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(293) 初料理

◇◇◇ 教室 ◇◇◇

先ほど嫁と別れ、

オレとノノンは学校へ到着した。


本来ならば退学する予定なので

サボりたい気持ちではある。

だが、嫁に心配掛けたくはないし、

部活メンバーにお別れするまでは

目立ちたくないというのもある。

しかたなく、学校へ来た訳だ。


オレは教室に入り、自席へと着席。

周囲を見渡すと、席はほとんど埋まっている。

昨日と同様、クラスメイトは

早くに学校に来てテスト勉強中だ。

皆、勉強熱心だこと。


だが、オレに言わせれば

残り時間勉強したところで

結果は変わらんと思ってる。


「ねぇねぇ」


ペンでオレの背中を突かれる。

須藤さんだ。

振り向いて彼女と目が合うなり


「科学、得意よね?」


だとさ。

いつ得意だと言いました?

オレ、化学の科目取得してませんけど。


「この問題、分かる?」


その問題は、

酢酸とエタノールからできる物質の反応式を書け。

というもの。


「簡単だよ。

 酢酸エチルと水になるんだよ。

 ペン貸して」


CH₃COOH + C₂H₅OH → CH₃COOC₂H₅ + H₂O

と、彼女のノートに答えを書く。


「化学式なんて、変化前の元素を使って

 別の分子を作れば大抵合ってるから」

「そんな簡単に言わないでよ。

 酢酸の化学式自体知らないから」


授業で教わってるだろ?


「ちなみに、酢酸エチルって香水とかに

 使われてるって知ってた?

 フルーティーな香りがする」

「へぇ~。茂木さんが

 博士っていう理由が分かったわ」


茂木ってだれ?

あぁ、ノノンのことか。


「炭酸水素ナトリウムを加熱したとき

 の反応式は?」


てな感じで、須藤さんに教えるというよりも

問題と答えをセットで丸暗記するらしい。

テストに出るのかよ。


「細倉くん、化学受講してないのに

 どうして解けるの?」


ホワイトルーム出身って

言ったら信じるかなぁ。


「たまたまだよ。

 勉強が得意というよりクイズ好きで

 広く浅く知識があるってだけ」

「そういうこと?

 博士って、物知りの博士ってことなんだ」

「なのかな?」


「ちょっと静かにしてくれません?

 集中できないんですけど」


背中から突き刺さる軍曹の声。

隣なんだから大声ださなくても。

あんたの方がうるさいよ。

教室の空気がピリつくのを感じる。

怖ぇよ。


須藤さんに軍曹があれで、あれなんで。

とジェスチャーで伝え、正面に姿勢を戻す。

隣には絶対目を合わせない。

オレはカバンから教科書を出して

勉強する振りをするのであった。


◇◇◇ 白川宅 ◇◇◇

時刻は13時半。


午前中のテストが終わった。

いつものように学校の廊下で部活メンバーに

サヨナラの挨拶を交わして、

ノノンと帰宅することに。


マンションに到着すると、

一旦3階の自宅に戻って私服に着替え、

即8階の白川宅へと直行する。


♪ピンポン


玄関の扉が開き、嫁が顔を出す。


「お帰り」


可愛い。感動だ。

これを待ってました。


「ただいま」


靴を脱いで廊下に上がると

嫁はいつものハグしてのポーズ。

またまた、感動。

二度と味わえないシチュエーション

だと思ってたから。

神って存在するんだな。


「ん!」


嫁が『早く』と表情で催促する。

たまらん。AIって凄ぇ~なぁ。

オレは思いっきり抱きしめる。

あぁ、マイナスイオンが注入される。

研究所でのこと、学校でのこと。

全てのモヤモヤが吹き飛ぶ。


廊下を抜けてリビングに入ると


「もう食べれるよ」


料理を運ぶクルミちゃんの姿。

偉い偉い、ちゃんと手伝ってるな。

分厚い手袋で、激熱そうなのを運んでる。

今日の料理はなんだ?


いつも使ってるローテーブルは小さい。

さすがに4人分の料理は並べられない。

なので段ボールでテーブルが拡張されていた。

と言っても布で覆いかぶされてたので

オレが拡張テーブルに座るまでは気付かなかった。


「お待たせ」


遅れてノノンがリビングへ。

ノノンの存在をすっかり忘れていた。

良かったぁ、嫁とのハグを見られなくて。


「いただきます」


4人そろったところで食事が始まる。


「熱いから気を付けてね」


嫁がノノンに忠告すると


「これなに?」


焦げたチーズで覆われた料理を指差す。


「ドリア。全部クルミが作ったんだよ」

「そうなの。

 料理するの初めてなんだって」


嫁はああ言うが、手伝っただけだろ。


「クルミ、料理に目覚めました」


ノノンと同じことを言ってる。

せっかく教わったんだ、続けてくれよ。


「クルミちゃん、おいしい」

「頑張りました。

 これ作るの凄く簡単なんだよ」


確かに美味しい。

初めて食べたかも。

嫁の料理スキルには毎度感心させられる。


クルミちゃんがオレを見つめ

料理の評価を求めてる。


「美味しい」

「でしょ?」


イヤイヤ、嫁の力ですから。


・・・


話題は食事の後についてへ。


「ハルキは午後予定あるの?」


オレは、アーツの事務所に

行かなければならないことを説明した。

最後の挨拶も兼ねて引継ぎをする。

これでアーツとは永遠のお別れになるだろう。


「クルミちゃんはしたいことある?」

「ん~ん?」


嫁の問いにクルミちゃんは悩み、

ノノンが割り込む。


「ホテルにでも行ってみる?

 今日、お泊りする所なんだけど。

 地下にプールがあるの。

 部屋からの景色も最高だよ」

「プール行きたい。

 いいなぁ、クルミもお泊りしたい」


クルミちゃんはオレを見つめる。

宿泊していいかの確認だ。

門限は20時と決めているが特に理由はない。

嫁とノノンも『いいよね』と表情で

圧を掛けている。

ダメとは言えん状況だ。


「ああ良いよ。

 病院にはオレから伝えておく」

「やったぁ。

 友達とお泊りするの初めて」


そっか、そうだよな。

クルミちゃんは大喜びの様子。


「ホテルの部屋見たらビックリかもよ」

「楽しみ過ぎる」


ということで、オレだけ別行動となり

夕方合流することに。

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