一度でも我に頭を下げさせし人みな死ねと祈りてしこと
俺はバニシングを使って女神の神殿に転移した。魔神の言っていた通り、イメージを膨らますことで例の森の中の神殿にたどり着くことができた。田中に2回連行された時はゲートのようなもので転移した。そのイメージと、転移魔法陣のイメージを合成させバニシングをかけた。
女神の神殿には大量の転移候補者が列を作っていた。女神のやつ、また俺の世界で大量虐殺をやらかしたな。しかし、これだけ人でごった返していると、俺の気配にも意識を割く余裕がなさそうだ。列に並んで堂々と謁見することにしょう。
列は順調に進んだ。いちいち訓示を述べずにポンポンと穴に落として異世界転生しているようだ。エマちゃんが作った化外自動牧草転送装置に似ていた。列に並んでいる人々の会話に聞き耳を立ててみた。どうやら八王子に核が落ちたらしい。この場には老若男女問わず存在した。ある意味で平等な空間なのかもしれない。誰もが死んだことは自覚していた。光が差すような明るい空間ではあるので、天国に行けるものだと皆楽観視しているようだ。しかし、目の前の人間が10人一列で穴にどんどん落とされているのを確認した瞬間、皆、顔が絶望に変わっていた。
遂に俺の列の番になった。女神はまだ俺に気付かない。事前の魔力やレベルの測定も省略しているのであろう。
「グッドラック」
女神がその一言だけ述べた瞬間、足下に穴が空き、俺以外の9人は穴に吸い込まれた。俺はバニシングで1m後ろに後退した。その異変を確認し、女神は俺を凝視した。
「お、お前は!」
顔がみるみると憤怒の表情に変わった。瞬間、女神は玉座の肘置きを強く叩いた。玉座の間の床一面全てに穴が空き、行列の人々はまとめて穴に落とされた。俺は天井にぶら下がっていたシャンデリアの上に移動した。
「どうも田中です。」
俺はそう言いうと田中の形見として貰っておいた聖人の証を女神に見せた。
「それは聖人田中のもの・・あやつがやられたことは聞いていたがお前の仕業だったのか!」
「そうです。女神様がくだらない虐殺に夢中で、女神の加護を疎かにしたから彼は死にました。」
「ふん、所詮田中ももはや老いぼれ。聖人でも何でもないわ!」
女神にとっては田中など使い捨ての駒だったのだろう。俺のかつての戦友でありライバルであり、仇敵。田中は俺にとっては特別な存在だった。女神のその言葉を聞いて俺は複雑な感情になった。
しかし俺は田中を殺した時、絶対に曲げることは許さない掟を自分に課した。
「一度でも我に頭を下げさせし人みな死ねと祈りてしこと」
女神は俺に頭を下げさせた。2度もだ。田中にも何度も下げさせたであろう。お前の敵もとってやる。
「この腐れ化外が!私の世界を汚染し尽くしやがって!いまこの手で始末してくれるわ!」
目を吊り上げ、口を極限まで広げたその顔は、まるで悪魔の如しだ。女神は俺に向けた指の先からビームを放つ。シャンデリアに直撃し天井を貫通した。続けざま、空から光の柱が降ってきた。ホーリーライトニングだ。が、田中のものとは桁が違った。半径50mを破壊し尽くすものだった。俺は森の入り口近くまで退避したが柱は縦だけでなく横にもホーミングして俺に迫った。しかしバニシングを極めている俺には対処は造作のないものだった。瞬間移動でかわす、当たりそうになったら光の柱の先をちょん切る。サーチングを併用する・・
神殿前に溜まっていた人々はホーリーライトニングに全員焼き尽くされていた。核攻撃でも焼かれ、女神にも焼かれ、救いようがない。ここは地獄に違いない。
今回も殺す技は決めていた。何度も疎まれ、何度も蔑まれ、何度も否定された技だ。とは言っても俺はほぼこれしか使えないのであるが。
「どうした!化外!逃げるだけしかできないか!」
「バニシング!」
「そんな化外魔法が私に効くかぁ!」
「どうですかね。」
女神は攻撃の手を緩めない。俺は逃げ続ける。
「どうしたどうした!私の魔力は無限だ!」
「女神様、恐れながら地平線がやたら近くなっているのはお気づきですかね?」
女神は周囲を見回し、異変に気づいた。神殿もろとも焼き尽くしているが、黒い壁の様なものがどんどんこちら側に迫っていた。一方だけではない。四方、更に空からも迫っていた。やがて地面からも黒い壁がせり上がって来た。
「お前!何をした!」
俺は笑いが止まらなかった。
「クックック、想像もつかないか?俺じゃなきゃ思いつかないね。」
「何を!した!」
「亜空間の柱を消したんだ。」
「意味がわからん!」
「冥土の土産に説明してやろう。女神様に冥土があるのか分からないけどね。ははは!」
「畜生!畜生!畜生!」
「異世界は時間が物凄く早く、現世界は遅いことにヒントを得た。光速に近づけば近づくほど時間が経つのが遅くなる。つまり、現実世界の方が光速に近いんだ。お前たちの異世界に比べて物凄く速い力が働いている。異世界と現実世界が同じ質量としても運動エネルギーK=1/2mv^2が段違いで現実世界の方が大きいんだよ。ここまでが大前提。」
「で、この場所だ。この場所は現実世界と異世界の狭間に存在しているという。マサユキが作ったワームホールを行き来してみて、この穴の壁の奥にお前らの住処があると感じた。ワームホール自体、ものの数百mしか長さが無い。だから、俺はこの亜空間の壁を消しまくった。異世界と現実世界の間の柱はスカスカだ。落盤事故みたいに、もう少ししたら現実世界が落ちてくるよ。文字通り理想が現実に飲まれるって話だね。で、この空間は異世界と現実世界に挟まれてぺしゃんこになります。これ、高校物理で習わなかった?」
「そんな無茶苦茶な物理学があるかぁ!」
「そうだよね。その通りです。おっしゃる通りです。でも、理想郷では思考が現実化するよね。イマジネーションが大事だよね。想像してごらん?そういう風に異世界を作ったんだよね?」
黒い壁はもう間近に迫っている。
「この近接でビームでも当てられたらヤバいから、俺はここらへんでお暇しますよ。バニシング!」
「畜生ぉー!!」
俺は女神の断末魔も聞くことなく、その場を後にした。




