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魔法で極める暗殺稼業  作者: マッスルアップだいすきマン
魔法で極める暗殺稼業
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現世⇔異世界 トレードオフ

 目を覚ましたら見覚えのある霊安室であった。が、今度は田中の姿もあった。同時に目が覚めたようだ。

 「あれから一時間置きに信号を送っていましたが、最初の一回だけで何の反応もありませんでしたね。心配しましたよ。心配しすぎて身体を燃やそうかと思っていました。」

 ホホホと笑いながら金子が話しかけてきた。冗談であろうが、笑えない。俺と田中はそれぞれ別室の取り調べ室のようなところに連れていかれた。

 「ところでレベルは上がったんかい。」

 俺の部屋では、杉下がその巨躯を近づけ、俺を威圧してきた。そういえば自分のレベルは確認はしていなかった。すかさずサーチングをかけてみる。

 「あ、良かった。60ジャストですよ!あぶね~。」

 思わず本音が出てしまった。

 「は?60って言われて60持ってくるバカがいるか!最低65まで持っていくのが社会人だろうが!」

 杉下に切れられた。やはりこいつは理不尽パワハラ上司の才能がある。

 「いやいや、今回も自由意志で戻ってこられたわけじゃないんですよ。女神に密入国がバレちゃいまして。強制送還ですわ。」

 俺はヘラヘラと答えた。杉下は顔を真っ赤にしていた。怒りが抑えられないようだ。俺の部屋から出ていき、田中の部屋に向かった。俺は少しからかってやろうと思った。

 「ともあれ、俺はレベル的にあんたらを超えた。あんたらを消してトンズラさせてもらうことにするよ。」

 それを聞いて、クククと金子が軽く笑った。

 「それはどうでしょう。やってみてごらんなさい。」

 凄い自信だ。ということは、何かしらの対策をしているのだろう。この組織の中に俺以外のバニシング使いがいて、対処法を編み出していてもなんら不思議ではない。

 「いや、やめとくよ。ちゃんとこちらではこちらの仕事を遂行させてもらう。だが、向こうの世界でも女神に脅しを受けているんだよ。」

 「ほう。どんな脅しなんでしょうか。」

 「不法移民が増えるから、バニシングで異世界に人を送り込むのはやめてくれだとさ。」

 「それは我々のミッションと矛盾しますね。」

 金子は少し考え込んだ。

 「でも女神はこの世界には干渉できないでしょう。そのような約束は反故にしても問題はないでしょう。」

 「だが、それがそうとはいかないんだな。田中も蘇っただろ?あれは俺のお目付け役で女神に付けられたんだよ。俺がお前らと一緒に中村を殺したり鎌倉に行っている間に、あいつは女神の加護を受けて聖人になっていた。お前らでもおいそれと危害を加えることはできないと思うぞ。たぶん、たぶんだけどさ、俺がバニシングで人を消そうとしたら田中に異世界転生させられちゃうと思う。」

 「それは困りましたね。・・しかし、女神は再びあなたたち二人をわざわざ現世に転生させる理由がわかりません。異世界にいる間にあなたを消してしまえばこれ以上不法移民が増えることはないですし。」

 するどい。するどいぞ、金子。俺たちの真の目的を話してしまってもいいのかどうか。悩みどころだ。

 無言の時間が続いた。その静寂が打ち破られるように、勢いよくドアが開いた。杉下がその脳筋の勢いのまま入ってきたのだ。

 「金子さん、田中を尋問していたら面白いことを吐きましたよ。なんでも、『俺たちの使命は化外者をこれ以上増やさないために、井上以外のバニシング使いを探して始末することだ』って。」

 なんだよ。田中がべらべらしゃべってるじゃんか。囚人のジレンマそのまんまだな。俺だけ思い悩んで損したよ。

 「井上さん、それは本当ですか?」

 俺は観念した。

 「俺としては女神に抹殺されないためのその場しのぎのつもりだったけどね。こうなっちゃったからにはバニシング使いを探さないと俺が田中に殺される。」

 「ふむ。『暗殺』という目的自体は我々も女神も一致しているわけですね。ではあなたのバニシング使用も厳密には禁止されていない。我々もその別のバニシング使いについて調べておきます。並行して我々のミッションもこなしてもらえればwin-winの関係が築けますね。」

 金子は小首をかしげながらにんまり笑った。不気味だった。

 「ところで、田中さんはどんなスキルを持っているんですか?」

 「おっと、田中も利用しようと思っても無駄だよ。あいつは向こうの世界で信仰に目覚めた。女神の加護も得て聖人になった。その副次的効果かどうか知らんが、俺にもあいつのスキルのすべては理解していないんだ。こっちにいる田中の家族を使って脅そうとしても無理だと思うよ。」

 「それでも、知っていることを話してください。」

 「わかったよ。初めて会った時、あいつオドオドして頼りなかったけど、スキルには恵まれていた。『ハイディング』っていう姿を隠すスキルは最初から与えられていた。その後独学で『アンロック』っていう鍵開けスキルを習得していた。俺だけこっちの世界に戻って、再び異世界転生したらあいつは聖人になっていてレベルも75だった。俺がサーチングで確認したスキルは文字づらからは理解できないものが大量に並んでいた。」

 「文字づら?」

 「日本語でも英語でもロシア語でもタイ語でもなさそうな、見たことない文字列だったよ。わかっている通り、俺らは異世界転生すると自動的に会話と読み書きが日本語に変換される。だが、田中が新たに獲得したものは文字化けしたようなものになっており、全く読むことができなかった。これは本当のことだ。俺は女神に信用されていないから、そういう処理をされているのかもしれない。」

 「それでもレベル上げで一緒に冒険したんでしょう。何らかのスキルは見なかったんですか?」

 「うん。俺が確認したのは無限に食料を生み出す能力と即死魔法だ。」

 「即死魔法ですと!もしかしたらあなたはもう用済みかもしれませんね。」

 金子はニヤニヤしていた。俺はムっとした。現在囚人のジレンマ状態にある。田中に不利になることも洗いざらい話してしまおう。

 「俺のバニシングより不便だよ。あんたも『地獄の黒炎』使うだろ?あいつの即死魔法はそれと同じで詠唱が必要なんだよ。対象範囲も狭い。」

 「なるほど。田中君については少し考えさせてもらいます。」

 田中は俺の盟友だと思っていたが、すれ違った長い時間が微妙に俺たちの関係を変えていた。「囚人のジレンマ」とはよく考えられたものだ。はからずもノイマンに畏敬の念が生じた。

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