(302) オレ死ぬかも
◇◇◇ 船内 ◇◇◇
「きゃっ、触らないで!」
1人の大男がレミの腕を掴む。
いやらしい目で見やがって、
この変態野郎!
オレは内ポケットからペンを取り出す。
そして、レミを掴む男の顔面に
ペン先を向け、ボタンを押す。
「うわー」
霧のようなスプレーが放射された。
そう、これはペン型の催涙ガス。
護身用で白川さんに持たせた物だった。
返してもらった時に内ポケットへ
入れたままなのを忘れていたのである。
ありがとう、白川さん助かったよ。
隙を与えず、責任者ともう一人の大男の
顔面へもスプレーを照射。
「目が、目が」
責任者は、痛みをこらえつつも
机の上に置いた銃を手探りで探す。
銃を取られたらまずい。
責任者が銃を手にする寸前で
オレが銃を奪う。
そして、レミの腕を掴み、
引っ張るようにして部屋を出る。
甲板にでると、早速1人の警備員に見つかる。
「お前ら動くな!」
警備員はナイフを取り出す。
どうやら銃は持っていないらしい。
後方を確認すると、詐欺師が一緒に付いて来てた。
こいつ、どさくさにまぎれて逃げる気か。
衝動的に動いてしまったが、この後どうしよう?
カジノ客を人質にするか?
いや、責任者は相当頭に血がのぼってる
客など気にせずオレ達をハチの巣にしそうだ。
泳いで逃げるか?
すると、レミは1メートルくらいある丸い筒の
ボタンを押す。
すると、ハードケースが吹き飛び
オレンジ色の浮き輪みたいなものが現れた。
それが海上に落ちるとみるみる大きくなる。
救命イカダだ。
それは屋根付きテントのようなゴムボート。
一方通行の看板で、前後に警備員が
一歩一歩と近づいて来る。
「それ以上近づいたら撃つ」
♪パーン
オレは、上空に発砲し本物であることを示す。
警備員は身を隠す。
救命イカダは数秒で完全に広がった。
「乗って!」
レミに指示する。
「私も乗せてください」
詐欺師が『助けて!』と目で求める。
この組織を捕まえるのに役に立ちそうだ。
イカダで逃げるには人手もいる。
武器は所持してなく、細身の体型。
どう見ても腕力ではオレの方が勝ってる。
「私の指示に従うなら助けてやる」
「言う事を聞きます」
「もし、裏切るようなまねをしたら
容赦なく海に落とす」
そう言うと、詐欺師はOKと判断したらしく
遠慮なくイカダへ飛び乗る。
その間、オレは前後の警備員に
銃口を向け続ける。
すると真上から何かが落ちて来た。
左腕が熱い。
見るとナイフが刺さってるではないか。
別の警備員が上から飛び降りてきたのだ。
♪パン、パン、パン
オレは、落ちて来た護衛の
太ももへ弾丸をめり込ませた。
同時に前後の警備員が動き出したので
容赦なく1発ずつ撃ち込んでやった。
前後に対しては、脅しのつもりで
照準を決めず適当に撃ったのだが、
どうやら身体のどこかに命中したらしい。
2人とも倒れ、もがいてる。
致命傷ではないようだ。
オレにとっては死のうが生きてようが
どうでもいい。
腕に刺さったナイフを抜き、
ジャンプしてイカダに乗り込む。
固定してあったロープはレミが
既に解いてて手に握られていた。
オレが乗り込むのと同時に
レミはロープを手放す。
そして、オレはクルーザーの側面を蹴り、
イカダを遠ざけようとするも。
離れてくれない。
早くしないとイカダに乗り込まれる。
焦り、周囲を見渡す。
イカダの中には備品があり、
パドルが置いてあった。
「これで漕いで」
女性2人には申し訳ないが、
パドルを渡して漕いでもらう。
詐欺師を連れて来て正解だった。
オレは銃を斜め上に構え、撃つ体勢をとる。
別の警備員が姿を現す。
距離を見てる。飛び乗るつもりだ。
♪パン
オレは警告なく、その警備員の頭部を
狙って発砲するも当たらない。
だが、効果はあった。
警備員は身を隠したのである。
潮の流れもあったせいか、
一度イカダが動きだすと
ぐんぐんとクルーザーから
離れていったのである。
数分も経たないうちに
大きかったクルーザーは爪のサイズにまで縮小。
十分距離が取れてる。
周囲に追跡者も見当たらない。
夜でよかった。
この暗闇の中からオレらを見つけだす
のは困難だろう。
「もう大丈夫。
いざという時のために動けるよう。
休憩しておきましょう」
オレの言葉にしたがい。
2人は漕ぐのを止め、3人とも寄りかかる。
不安は残るが、ようやく危機感は薄まった。
「レミ、ありがとう。
これが救命ボートだってよくわかったね?」
「ケースに LIFE RAFT って書いてあったから
もしかしてと思って」
素晴らしい。
あの状況で良くまぁ、
冷静に判断できたものだ。
オレの方がパニックってたぜ。
そしてオレは詐欺師に目線を移す。
「はい」
詐欺師は姿勢を正し、
オレを見て怯えている。
「クルーザーの連中は何者だ?」
「八重田組です」
八重田?聞いたことあるぞ。
「なぜ、あの連中にマークされてる?」
話を聞くと、八重田組の連中から誤って
300万を騙し取ってしまった
のがきっかけらしい。
数日で八重田組に捕まってしまい。
不当な金利で返済する契約を結ばされたとか。
当然、返金のめどなどない。
逃げ回っていたのだという。
300万が3億かよ。やり過ぎだろ。
同情は出来んが。
本日、新たな顧客を騙すため
待ち合わせの公園に行ったところ、
こうなってしまったという。
要するに公園での取引は罠だったということだ。
そこにオレらが運悪く居合わせ
巻き込まれたのである。
本当に運が悪い。
八重田組の連中に見つからないよう
イカダのライトは点灯させてなかった。
もう大丈夫だ、ようやく明るくできる。
ライトをつけると。
「大変」
レミがオレの周囲の血だまりに驚く。
見ると袖からポタポタと
血が流れ落ちているではないか。
ナイフで刺されたところからだ。
ズキズキと痛みは感じてたが我慢していた。
こんなに出血してる。
自分でも驚いてる。
やばい、急にクラクラしてきた。




