写しだろ?」

「……は?」



 ここで、彼女は自分の父や祖父の言葉を思い出した。


 歴史に闇はない。

 我々のしていることは、過去の歴史の証拠を集めることであって、新発見をすることではない。


 その意味するところは……。

 オリジナルは全部日本にあるから、発見するものはないよ、ということだった。


「ネットでも有名な話だぞ? 俺も留学前から知っていたし……」

「なんでそれを私が知らないのよ!」

「それは俺が知らねえことだよ。ネットにもAIにもわかんねえよ。普通に教育方針じゃねえか?」

「なんで貴方は私に教えてないのよ!」

「常識だと思っていたからだよ! それに俺がお前に教えるってことは……」



 へえ、アレクサンドロス学園の創始者の子孫?

 なら知ってるよな? この学園が誇る図書館の本は、日本に保管されていた本の写しなんだぜ?

 それでデカい顔をしてるなんて、お笑いだよなあ?



「って、死ぬほど腹立つマウントを取るってことだぞ?」

「うぎぎぎ……そ、そのとおりね……でも、それを聞いたからには確認しなければならないわ……行くわよ、国立図書館!」

「……」

「なに、行けないの? 入れないの!? 図書館なのに!?」

「元々連れていくつもりだったんだ……喜ぶかなって……でもそんなに意気込んでると、連れて行きたくなくなった」

「何でよ! ちょっと入って、確認させてもらって、本物ならば日本からドリュアデスへ返還してもらうよう抗議するだけじゃないの!」

「それ半分犯罪だぞ? いや、っていうか、本当に……大丈夫か?」


 大和は芸術や考古学にそこまで興味がない。

 しかしそれらが重要な物であることは知っている。

 もしも彼女をこのまま連れて行ったら、現地でシャレにならない犯行に及ぶ可能性があった。


「は、は……犯罪は止めろよ!?」

「もちろんよ! それは最後の手段でしょ!」

(委員長を縄で縛ってでもアレクサンドロス学園に連れて帰ろう)


 友人が犯罪者になるどころか、自分が共犯者に仕立て上げられそうになっていた。

 大和は彼女の自由意志と自由行動と自由時間を奪ってでも、自分が犯罪者になってでも、彼女を止める覚悟をしていた。



 一晩船に揺られた二人は、日本本土に到着すると、大和の実家へ向かうこともなく『国立図書館』へ向かった。

 この時代には国立図書館はいくつかあるのだが、二人が向かったのは日本が異世界に転移してから以降集まった本の保管場所『国立新世界図書館』なる施設であった。


 日本がこの世界に転移して300年の間に、世界中から集めた多くの本が収められている。


 歴史のある施設ではあるが、建物そのものは何度かの更新をしており、外見はとても真新しい。

 威厳という意味では、アレクサンドロス学園やその図書館の方が上だろう。


 ふんす。

 負けてないわね。

 委員長は心の中で勝ち誇る。

 しかし肝心なのは蔵書だ。

 箱で勝っても仕方ない。


 決戦に臨む気迫で、彼女は図書館へ入っていく。

 そんな彼女に続く大和も、いざとなれば友人と世界平和のために実力行使する所存であった。


 二人は正面入り口から入る。


 そこには大学生や大学院生らしき人たちや、司書の方々がまばらにいた。

 以前に行ったテーマパークとは、人口密度がまったく違っている。


 お堅い空気であったのだが、ドリュアデスのアトランティエを見て、緊張が高まっていた。


(きっと同じような雰囲気の子が今までもいたに違いない……)


 大和は慎重に受付へ向かい、受付嬢のお姉さんへ慎重に話を切り出した。


「すみません。ドライアード王朝から寄贈された『ドライアード史 全30巻』の閲覧を希望したいのですが……」


「はい、それでは案内役の司書と警備員をお呼びしますので、お待ちくださいね」


「お手数をおかけします」


「こういうお仕事ですから……ははは」


 殺気を感じ取った受付嬢は、司書と警備員へ連絡をする。

 

 穏当に話し合いができるのなら警備員に出番はないが、もしもの時には必要なのだ。


 お互い、手を出さなければ安全に事が済むのである。


「閲覧の許可が下りたぞ。一応言うが、貸出は禁止されてるからな」

「禁止されてない方が怖いわよ!」

「大きな声出すなだわよ」

「……ごめんなさい、興奮していたわね」

(マナーを守る理性はあるのに、法律を守る理性は無いのか。どういう精神状態だ)

 

