元プリンセス
「検査の結果が出ました。主要器官には問題有りませんでしたが、足の親指先だけ大量の放射線を浴びていたので、数日中に壊死するとのことです。」
それを聞いた新井は手を叩いてわらっていた。
「一部に呪文かけ忘れて、耳なし芳一みたいですね!」
俺はムッとしたが絶望感はなかった。それを察したのか、金子が補足した。
「異世界へ行けば寝たきり老人が歩けるようになるくらい復活するんでしょう。井上さんの放射線障害も異世界に行けば治るんじゃないですか?」
赤く腫れ上がった右親指を見ながら、俺も確かにそんな奇跡が有り得ると思った。
「八王子に行くのは明日の午前10時だよな。」
「そうですけど。」
「じゃあちょっくら行ってくるよ。遅刻は絶対しない。」
2人には特段引き留められもしなかった。板橋に着いた頃、右足親指は青くなっていた。感覚ももうない。これが異世界の力で浄化するのか・・カケだ。
ワームホールを抜けた。現世界と異世界は90度の角度でつながっているため、現世界から抜けるときに脚から這いずる形で入る。ワームホールに脚を突っ込んだ瞬間、何か浄化されているように感じた。すぐに靴を脱いで親指を確認した。
「正常に戻ってる・・!」
異世界ご都合主義はここに極まれり・・。実験は成功だ。思うに、魔力が充満しているこの世界では常に魔力による自己回復が図られるのであろう。そうだ、そうに違いない。例え違ったとしてもこの世界は思考が現実化するのだ。
身体が治ったところでこの世界でやり残していたお使いクエストをこなすことにした。エルフの隠れ里だ。人間とエルフの混血を作ることで、人口減少問題を解決しようという話だ。果たして協力してくれるかどうか、二人のルカは。
早速バニシングでエルフの隠れ里まで行った。今の俺は心が綺麗なのだろうか?今の俺は霧を抜けられるか?そんな疑問を晴らすように、霧は綺麗に晴れていった。
「久しぶり。」
「久しぶり。」
母親の方のルカと、軽い挨拶を交わした。
「ルカは元気だった?」
「私はもうルカじゃないよ。the elf Formerly Known As Lucaとでも呼んでよ。」
「ややこしいな。元ルカでもいいか。」
「いいよ。それより、田中のお墓参り、するんでしょう?」
「そうだね。」
二人で無言で里のはずれにある共同墓地に向かった。この世界で国王であり、聖人にもなった田中の墓標は、みすぼらしい木の板でできていた。俺はそれを見て感情が昂り涙した。しかし、結局田中は理想郷だったこの国に骨を埋めることができたのだし、田中にふさわしい墓標だ、と思い返した。
スッと自然に手を合わせて祈った。それを見た元ルカに「なにそれ」と言われたが、返答はしなかった。
「お墓参りが目的じゃないんでしょう?」
元ルカは何かを考えるように俺に問いかけた。
「ああ、そうなんだ。相談がある。実は魔神様と話したんだが・・」
「言わなくても分かるよ。人が足りないんでしょう?今までは、エルフと人間とが結婚することはタブーだった。」
「今までは?」
「うん。女神様がタブーとしたんだ。でも、その女神様ももういない。協力はできるよ。できるけど・・。ダークエルフになった私が言える立場じゃないのはわかっているけど、エルフにも尊厳があるから。」
「そうだよな。当たり前の話だ。ただ、田中の愛したこの世界も守って行きたいんだ。できる範囲でいい。この世界の人間を増やすためにも、少しでもいいから協力してくれるエルフを見つけてほしい。俺を含め、異世界人が蹂躙したのが原因で身勝手なお願いだが、人里に出るだけで良い。そこで普通に生活し、普通に恋をして、普通に結婚してくれるだけで良い。」
「分かった。希望者を募ってできる限り協力する。娘のルカには会っていく?」
俺は考え込んだ。
「娘は、異世界人の父親を持って肩身の狭い思いをしていないだろうか。」
「そんなことないよ。立派に成長して、ダークエルフとなった私の代わりとしてエルフの里を率いている。父親がいなくても元気にやっているよ。」
「そうか。それならよかった。今さら父親面して会うのも気が引けるから、今回はよしておくよ。一応、この世界に入ったら念話は使えるようになったから、今後はこの世界に来るたびには一報入れるようにするよ。」




