サバーバリアン
都営バス3台に分乗し、俺達は八王子西インターチェンジから八王子市内に降りた。圏央道は打ち捨てられた無人の車で溢れていた。下り車線も上りの車が打ち捨てられていたが、中央分離帯に無理やりバスを突っ込み、狭いすき間を無理くり走らせた。どうしても邪魔な車はバニシングで消しながら進んだ。圏央道は今年ようやく高尾山部分が開通したものだが、開通が核攻撃前で本当に良かったと感じた。ここが開通していなかったら埼玉にも神奈川にも逃げられない人が多く、犠牲者はもっと増えていただろうし、現在の静けさはなかったであろう。
俺達はまず爆心地に向かった。地上付近で爆発したのでめじろ台にはクレーターができていた。その上に一旦空に吹き飛ばされてから落下したであろう無数のコンクリートの塊が突き刺さっていた。
両手にガイガーカウンターを持ち鼻水を垂らしながらバスから駆け出して来たガ◯ジが、はしゃぎながら放射線量を測定していた。こいつは俺が化外農場に行った時になんだか見覚えがあったので拾った。公園や河川敷の放射線量を勝手に測って、役所に頻繁にクレームを付けていたキチ◯イだ。実験用化外コーナーで発見したので面白半分に連れてきた。ある程度言う事を聞くように魔改造を施したが、実験用として何世代も重ねていたので海削達のように知性的にはならなかった。
「おーい、ベクレルおじさん、この辺の放射線量はどうなの?」
海削がおっさんに確認を取った。
「やっべぇ、やっべぇ、普通に即死だゾ!」
この感じじゃ、八王子駅近辺までは生存は絶望的だな。考え事をしていると、ベクレルおじさんが俺とじゃれ合いたかったのか、肩を擦り付けてきた。その瞬間、ベクレルおじさんの肩が消え、腕がぼとりと落ちた。おじさんは悲鳴をあげた。
「悪い悪い。常時俺の周りには対放射線バニシングがかかっているんだよ。放射線がまとわりついているものを消しちゃうから、みんなも気をつけてくれよな。」
「あ、こりゃ八王子はもうダメだ。」
爆心地から東西南北をサーチングしてみて俺は思った。半径1.5kmはクレーターだし、熱波も東は日野、南は橋本まで届いているようだ。幸い八王子は盆地のため、風による放射線の多摩川越えにはまだ至っていないようだ。そうはいっても衝撃波で八王子駅前は壊滅的ダメージを受けているし、やはり人の気配は全くない。サーチング範囲を広げてみた。南東の高台にわずかに人の気配を感じた。方角的には野猿峠のあたりか。野猿峠を登って高いところに逃げよう、という考えだったのだろう。長沼平山当たりの山の上にはちょうど薬科大もあるので、避難していたのであろう。医者でもないのに居合わせた薬科大生は避難民のお世話をさせられているのだろうか。運が悪いとしか言いようがない。
「おーい、薬科大に人がいるっぽいぞ。」
「井上様、ご尽力ありがとうございます。早速街宣しながら向かわせていただきます。」
「お礼なんていいよ。それより海削達は放射線は大丈夫なのか。」
「全く問題ないですね。魔改造いただいたおかげで、身体が粒子レベルで弾いているみたいです。一応、ノーガードの化外も連れてきましたが、これは御覧の通りここに至る道中で既に死んでいます。」
海削はクレーターに転がされた死体を指さした。
八王子市街は瓦礫の山だったが、ほぼほぼ熱波で人が死んでいるので、道路上に車などの障害物はほとんどなかった。それでもできるだけ大通りを街宣しながら都バスは野猿峠に向かった。
「ぼっ、ぼっ、僕らは共産青年団♪こちらは、共産党青年団です。罹災者の皆様、お迎えに参りました。遅くなりまして申し訳ございません。お待たせしすぎたかもしれません。」
途中、何人かまだ息のある人を拾い、バスに乗せた。ただ、放射線障害でもう長くはないだろう。地上の壊滅的状況に比べ、空は雲一つ無い良い天気だった。座席に座り空を眺めながら俺は、日当たりだけ良い、このどうしようもない街で思った。この作戦で、何か俺の忘れているものを思い出すことができるのであろうか。