 奇妙な緊張感。

 しかし無理もないことであろう。


 なにせこれから見るのは『歴史本』であると同時に『文化財』。

 内容もさることながら、本という物体そのものにも価値がある。


 あるいは、セットで切り離せないのかもしれない。


 ドリアード王朝から寄贈され、この図書館に保管されている、この本。

 それに書かれている内容である、という事が意味を持つのかもしれない。



「失礼します。司書の宝蔵(ほうぞう)(まもる)と申します。今回は『ドライアード史 全30巻』の閲覧を希望という事でよろしいでしょうか?」


「ええ! ぜひ、真偽を確かめたく!」


「では、こちらへ……」


 図書館内の、一般見学希望者が入れるスペースの中を、成人男性の司書に案内される二人。


 小さめの個室、面談室程度の狭い部屋に入ると、そこには『元警察官』か『元自衛官』という雰囲気の男性が一人待機していた。


 大和は気圧されるが、アトランティエは負けていない。

 むしろこれから閲覧する本の重みからすれば、不足と思うほどだ。


「まず、手袋とマスクをどうぞ」


「わかったわ!」


 本を保護する目的で、大和とアトランティエは白い手袋をはめる。

 使い捨てではあるのだろうが、清潔な布製であった。

 使い捨てのマスク、これも飛沫を防ぐためだろう。

 これまた当然の処置。


 そのように防護……人から物を守るための処置をして、ようやく『一冊』の本がテーブルの上に置かれた。


「まず一巻です。用意はありますので、読み終わり次第交換いたします」

(一気に全部出すかと思ったけど……そりゃそうか)

「ええ、構いません。それにしても、この保存状態は……!」


 アトランティエは細心の注意を払って本のページを開く。

 大和からすれば、それは少し慎重すぎるようにも思えた。


 なにせまず、本の質が高かった。

 歴史書だけあって、最初から長期保存を前提としているのだろう。

 週刊誌のように、取っておいたらすぐにダメになる紙ではなかった。


 また、保存状態もいい。

 定食屋の漫画のように、沢山の人が適当に読むわけではないこともあって、新品とは言わないまでも読むことに問題があるようには思えなかった。


「……うん、うん、うん」


 彼女は内容を確かめていく。


 大和が言っていたように、アレクサンドロス学園に置かれている歴史書と同じか検証しているのだ。


 彼女も内容をすべてを覚えているわけではないだろうが、大筋……歴史全体やそれへの批評に違いはないと確認できていた。


 辞書ほどではないが、分厚い一冊。

 それを30冊も検めるころには、閉館時間を過ぎていた。


 それでも大和も司書も警備員も付き合っていた。

 それぐらい彼女が本気だったからだろう。


 本気だから警戒するが、応援したくもあるのだ。

 そうでなかったら、そもそも閲覧すら許すまい。


「もう、十分です……下げてください」


 体力を大いに消耗したアトランティエは、最後の巻を閉じた。


 司書がそれを部屋の外……一般客が入らない側のドアの向こうへもっていったあと。


 アトランティエは大和の首根っこを掴んで抗議した。


「なんで! 日本に! 原典があるのよ!」

「だから寄贈されたものが残ってたんだって!」

「なんで残ってるのよ! 300年前よ、300年! 普通は遺失するでしょうが! なんで全部がキレイに残ってるのよ!」

「それはわかるよ! それは日本でも起きているよ!」


 日本スゲーを信じていた大和なら、ここで無責任に、誇張された日本最強神話を語るだろう。

 だが今の彼は現実を知っている。それに沿った説明をした。


「日本だって地震も内戦も火事も暴動も起きるよ! 神器が海に捨てられたり、敗軍の将が釜ごと自爆したり、戦争が起きたからって寺の鐘を銃弾にしたり、廃仏棄釈だとかみたいに政治的な理由で文化財を破棄することもあるよ! 歴史的価値のあるものが全部残ってるなんてことは無いよ! でも、そういう事が無かったら、300年前の本が残ってるのは普通だろ?」


「普通って何よ! イヤミ!?」


「とにかく、残ってるだけなんだよ! そこに大した、こう、神秘的なパワーとかはないんだよ!」


「特別な理由がないからって、なんで残ってるのよ~~!」


 大和の認識は、司書や警備員をして否定できない。


 他国で起きる文化財の遺失は、日本でも起きないわけではない。


 ただ、比較すると圧倒的に残りやすいのだ。


 この圧倒的な差を、彼が理解しているとは言いがたい。


「ごほん! 閲覧は終わったようですね。そのうえで、司書として少しお話をさせていただきます」


 司書の男性は、彼女の憤りの根源を語り始めた。


「本日閲覧いただいた『ドライアード史』だけではなく、この図書館には多くの異世界の本が収められています。ドリュアデスの国とも協力しており、写本という形で提供しております。ですが……ここにある本は、一次ソースとして信用できない状態なのです」


