デジャヴ/伝統芸能/様式美
俺はまた女神の前に連行されることとなった。正直俺の頭の中にはこの両世界への怒りでいっぱいだった。連行、と言っても、手錠を付けられているわけでも、縄で縛られているわけでもない。俺が逃げられないよう、見えない鎖で幾重にも縛っているのだ。それも気に食わない。いつの間にか身に着けていた田中の圧倒的パワーを眼前にして、自分の無力さは十分に理解している。頭では理解はしているが釈然としない。田中と会話をすることで気を紛らわした。
「田中は、異世界だと聖人だけど、現世には未練はないの?」
俺の質問に、田中は何を当たり前のことを、というような顔をしながら答えた。
「現世では既に家族に別れを告げてきた。異世界で聖人としての使命を全うすることが今の俺には天命であると理解している。」
俺がセックス旅行している間に田中なりの身辺整理をしてきたのだな。
「なぜ田中は異世界にそこまで思い入れがあるんだ?」
俺が何も考えずにした質問に、田中はムッとした。
「現世界は十分に恵まれている。正直俺の力など、現世では介護職員ぐらいにしか役に立たない。だが、異世界には不平等が蔓延り、人間が蹂躙されている。俺はギフトをもらった。異世界に貢献しなければならない。」
「ふーん。比較優位でパレート最適ってことだな。」
俺が田中の知らない用語を使用したことで、田中はバカにされたと感じたようだ。それから無言となった。
女神の前に引っ立てられた。女神とは会うのが3度目。わずかに微笑みを浮かべている女神には、この世のものとは思えないほど美しさを感じた。前立腺の疼きを感じた。そして、勃起した。その状況を把握したのかどうかわからないが、女神が眉間をしかめた。そのさげすむような目線もまた、俺の性癖をくすぐった。
「田中よ、ご苦労でした。不法入国の元凶討伐及び、そこのゴミムシを使っての良質な魂の招致は称賛に値します。」
ゴミムシ呼ばわりされた。
「女神様、もったいないお言葉でございます。」
「この40年間、世界は大変平和に発展しました。化外のものは多少は増えましたが、良質な魂による尽力が成果を出しています。」
女神は田中には優しい。これは信仰してしまうのも、わからんでもない。
「女神様、一つ懸案事項があります。マサユキ討伐において発覚したのですが、我々の世界にマサユキが異世界モンスターを召喚しておりました。ゲートは女神様に管理いただいておりましたので、現世界→異世界への転送は可能でしたが、異世界→現世界は不可能なはずです。いくらマサユキが強大な魔法使いといえども、次元ゲートを開くのは無理でしょう。どこかしらに次元の歪みが生じていると考えざるをえません。」
以前、俺も田中もマサユキも、金子すら魂だけとはいえ普通に現世に戻ってきてるんだけど。それは女神の管理ミスなんじゃないの?俺は頭の後ろに手を組み、すっとぼけながら聞いていた。
「はい。そこの井上が化外魔法による転生を乱用したことによってそのような歪みが生じたのかもしれませんね。」
え、俺のせいー?俺は反論した。
「ちょっと待ってくださいよ。俺が異世界から現世界に逆転送したのは魂だけっすよ。それも俺、田中、マサユキの3人だけ。それだけで歪みが生じるなんて無茶苦茶っすよ。」
「でも可能性は0ではないでしょう。こちらの世界に何人も化外を送り込んだことも事実です。さて、処分はどうしましょうか。」
「女神様、聖人として申し上げます。歪みについては早急に対処しなければなりません。そのためには井上の化外の力が役に立ちます。どうでしょう。こいつに任せてみては。」
なんだか、この展開は以前にも見たことがあるな。デジャヴか。
「いいでしょう。聖人田中の意見を採用します。井上、こちらの世界の歪みを発見して対処しなさい。ただし、逃亡は許しませんよ。いいですね。」
「わかりました。」
俺はしおらしく従ったフリをした。このまま異世界に放り込まれることは確実だろう。面従腹背。放り出されたらすぐにバニシングを自分にかけて現世に戻ってやろう。俺は現世にまだまだ未練があるからな。




