(288) 最後の晩餐
◇◇◇ 前田研 ◇◇◇
オレは、作業ログを見ているうちに
当時のことを思い返していた。
ガイヤを第二実験室へ移したことに後悔はない。
我々の研究は文明の進化がテーマ。
ガイヤの存在は大きい。
意思を持った生物を持つ星に出会えるのは皆無。
現に第二宇宙では、あれだけ星があるというのに
未だに見つけられてない。
ガイヤを移動させたのは正解だった。
前田にガイヤを紹介したのも大きい。
彼らには技術力がある。
人工宇宙の創生に彼らが関わっているくらいだ。
ダイブ機でガイヤの地に降りてたのも
第二実験室へ移動できたのも前田のおかげ。
だが、それによって第二宇宙に手を加えてしまった。
それは大問題である。
他がどのような研究をされているかは不明だが
もし手を加えた事が知れたら
実験結果の信憑性が疑われてしまう。
何とも胃の痛い話だ。
そして、その研究チームのことを思うと心も痛い。
「博士?」
・・・
「ジュン博士殿」
おっと、オレか。
声を掛けられていたようだ。
「すまない。聞いていなかった。
何の話だっけ?」
「いえ。
ログは作業日だけでなく、前後も見たければ
ここに置いてあるって話です」
「あぁ、ありがとう。助かる」
「ところで、管理画面に入れます?」
「出来ますけど、ログインしたのが
管理室からばれますよ」
そんなことは言われなくても理解してる。
「この後、センター長と会う。
オレからログインしたと報告しとくよ」
自分で言ってて軽いなぁ。
「ならいいですけど」
あなたも軽いなぁ。
結構、問題ですよ。
やってくれるならいいですけど。
そう言って前田の部下は、管理者用の画面へ
ログインしてくれた。
「これでいいですか?」
「ありがとう」
前田研の連中なら管理画面へ入れる
のを知ってて頼んだものの、疑問に感じるのだが、
どうしてログインできるのかが不思議だ。
ハッキングしたのか?
それとも情報を盗んだのか?
興味本位で聞いてみたいが、知らない方が身のため。
敢えて聞かないのだ。
そして、オレは管理画面の設定を一通り確認する。
「調べ事は終わりました。
端末はどうしたらいい?」
「そのままにしてください。
後片付けは我々の方でやりますので」
素人が下手に触らない方がいい。
「すまない。ではこのままにしておく。
私は戻ります。
室長(前田)には助かったと伝えておいてくれ」
「分かりました」
そう言って、前田研を後にする。
◇◇◇ 研究室 ◇◇◇
オレの研究室に戻ると。
男研究員が切り出す。
「博士、センター長から返答が来てます。
会議室の件、了承だそうです」
よし、70分の余裕ができた。
これで堀北さんの試合が観戦できる。
安心するところ別だろう。
「センター長とは何の話をされるのですか?」
そう言えば、状況を伝えてなかったっけか。
まぁ、知らない方が身のためだ。
「大した話ではない」
「そうですか」
「一旦、ガイヤに戻る。
70分後に、またここへ戻って来る」
これが最後の晩餐かもな。
「分かりました。行ってらっしゃい」
そう言って、ダイブ室へ直行するのであった。
◇◇◇ 発着室 ◇◇◇
時刻は、朝6時。
♪ウィーン
棺の扉が開き。
ハルキの身体が起き上がる。
オレはガイヤに戻って来たことを把握する。
そして、時刻を確認。
こっちでは11時間経ってる。
まだ、学校に間に合いそうだ。
この後に及んでテストに間に合うか気にしてる。
ふふ。
思わず笑ってしまった。
この世界が消滅するかも知れないのに
テストなんて、どうでもいいだろう。
白川さんを格納した棺の前へ行き、
ケース越しから彼女の顔を眺める。
すやすやと眠るその姿は
今にも起きそうな雰囲気である。
あまりの可愛さに、目が釘付けだ。
生きてるとも死んでるとも言えない
彼女の状態は、見ていて複雑な気持ちになる。
だが、見てよかった。
この世界を守りたいという
気持ちが強まったから。
毎日、見に来よう。
そうすれば、意地でもこの世界を守るだろう。
◇◇◇ マンション前 ◇◇◇
時刻は7時50分。
オレは、自宅マンション前に車を止め
後部座席からノノンが出て来るのを待っている。
これから学校に行くからだ。
もしかしたら、部活メンバーと会えるのは
今週で終わりかも知れない。
それを考えたら、
5分でも10分でもみんなに会いたいと思い、
学校へ行くことを決意したのである。
「お待たせ。
あれ!博士、朝食べてなかったの?」
後部座席が開き、
ノノンが車内を覗きこんでの一言である。
オレはサンドイッチを食べていた。
「さっき、そこのコンビニで買って来た」
「博士もあれだね。
瑞葵ちゃんが居ないとだらしないよね」
ノノンの奴、オレがさっき起きた
ばかりだと勘違いしてないか?
気楽でいいな、お前は。
そして、車は学校に向かって走り出すのであった。
移動中のこと。
「週末だけど。
堀北さんの試合が終わったら研究室に戻るぞ」
「どうして?」
「どうしてって、2日目のダイブ終了だよ」
「あぁ、もうそんな時期。早いよ。
戻らなくてよくない?」
「お前、目的を失ってないか?」
この宇宙が消滅するかもという理由もあるんだが。
「リセットしたら、すぐ戻っていいでしょ?」
「別にいいけどよ」
戻って来れないかもよ。
状況を伝えた方がいいだろうか。
「相当気に入ってるじゃん」
「そりゃそうだよ。
友達沢山できたから」
本当に友達が理由か?
「レンが居るからだろ?
離れたくないとか」
「博士、それパワハラですよ」
パワハラの意味を知ってる?
「必ず別れが来る。
その心構えだけはしとけよ」
「博士の方が大丈夫なわけ?」




