(290) 嫁の復活
◇◇◇ MAEDAコンサルティング ◇◇◇
時刻は15時
♪チン
エレベータがビルの最上階へと到着。
オレは身体を田中に乗り換え、
前田のオフィスへと押しかけたのである。
てっきり1階の受け付けで、
『社長は外出中でありまして』
と遠回しに断られると想像していたが
すんなり通してくれたのである。
そして、エレベータが開くと
オレを待ち構えていたかのように
秘書が姿勢を正して正面に立っていた。
ここで断るのかと覚悟したが、
「田中様、お待ちしておりました」
だとさ。
深々と頭を下げたのである。
ちょっと拍子抜けだ。
前田はオレから逃げると思っていたから。
更に驚く事は、アポなしで突撃して
面会してくれるということだ。
前田はスケジュールが過密でオレでさえ
前もって予約しないと会えない存在。
だが、まだ分からん。
社長室がもぬけの殻ってことも有り得る。
やつの顔を拝見するまでは安心できない。
秘書の後を付いて行き、社長室の前で止まる。
「どうぞ」
秘書が扉をあけ、中へと案内される。
「よう」
「ようじゃねぇ。
オレがここに来た理由は分かっているよな?」
白川さんの件だ。
前田が犯人だと断定しているが
違う可能性もある。
前田の口から事実を確認しないと。
「白川の件だろ?
気に入ってもらえた?」
すんなり認めるのかよ。
しかも、気に入っただぁ?
怒りが再燃して来た。
オレは前田の胸ぐらを掴み、
にらみつける。
「その冗談は笑えない」
「待て待て!落ち着け。
悪ふざけではない。
良かれと思ってやったことだ」
「ほう?
聞こうじゃないか」
胸ぐらをほどき、
腕組みして一旦話を聞くことに。
「場合によってはこの宇宙を消滅させる。
これから研究所のセンター長と面談を控えてる。
オレのさじ加減でこの宇宙はどうとでもなる」
「そこだよ。
ジュンは投げやりになっている。
分かるよ。
白川嬢があんな状態になってしまったからね。
だから元気付けようと、やったまでだ」
何が元気付けようだ。
ふざけんな。
「お前は、この宇宙を守りたいだけだろ?」
「そうだよ。それのどこが悪い」
開き直りか。
「だが元気づけたいというもの本当だ」
「で、中に入っているのは、だれだ?」
お前の研究員なら男ってことになる。
「AIだよ」
「はぁ?」
通りで、口調や仕草がそっくりだった訳だ。
中の人が別人なら、そこは騙せない。
「ホムンクルスとの通信記録を使って学習させた」
え!ちょっと待て!
嫁との恥ずかしいやり取り、見たのか?
前田が察したのか、先に口を開く。
「先に伝えておく。
お前たちのプライベートは覗いてはいない。
見たところでデータだけは何もわからん」
「本当に彼女はAIなのか?
初めて出会った場所を聞いたら間違えてたぞ」
「当然だ。
学習データは通信記録を使ったから。
白川嬢より前の記憶は持ってない。
あと、一般常識と知識は学習させてある。
日常生活には困らんだろう」
「なぜオレに相談しなかった?」
「サプライズだよ。誕生日プレゼント的な。
あと、あのままホムンクルスを
寝かしとくのももったいないからね。
棺に入れたままでもホムンクルスは年を取る。
1体作るのにどれだけの時間と手間が
掛かってるか知ってるか?
もし、気に入らないのなら、
棺に納めてもらえばいい。
学習データをクリアするよう設計してある」
とりあえず、中身は白川ってことになるのか?
いや、ならんだろう。
♪ピロリン
前田は携帯を手に取り、耳に当て、話しだす。
「会議室に案内しといてくれ。
もう少ししたら行く」
どうやら秘書からの連絡のようだ。
「すまん。客人が来た。
続きは後日でいいかな?」
オレも引くに引けなくなっていたから
客人が来てくれたのは助かった。
「分かった。今日の所は帰らせて頂く」
そう言ってオレは出口に向かい、
とってを握ろうとしたところで、
あることが頭を過る。
振り向きざまに、前田に確認。
「1つ、教えてくれ。
彼女は自分がAIだと自覚しているのか?」
「いや、白川本人だと思ってるだろう」
「そうか」
そう言って、オレは前田オフィスを後にする。
◇◇◇ マンション前 ◇◇◇
時刻は20時。
オレは、ハルキの身体に乗り換え
マンション前の歩道で、
クルミちゃん達が帰ってくるのを待っている。
オレは懸念事項を抱えていた。
嫁とどう接したらいいかである。
前田のやつ、余計な事をしてくれたな。
PMCの車が到着。
後部座席が開く。
「ハルキ、ごめん。
ちょっと遅くなっちゃった」
「全然問題なし」
こうして嫁と会話ができるのは嬉しい。
それがAIでも。
だが、偽者なんだよな。
オレの嫁は1人だけだ。
ここはお眠りになってもらおう。
「また2日しか経ってなかったんだね?
言ってよ」
「ごめん、言うタイミングを逃しちゃって」
「どうなるの?」
「それは後で」
嫁からクルミちゃんへ視線を移す。
「どう?楽しかった?」
「すっごい楽しかった」
「それは良かった」
「明日もいい?
ズッキー姉が連れてってくれるって」
視線を嫁に戻す。
「ハルキさえ良ければ、だけど」
別に学習クリアを1日伸ばしても問題ないか。
「オレは学校があるから
白川さんが良ければだけど」
「いいよね?」
ということで、明日もクルミちゃんを
接待してくれるらしい。
◇◇◇ 発着室 ◇◇◇
「では明日7時半、ここで」
「遅れないでよ」
クルミちゃんとはここでお別れだ。
♪ウィーン
棺のふたが閉まる。
・・・
嫁と2人きりとなった。
さて、どう接していいか分からない。
「うん!」
嫁が、両手を広げてハグのポーズ。
一瞬、躊躇したが抱きついた。
あぁ、癒される。
マイナスイオンが充電される。
抱き付いたまま、嫁は耳元で話だす。
「わたし、ハルキに何か嫌われる
ようなことしたかなぁ?」
その寂しげな声は、オレの胸を締め付ける。
ヤバい。
嫌ってはいないけど、態度に出てたようだ。
キミがAIだからとは言えない。
「嫌いになる訳ないよ。
実は、病気がまだ治ってないんだ。
機械のトラブルで、キミを一時的に復活させただけ。
もう一度、冷凍保存になってもらいたい」
相変わらず、デタラメを言う天才的だな、オレ。
「そうだったんだね?いつまで?」
「めどが立ってない。
明日かも知れないし、1ヵ月後かも知れない」




