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(278) 最後のデート

◇◇◇ 白川家 ◇◇◇

「お皿は大きいのでいい?」

「うん、お願い」


時刻は朝7時半。

オレは嫁と一緒に朝食を作っているところ。

昨夜、嫁はオレの部屋に泊まっていった。

今日は月曜日。

ノノンが学校に行く日なので、

朝食を作らねばならない。

正直『自分でやれ!』と

言いたいところだが、嫁が作りたいというのだ。

そりゃあ協力しますよ。


ということで早起きして

一緒に嫁の部屋へと来たのである。


リビングの扉が開くと

「おはぁよう」

パジャマ姿のノノンが登場し

欠伸まじりで挨拶する。


今、起きたようだ。


ノノンはガラステーブルの

所定の場所へと座る。

テーブルの上にはまだ何もない。


「ごめんね。

 もうちょっとで出来るから」


オイオイ、座るのかよ。


「ノノンも手伝え!」

「えぇ、何すればいいの?」


えぇ~じゃ、ねぇ~よ。

お前のために、

こっちは早起きしてるんだよ。


「麦茶出すとかあるだろ!」

「はぁ~い」


ノノンは気の抜けた返事で、

面倒臭そうに立ち上がる。


「ノノン、明日から大丈夫なのか?

 全部1人でやらないとダメなんだぞ」

「掃除・洗濯はヘルパー頼べばいいし、

 食事はデリバリーでよくない?」


こいつ、何もしない気かよ。

自分の家だろ。


「白川さんから家事教わってんだろ?

 できるだけ自分でやれよ」

「博士だって自分の部屋、

 ヘルパーに頼んでるじゃん」


そうだけどよ。


「せめて、料理くらいしろって話し。

 お嫁に行けないぞ!」

「お母さんに言われてるみたい。

 1週間に1回はやります」


あっそ。

面倒臭い、もういいや。


・・・


「ホットケーキだ。ノノン大好き」

「沢山あるから食べて」


朝食がテーブルに並べられ、ようやく


「いただきます」


メニューはホットケーキのほかに

サラダ、ジャガイモのなにか、

シーチキンのなにか、そしてオムレツ。

おかずの名称は知らんが、

よくまぁ朝からこれだけの物を作るなぁ

と毎度感心させられる。


「おいしい!」

「よかった」


ノノンが本当に美味しそうに食べてくれる

から嫁も朝から幸せそうだ。


「ノノン、このポテト好きかも」

「ジャーマンポテトっていうんだよ。

 作り方簡単だからレシピ書いとくね」

「うれしい。ありがとう」


書いたって無駄だよ。

作らないぜ、きっと。


「ノノン、のんきに食事してて

 学校間に合うのか?」

「5分で支度できるから全然余裕」


男子かよ。


「博士だって、間に合うの?」

「今日も休む。学校側には連絡してあるから」

「えぇ、ズルい」


どういう意味?

学校行きたくない訳?

ノノンが学生をやりたいって言い出したんだろう?

だからちゃんと学校行け!

オレは保護者として、イヤイヤ付き添ってるだけだから。


「今日でしょ?

 冷凍になる日、何時から?」


ノノンさんよ。

そういうセンシティブな話をここでするなよ。

しかも買い物にでも行くような聞き方してるが、

何するか理解してる?


「14時だったはず」

「そっか、寂しいなぁ」

「病気だからしかたないよ。

 治ったら、また会えるから。

 そのときも遊んでね?」


なんつう会話してるんだよ、きみ達は。

留学してくるのとは訳が違うぞ。


「安心して、この部屋、絶対残しておくから」


イヤイヤイヤ。

18年後、マンションが残ってるか微妙だぞ。

テンションが低いのはオレだけだ。

ただただ、オレは2人の会話に耳を傾けるだけで

いっぱいいっぱいになっていた。


・・・


「行って来ます」

「行ってらっしゃい」


制服姿のノノンがいつものように挨拶して出て行く。

嫁はそれを見送る。

ノノンがいるお陰で明るい雰囲気になれたのは事実。

もし、オレと嫁の2人だけだったら

朝からお通夜状態だっただろう。

そこはノノンに感謝だ。


「時間までどうする?」


嫁が笑顔で聞いてくる。

どうして笑顔でいられる?

不安はないのかよ。


「お昼は食べても大丈夫なんだっけ?」

「それは問題ないけど」


凍結するのはその身体ではないからね。


「最後は、ハルキおすすめの中華屋さんに行きたい。

 だって、次はお店ないかも知れないじゃん?」


最後って。

元気だせオレ。

嫁を不安にさせてはならない。

ノノンのように最後まで笑顔、笑顔。


「了解。お昼は中華屋にしよう。

 午前中は水族館とかどう?

 月曜だから空いてると思うよ。

 すぐそこだし」

「近くだから行ってみたかったの。

 そこにしよ」


本当に行きたいの?

オレに合わせてないか?

ネガティブになるな、オレ。


最後のデートだ。

嫁がしたいならいいではないか。

18年後の最高の思い出にしよう!


◇◇◇ 水族館 ◇◇◇

時刻は11時。


オレと嫁は、しながわ水族館に入館している。


「下から水槽眺めるのっていいね。

 癒される」

「こういうの見ると

 部屋に水槽が欲しくなる」


「私も思った。

 でもたまに見るから良いのかもよ」

「確かになぁ、それもある」


嫁はいつものように人前を気にせず

腕を組みベタベタと身体を密着させてくる。

他人の目を気にするオレとしては

あまり好まなかったのだが、

今は考え方が180度変わってしまった。

他人の目を気にせずにイチャイチャする

嫁がカワイイ過ぎる。

大好きだ。


カウントダウンが近づいてる。

あぁ、この時間が永遠に続いてほしい。

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