協定違反
エマちゃんとツアレと大画面でジビエ大戦争を観戦した。どう考えてもR18指定だが、まあツアレは二十歳越えているから良しとしよう。画面に竹下が映った。あいつ、全裸で何してるんだ。しかし、返り血を浴び、髪を振り乱したその美青年は非常に妖艶に見えた。人間側の兵士の士気も高い。高いというか異常だ。全員が目を血走らせ、対する妖魔達に突撃している。どちらが狩られる側か、これだけでは判断できない。人間軍は次々と魔王軍を犯し、魔王軍は次々と人間を喰らっている。この血みどろの戦を、ツアレはキャッキャキャッキャ言いながら観戦していた。初めて見た感情を顕にした姿だ。さすが魔王の血筋と言わざるを得まい。
「あ、リリスの袈裟斬りが決まった!よし追い詰めろ!背中に一太刀だ!よっしゃー!え?」
「勇者強い!こないだ大口叩いただけある!ヤバ!なんで腸はみだしながら勃起してるんだよ!」
「リリス、噛みちぎれ!褒美だすぞ!首なんか丸呑みにしちまえ!」
会戦は両軍とも綺麗に全滅した。戦場には動いている者は誰一人としていなかった。その光景を見、エマちゃんがボソッと一言呟いた。
「う、美しい。」
顔を覗き込むと、涙を流していた。エマちゃんの感情を察するに、マサユキなぞによる一方的な虐殺ではなく、総力戦でお互いが死力を尽くし、結果戦場に美しい赤い花が咲いたということだろう。一家揃って鑑賞していた感動モノの映画のクライマックスを見終えた気分だ。とても新鮮で気分が良い。
その余韻も束の間、エマちゃんが持っていた携帯電話的なモノが音を立てた。携帯というよりポケベルに近いだろうか。それを確認したエマちゃんは焦りの表情を見せた。
「魔神様だ。」
「魔神?」
魔神の加護で女神の目を掻い潜れているとは聞いていたが、実在するのか。
「おい、すぐに向かうから支度しろ。」
「なんで俺も行くの?」
「いいから。」
問答無用で転移魔法陣に乗せられ、魔神の場所まで連行された。
転移した先は本棚で囲まれており、中世の巨大図書館といったイメージだった。森の中や海の底、洞窟だと思っていたが、拍子抜けした。森の中に宮殿がある女神の方がよっぽど魔神ぽい。
図書館の一画に窓から光が差している場所があった。そこの古びたテーブルに眼鏡をかけた美青年が座っていた。物腰柔らかな語り口調で語りかけた。
「やあエマ、久しぶりだね。楽しくやってそうじゃないか。」
「魔神様、ご機嫌麗しゅうございます。」
「そんな、異世界みたいな挨拶はやめてくれよ。」
「失礼いたしました。」
「そこの男性が井上君かな。よろしくね。」
「魔神様、お目通りいただき恐悦至極でございます。」
「ははは、異世界丸出しだね。」
魔神と言われる男は爽やかに笑った。
「それで、ご要件は。」
一通りの挨拶を終え、エマちゃんが本題を切り出した。
「困ったことになってね。いや、君らの戦争は別に何の問題もないんだけどさ。むしろ喜ばしいことで、食欲が満たされ、更なる美食を求めるのは自然の摂理だよ。」
魔神が続ける。
「女神の所業として、異世界の自然死や暗殺組織と結んでの魂確保には目を瞑ってきた。しくじってマサユキみたいな奴を転生したことさえもだ。しかし、今回の異世界での大量虐殺による大量転生は協定違反だ。」
「大量転生ですか?」
「そうだ。今、転生者が大量に人間領に召喚されている。先の戦いで人間が絶滅するとでも思ったのだろう。マサユキの失敗があったから当面控えていた魂転生を、女神はなりふり構わずやりやがった。」
「え、私の世界で大量虐殺があったんですか??」
俺はそちらの方が気になった。
「そうか。君はこっちに居たから知らないのか。一度戻って確かめるといい。」
魔神は続けた。
「とにかく、こんなことは許されん。どんな手段をとっても転生者を皆殺しにしろ。特にマサユキレベルの奴が覚醒する前に早急に対処だ。君ら二人に魔神の名において命ずる。」
帰り道、エマちゃんに雑談を振った。
「魔神様、物腰柔らかで女神なんかよりよっぽど優しかったよ。」
「お前は恐ろしさを知らない。アホ女神の100倍は恐ろしいぞ。魔神の名において命ぜられたことの重さを肝に銘じなさい。」
「わかった。じゃあ俺は元の世界に戻って、例の質量爆撃作戦を各都市に実行する。一旦サヨナラだ。楽しかったよ。ツアレを頼む。」
「うん。こっちは今まで卑怯だからと思って投入を躊躇してた化外魔改造戦隊を使って時間稼ぎしておくから、早く頼むよ。」




