(282) ノノンがうらやましい
◇◇◇ 帰り道 ◇◇◇
時刻は20時
オレは、前田のオフィスを出て
発着室に向かって夜道を歩いてる。
田中からハルキに乗り換えるためだ。
田中のままでもいいのだが、
オレはハルキの身体を気に入ってる。
まぁ、嫁が好きなハルキだから
というのもある。
なぜPMCの車を使わないのか。
単なる気分転換したいから。
だが歩いても考えることは
ネガティブなことだけ。
この世界に留まる意味はあるのか
何度も頭を過る。
ここに居ても、ただ時間が浪費されるだけ。
何の楽しみもない。
とはいえ、研究室に戻れば
センター長との事情聴取が待っている。
八方塞がりだ。
昨日から今日に掛けて頂点から
どん底に落とされた。
嫁を復活させる夢はある。
だが、研究室に戻ったら二度と
この地に戻れない可能性が高くなってきた。
戻れたとしても100年後、
1000年後になるかも知れない。
流石にその時は、
嫁は存在してないだろう。
はぁ~、ため息しかでない。
>>ハル!
突然、目の前に幽霊が出現。
「わぁ、幽霊!」
>>天使です
ノノンだ。
脅かすなよ。
>>ここどこ?
博士、どこに居るの?
「ハルキの身体に戻すんで
晴海に向かってるところだ」
>>あっそ
なんだよ。興味なし?
なら聞くなよ。
知っているか?
今、研究所では大変なことになってるんだぞ。
お気楽でいいな、ノノンは。
>>博士、元気なさすぎ。
落ち込むのは分かるけどさぁ。
数年待つだけでしょ?
あっという間じゃん
分かってねぇな。
ノノンは嫁がただ寝ているだけと
勘違いしている。
まぁ、病状も、現在の状況も
ハッキリと伝えてないから仕方ない。
>>明日は学校来るんでしょ?
今週はテスト期間中だよ。
テスト受けないと面倒なんじゃない?
え!
テスト期間中なの?
知らんかったわ。
「もしかして今日からテスト?」
>>そうだよ
やっちまった。
でもどうなんだろう?
もう、学校行く必要なくない?
元々、学校に行ってたにはノノンの付き添いだ。
オレが居なくても大丈夫だろう。
ただ、あれだ。
部活メンバーにはお別れしとかないと。
「明日は学校行くよ」
>>OK。じゃあ7時半にお起こしてね
そう言って、ノノンは消滅。
ふざけんな!
それが目的か!
どいつもこいつも
自分の事しか考えてねぇ。
◇◇◇ 自宅 ◇◇◇
時刻は23時
想像よりも帰宅時間が遅くなってしまった。
とはいうものの、特に予定はないので
なんの問題もないのだが。
部屋に入ると、即シャワーを浴びて
ベッドに倒れる。
静寂に包まれ、ひんやりする部屋。
寂しい、寂し過ぎる。
隣に嫁がいないのが恋しい。
あれだけ1人が好きだったのに。
人は変わるんだなと再認識する。
携帯を手に取り、写真フォルダを開く。
嫁の寝顔がカワイイ。
だが、直ぐに閉じてしまった。
眺めてると泣いちゃいそうだから。
♪ピコ
Lineが届く。
また、クルミちゃんか?
朝から『つまらない』と頻繁に
Lineしてきてるからだ。
気持ちは分かるが、
かまってやれる余裕はオレにない。
だがLineはアイミーからであった。
Line>>連絡が遅くなってゴメン。
昼まで寝てたんだろ。知ってる。
スタッフから報告を受けてたから。
コンサートと数日のプレッシャーが
開放されたんだ。
当然だろう。
今日は1日休息すればいいのに。
午後は事務所の整理やらしてたらしい。
ご苦労様なこった。
Line>>コンサート最後まで見てくれたんだね。
ありがとう。
御礼を言いたいのはオレの方だ。
最高だったよ。
友人も大満足だったし、
いい思い出になった。
Line>>勝負は私の勝ちってことで。
罰としてライブの手伝いお願いね。
もうライブかよ。
埼玉スーパーアリーナとかか?
Line>>学祭で作った曲あるでしょ?
あのまま闇に葬るのは
もったいないなと思ってさ。
もう3曲くらい作って
500人規模のライブハウスで
披露したいと考えてます。
いいじゃん、いいじゃん。
確かに良い曲なのに、もったいないよ。
♪ピコ、ピコ、ピコ
『賛成』『楽しみ』『お任せあれ』
のスタンプを送る。
これは本心だ。
もう一度アイミーの歌が聞きたい。
歌っている姿を見たい。
だが冷静に考えると、これって
いつの話なのだ?
下手すると、こちらに帰って
来れない可能性がある。
新曲を作ってからって話だ。
ライブは今週ってことにはならんだろう。
Line>>スタジオの予約とか
知らないから頼むね❤
リーダー
オレは『了解』のスタンプを返す。
だって話の流れ上、
了解するしかないだろう。
こんな約束してしまって
いいのだろうか。
そして、この直後。
バンドのグループLineへ再稼働の連絡が
アイミーから通知された。
当然、篠崎さんと鈴木くんは
快諾OKしたのは言うまでもない。
とりあえず、ギリギリまで手伝うとして、
鈴木くんにはいつでも引き継げるよう
にしておかないと。
◇◇◇ 白川宅 ◇◇◇
時刻は、朝7時半
オレは白川家で朝ご飯を作っている。
サラダと目玉焼き、ベーコンを
焼いてるだけだけど。
嫁の手伝いをしてたせいか
それなりに作れるようになっていた。
自分でも驚きだ。
ちなみに部屋に入るカギは、
嫁から預かった財布に
入っていたものを使わせてもらった。
朝ご飯の支度が終わると。
なんでここまでする必要があるのか
自分でも分からなくなる。
オレはノノンの家政婦か?
と思いつつ、ノノンの部屋の前へ移動。
♪コンコン
ノノンの部屋をノックする。
「朝だぞ!ノノン」
・・・
♪コンコン
「起きろノノン。学校だぞ」
そう言えば、幽霊のノノンが
オレを起こしに来てたっけか。
いつの間にか逆転したな。
♪コンコン
「おーい!」
♪カチャ
部屋の扉がゆっくりと開き、
半開きで、覗くようにオレを確認する。
ノノンの目は冷ややかだ。
どうした?
開口一番、飛び出した言葉は
「エッチ!」
である。
「起こせ!と言ったのはノノンだろう」
「そうだけど、
部屋に入っていいとは言ってません」
「じゃあ、
どうやって起こせというんだ?」
「電話?」
はぁ?
「起きないだろ!」
「そうかも、だけど」
「かも、じゃねぇ。
朝ご飯作ったから。
もう、オレは戻るぞ。
いつもの時間に下(マンション前)で待ってる」
そう言って、オレは白川家を出るのであった。




