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俺は魔王城に戻った。心は虚ろだった。何も考えが浮かばない。感情もわかない。嬉しくも悲しくも楽しくも腹立たしくもない。ただ、女神を殺したという事実だけを報告するだけのロボットの様な存在だ。
「魔神様、討伐完了しました。」
「井上くん、流石だね。素晴らしかったよ。何でもしていいって言ったけど、僕の図書館も潰してくれちゃったね。」
「それは、そうですね。」
特段申し開きもない。
「なんか張り合いがないなぁ。もう少し喜びとかないの?」
「はぁ。なんか全部終わって、気が抜けちゃって。女神ロスってとこですかね。」
「そうか。でも、君が田中くんと殺し合って心が揺さぶられた様に、女神が死んで、一番心が揺さぶられているのは、僕だよ。」
「やっぱり、良きライバルって感じだったんですか?」
「いや、違うな。」
魔神はしばらくの間沈黙した後、話し始めた。
「女神は私の元妻だったんだ。」
この言葉を聞いた時、俺は初めて魔神の目を見た。
「僕らは愛し合っていた。愛し合い、一つになり、この世界ができた。しかし愛なんて言うものは恋に比べて儚いものだろ?結婚生活を続けるうち、お互いの価値観のズレが少しづつ顕在化してきた。」
「僕たちはこの世界の未来について議論を重ねるようになった。今考えると議論なんて言えるもんじゃない。喧嘩だ。そもそも男の価値観と女の価値観が合致することなんてあり得ないんだ。」
「『貴方はこの世界のことを何も考えてない』『私のこともみてないでしょ。』『ゴロゴロばっかりして』『最近外出多いんじゃない?』『今日もワンオペでした』。言われた言葉は数限りないよ。」
俺の夫婦生活と一緒じゃないか。生唾を飲む。
「俺もさすがにウンザリしていた。美男美女だらけの美しいだけの少女趣味の世界なんて、くだらないだろ?だからこっそりと俺は魔物を作り、一見人間と遜色ない魔族を作った。嫁の理想の綺麗な世界に毒を仕込んでやったんだ。当然すぐバレた。嫁にとっては大切な息子を殴られた気分だったのだろう。」
魔神の涙腺には涙が溜まっていた。
「結局僕はあの神殿を出た。そしてひっそりと別の世界を作り始めた。僕は僕だけの世界を作りたかったんだ。世界づくりは順調に行き、僕は日々充実感を感じていた。しかし、その一人だけの時間も長く続かない。『冒険者』なる者たちが僕の世界に姿を現し始めた。あっちの世界とは地続きに作ったつもりはなかったよ。でも現に『冒険者』が現れ始めた。僕は思ったね。あの女はどこまでも僕を苦しめるのか!ってね。」
俺も慰謝料、養育費に追われ、追い出し部屋に追い込まれても仕事を辞めることができなかった。魔神の気持ちは痛いほどわかる。
「当然冒険者達は皆殺しにした。しかし、次から次へと蟻のように湧いてくる。蟻退治を続けているうちに、いつしか僕は魔神、ここは魔王領なんて呼ばれるようになった・・その後は君が知っている通りさ。」
自分の結婚生活という卑近な例だが、魔神の苦悩には共感せざるを得ない。今まで暗殺で駆け抜ける日常が普通になりつつあったのだが、辛く、退屈で、苦しい日常生活がそもそも俺のデフォルトだったのだ。
魔神が続ける。
「しかし、今回あの発狂した鬼嫁を殺して新たな感情が湧いた。後悔は、していない。していないが。。君には感謝しているし、君に命じたのは僕だ。だけど・・亡くした今でやっと分かったよ。」
その魔神の言葉を聞いて俺も思うところがあった。俺の元妻と息子は何をしているのであろうか。・・もしかしたら八王子に落ちた核で死んだかもしれない。もしかしたら俺が計画線整理で質量爆弾にしてしまったかもしれない。何の感情もわかない、と言ったら嘘になる。
魔神は続ける。
「とにかく全て終わったんだ。これからは世界の復興だ。人間も多少は残っているだろうし、転生者も少なからずいる。エルフだって健在だ。君もエマやツアレと一緒に復興を手伝ってくれればいい。」
その言葉に俺は首を振った。
「今の魔神様の言葉を聞いて、俺にはまだやることがあると感じました。俺の世界に戻ります。申し訳ありません。」
魔神は俺を制することもなく、一言だけ言葉を発した。
「そうか。わかった。でもたまには帰って来てくれよ。寂しいから。僕らも家族だろ?」
「ありがとうございます。では行ってまいります。お元気で。エマちゃん、ツアレを頼みます。」
あらゆる場所で
誰もが約束を守れる
誰もが光栄に感じられるわけではない
あらゆる場所で
望むなら真実を抱きなさい
望まないなら、僕はそれを誇示しない
僕を興奮させて、僕の話を聞いて
僕は心から受け取る
明白に幸せ、ただ幸せ
あなたと私
愛を感じること、恋すること
周りすべて