「どういう意味ですか!? まさかAIによる偽物だとか!?」


「いいえ。日本側として、科学的な鑑定の保障もできます。ですが魔法的な鑑定ができないのです。日本に保管している限り、鑑定魔法が使えませんからね」


 史料批判という言葉がある。


 史実を確かめるには史料が必要だが、それが本当に当時に書かれたものなのかはしっかりと確認する必要がある。

 日本側としては科学的な検証で十分と言える。


 だがドリュアデス側は、鑑定魔法を使わない限り確認できないのだ。


「それでは、この本を出島に持っていくのはどうですか? 鑑定するだけでいいのなら、それで十分では……」


「アレクサンドロス学園側、およびドリュアデスの政府としては『万が一にも喪失したくない』という理由で断っています。やろうと思えばいつでも確認できますからね」


「万が一にも喪失したくない。それはつまり、この本をそのまま本国に持ち帰らない理由でもあるのですね?」


「ええ。それが向こう側。そして他の国々の見解でもあります」


 全世界が『保管に関して日本が一番信用できる』と信じている。

 その証拠を、彼女はすでに検め終えていた。


 そう、本当に検めるだけだ。

 大和や司書の言葉を信じるのなら、この図書館の蔵書は、全て写されて、アレクサンドロス学園に寄贈されている。


「本来なら……私たちアレクサンドロス学園こそが、ドライアード王朝の文化財保護の第一人者であるべきなのに……!」


「そんなに気落ちしないでください。貴方の先祖であるアレクサンドロス学園の創始者や、その遺志を継ぐドリュアデスの考古学者の皆さんの努力や成果とて、軽く扱えるものじゃありません」


「わ、私のことをご存じなのですか!?」


「それはもう。貴方のお父様も、良くここにいらして、娘である貴方のことを話していました。何時かこの図書館のことも伝えて、同志であると紹介するつもりだったとおっしゃっていました」


「そう、なのね……」


 これだけ素晴らしい図書館の司書から賞賛されたことで、アトランティエは少し気を楽にしていた。

 ここで、大和も同調する。


「そうだって! 内容が分かってるとしても、各地で埋もれてる文化財を発掘して補修することは凄い大事なことだよ! 俺が委員長の夢を応援したのは嘘じゃねえし!」


「それは……そうね。図書館にある本を保管することと同じぐらい、大事な事よね……」


 疲れていたアトランティエは、納得できていた。


 自分が誇っていた先祖の偉業は、決して陰ることはない。

 自分の夢だって、文化的に価値のあることだ。


 無意味などではない。やはり彼女は救われていた。


「ふぅ~~……あの、その、アレです。司書さん、ありがとうございました。アトランティエも納得してくれたみたいです」


「これが図書館の存在意義であり、司書の仕事ですから。気にしないでください」


 大和は司書に礼を言う。


 本当に夜が更けており、終電ギリギリである。


 申し訳ない限りであった。


「ですが、貴方たちは大丈夫ですか? 帰国の船などは……」


「明日帰るわけじゃないですから、平気ですよ」


「そうですか、それなら……」


(あ、いやな予感……)


 図書館の司書は、善意で情報提供をしていた。


「本以外のドリアード王朝の遺産をご覧になりたいのであれば、ここから新幹線の距離に『ドリアード博物館』がありますよ」


「そんな素敵な施設があるんですか!? ま、まさか、日桂冠(にっけいかん)の現物もあります!?」


「ええ、展示されています」


「大和! 今から新幹線の駅に行くわよ!」


(司書さんは俺の味方じゃなくて、アトランティエの味方だったのか……)


 警備員の男性に哀れまれつつ、大和は弾丸ツアーに付き合うことになったのだった。

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― 新着の感想 ―
鑑定魔法意図的にしない理由はその内容から来る政治案件かな?
何で資料が自国にないのに他国にあるんだという憤慨。それは300年間トラブルがなかったから紛失しなかったという当たり前の帰結。思うとこはあれどよく耐えられたね委員長。冒頭の犯罪者より立派やぞ
宝蔵さん、ナニやらかしてくれてんの?
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