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303/305

(303) 漂流の生活

◇◇◇ 海のどこか ◇◇◇

クルーザーから脱出し、

我々を乗せたイカダは道なき道をさまよう。

現在地図上のどこにいるのだろうか。

東京湾なのか、既に太平洋なのか。

遠方に見える工場の灯りが、

まだ遠くまで流されてはいないという

安心感を残してる。

だが、地上に戻る手段が見つからない。


左腕の切り傷だが、幸いにも

イカダの中に救急セットがあって、

ばんそうこうで傷口を塞いだ。

さらに包帯でグルグル巻きにしてある。

だが、包帯が真っ赤に染まり

完全に止血ができていない。


「あれ、海ほたるじゃない?」


ひときわ目立って光輝くところをレミが指差す。

そこをよ~く見ると確かに

『海ほたる』であることが分かる。

東京湾横断高速道路アクアラインの

パーキングエリアだ。

ようやく我々の現在位置が把握できた。

まだ東京湾の中に居て、千葉寄りってことだ。

良かった。太平洋に出てなくて。

しかも海ほたるへ近づいてる。

助かる。


「海ほたるに辿り着ければ、

 救助してもらえる」


意識がもうろうとしながらも

助かるという希望が見えてきた。

だが、そんな希望は早くも打ち砕かれる。

数分後、遠ざかり始めたのだ。

潮の流れが変わったのか?


漕いでもダメ。

なんちゃってパドルでは進みが遅く近づけない。

更に状況が悪化した。


「船が近づいてる」


レミが指差す方向を見ると。

船がこちらに近づいているのが分かる。

まずい、奴らに発見されたか?

捕まったら終わりだ。

オレにはもう彼女らを助ける気力がない。

失敗した。

ライトを点灯させたままだったのはミスった。


オレがライトを消そうとした時。


「ちょっと待ってください。

 あれ漁船じゃありません?

 このまま点灯させてれば

 助けてくれるかも」


詐欺師が答える。

目を凝らしてみると細長い船。

釣り船だ。


その船はどう見てもオレらに向かってる。

おそらく、イカダの灯りを発見して

近づいているのだろう。


暗闇で、どこまで効果があるか不明だが、

オレらは漁船に向かって手を振ってアピールする。

やがて、漁船が真横に着くと。


「こんなところで何してる。

 遭難か?」

「そうです。助けてください」


オレらは船長らしき人物に救助を求める。

すると船長は快く承諾してくれて

乗船させてくれた。

ありがてぇ。

というか、この状況で乗せなかったら悪魔だろ。


「わしら木更津港に向かってるが

 そこでいいか?」

「上陸できるならどこでもいいです」


ということで、イカダを放置して

木更津港に向けて動き出す。


「お前さん、包帯が真っ赤じゃないか」


船長が左腕を見て驚いてる。

事件性がないと思わせないと。


「ちょっと切っただけです。

 見た目ほど

 大した怪我ではありません」


オレら以外の乗務員は2名。

会話している船長兼操縦士と

釣り具を整理している者。

港に向かう間、オレらがなぜ

遭難していたか質問された。


イカダで遊んでいたら

漂流してしまったと適当に回答。

どう見ても救助用のイカダだ。

嘘がバレバレである。

なので、船長を買収することに。


「2千万円現金で差し上げます。

 どうか我々を救助したこと

 見なかったことにして頂けませんか?」


要するに警察に報告するなってこと。

船長はその取引を飲んでくれた。

不安材料が1つ1つ消えていく。


「無線か何かで地上と連絡が取れませんか?」

「スマホ繋がらんの?」


船長に地上と連絡を取る手段を聞いたら

スマホを使えという。

確認すると確かに電波がつながいる。

陸地まではまだ距離があるに。

へぇ。


早速PMCへ電話すると、

既にアクアラインを使って、

千葉に向かっているところだと報告を受けた。

かなり前からスマホの電波がつながってて、

オレの捜索に向かってるらしい。

優秀だな。

舟も手配してたようだが、それはいいから

木更津港へ向かいに来るよう指示を出す。


・・・


木更津港に到着すると、

黒のハイヤーが5台ほど停車しており、

10名ほどの黒服が待ち構えていた。


「あなた何者なの?」


ようやく詐欺師は、

オレを一般人ではないと理解したらしい。

到着する間、PMCには事情を説明してある。

詐欺師だけ別の車へ乗車させ、

オレとレミは同じ車の後部座席へと乗り込む。

そして、車は東京に向かって走り出した。


「ごめん、危険な目に合わせちゃって」


改めてレミに謝罪する。

軽はずみな行動だった。

全てオレの責任だ。


「申し訳ないが、今日のことは

 誰にも言わず秘密にして頂きたい」

「顔色が悪いです。喋らないでください」


確かに車に乗ったら

急に全身の力が抜けた感はある。


♪ブルブル


スマホの着信!

嫁からであった。

着信履歴を見ると何度も

電話を掛けてたらしい。

まったく気付かなかった。

嫁が心配している。

『電話に出なきゃ』と思ったところで

オレは意識を失った。


◇◇◇ 病院 ◇◇◇

目を覚ますと見慣れない天井が見える。

お腹が重い。

見るとオレはベッドに仰向けでいて、

嫁がパイプ椅子に座って、

オレの腹をまくら変わりにして寝ている。

なんてカワイイ寝顔だろうか。


時刻は深夜1時。


身体は田中のままだ。

木更津からいつもの病院へ

運びこまれたようだ。


嫁にはもう危ないことはしないと

約束したばかりなのに、

もう破ってしまった。


ごめんな。


オレはダメな男だ。

彼女を幸せにしたいのに

心配ばかりかけてる。


嫁の頭をなでる。

すると彼女は目を覚まして

オレの顔を伺う。


「何度も電話したんだよ」


それを言われると胸が苦しい。

あの状況で、電話がつながるとは

思ってなかったから。


「ごめん、心配かけたね」

「本当だよ」


彼女は怒ってないようだ。

心のどこかでは安堵している。

だって彼女はAIだから。

本物の嫁には、この状況を知られたくない。


嫁には、危険とは無縁な世界で

暮らして欲しいから。

一般の人と同じ日常を送らせたい。

これはオレの勝手な押し付けである。


「危険なことをしないという

 約束が守れなかった」

「ハルキが生きてればそれでいい」


ヤバい、泣きそうだ。


「オレが不死身なの、知ってるだろ?」


死んでも身体を交換すれば良いだけの事。

この世界ではオレは不死身なのだから。


「危険な目に遭う度に心が壊れてるでしょ?

 ハルキは誰よりも優しい人だって

 知ってるんだから」


あぁ、ダメだ。

嫁の言葉で壊れる。


ーーー ニュース速報 ーーー

本日午後9時ごろ、東京湾で救難信号を

発信していたライフラフトが発見されました。

発見当時、イカダ内部には人の姿はなく、

大量の血痕と拳銃が残されていたとのことです。

その拳銃には使用された痕跡があり

警視庁では事件性が高いと見ています。

ライフラフトには、船名・登録番号・

管理番号の記載がありました。

海上保安庁と連携して

船体とオーナーの行方を追っている模様です。

イラストは嫁の白川さん (AI生成)

危険とは無縁な世界で暮らして欲しい。筆者のさじ加減だけどね。

挿絵(By みてみん)

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