報連相は大事だが極力したくない。怒られるから。
魔王とのコントのような交渉も終わり、俺たちは化外の村に戻った。化外の村には顔バレしている者もたくさんいるので気まずかった。が、誰もが生気の抜けた顔で生活していたので、誰も俺とは気づいていなかった。
「魔王との交渉は成立した。世界平和は守られた。じゃあこれからどうする?」
「女神様への報告だ。」
それを聞いて俺は戦慄した。
「俺はいわば密入国者だぞ!?いや密入国斡旋人と言ってもいい。そんな俺を女神の前に引っ立てるのか。」
田中は特段何も気にしていないように答えた。
「それが何か問題あるのか?報連相は大事だから、魔王とのことを報告しなければならないよ。」
暗い森の中、冷たい風が吹き抜ける。悪行がばれた気持ちの俺は、重い足取りで女神の神殿へと連行されている気分だった。心臓は激しく鼓動し、冷や汗が背中を伝う。神殿の扉が開かれると、まばゆい光が俺を包み込んだ。
女神は玉座に座り、冷たい目で俺を見下ろしていた。彼女の美しさは圧倒的でありながら、その表情には一片の慈悲もなかった。俺は膝をつき、震える声で言い訳を始めたが、女神は手を上げてそれを制した。
「お前の罪はすでに知っている」と、女神の声は静かでありながら、雷鳴のように響いた。「今こそ、その行いの報いを受ける時だ。」
俺は絶望の中で頭を垂れ、女神の裁きを待つしかなかった。
「待ってください女神様。今日ここに井上を連れてきた理由は、女神様の処罰を仰ぐためではありません。」
田中が救いの手を差し伸べてくれた。聖人様さまさまだ!田中さま~!聖人さま~!
「ほう。この大罪人に対して何か言うことでもあるのか。」
「この井上は大罪人であることには変わりありません。本来異世界からは魂のみを受け入れるはずが、使いようの無い人体そのものを大量にこの世界に送り込んだことは万死に値します。」
おいおい!助けてくれるんじゃないのかよ!
「ならば即刻こ奴を抹消しても問題はないでしょう。」
「いや、井上は大罪人ですが、この世界を2度も救っています。一度目はマサユキの始末、二度目は魔王との和解です。」
「信じられませんね。確かにマサユキが消えた際にあなた方に報告を受けました。それがまた魔王退治にも貢献した、と。」
「信じられないかもしれませんが、井上の実力は本物です。レベルやスキル自体は大したことないかもしれませんが、知略の素質があります。それが十分に発揮でき、マサユキも魔王も退治することができました。」
「しかし、どちらも化外魔法によるものでしょう。ああ、なんて汚らわしい。その力で外界から化外の者たちを勝手にこの世界に呼び寄せている。スキルも持てぬ、何の役にも立たないその者たちのせいで、今この世界は混乱しています。」
田中は黙り込んだ。女神と議論を続けてもあまり事態は好転するとは思えない。だから、女神を立てつつ、妥協を引き出す言葉を考えてくれているのだろう。なんていい奴なんだ。俺は心の中で泣いた。
「化外の者たちは今、私が責任を持って『化外の村』で管理させていただいておりますが、実はすべてが井上のせい、とも言い切れないのです。私は化外の者たちの転生時期を詳細に調査いたしましたが、井上が送り込んだ時期と時系列的に合わない者の方が多いのです。」
「だからと言ってそ奴の罪が無い、というわけではないでしょう。」
「おっしゃる通りです。しかし、ここで井上を殺したとしても、まだ我々の世界に化外者を送り込む能力のある者がいる可能性が高いということが言いたいのです。我々が魔王討伐に向かっている際にも化外者が三人増えておりました。これに関しては井上には完全にアリバイがあります。」
巨悪は別にいる!との論法か。賢いな、田中!
女神は少し考え込んだ。そして口を開いた。
「確かにそうですね。続けなさい。」
「発言を続けさせていただきありがとうございます。化外者の中には、魔王討伐に貢献した中村のようにスキルを持ち、さらには勇気や正義に溢れた者もいます。」
「確かに中村の活躍は耳に入っています。その性格も質実剛健、清廉潔白。眉目秀麗と来ています。私の加護も付与したいとおもっています。」
「化外の者の中にもそのような者がいます。ですが、逆にマサユキのようなものが転送され、再び混沌の世にならないとも限りません。」
女神は気まずい顔をした。マサユキは女神が正当なルートで呼び寄せた正当な転生者であったからだ。
「ですから、あちらの世界にいる黒幕を炙り出す必要があると思うのです。それには井上の力が必要です。それまでご猶予をいただけませんでしょうか。」
女神は目を閉じてしばらく考え込み、口を開けた。
「いいでしょう。ですが、井上には逃亡の恐れがあるので、あなたが責任を持って監督しなさい。」
そういうと女神は手元の聖杖を振り上げた。その瞬間俺たちは光に包まれた。




