(275) アンコール
◇◇◇ 武道館 ◇◇◇
「アンコール、アンコール」
ここは武道館メインホール。
会場はアンコールの掛け声が繰り返されている。
エルピース解散が発表されたからだろうか、
観客のテンションが異常だ。
はたから見たら滑稽である。
アーティストのいないステージで
客が盛り上がっているのだから。
「アンコール、アンコール」
しかし長い。
なかなかアンコール曲が始まらないのが気になる。
またもオレは焦り出す。
動揺しているのは会場内で
オレ1人だけだろう。
本来なら、ここで卒業発表して
卒業ソングを歌う予定だった。
だが、その予定は大きく狂っている。
裏ではきっとドタバタしているのだろう。
オレはそう自分に納得させた。
「アンコール、アンコール」
♪アンコールありがとう
♪ありがとうございます
アイミーとリリカの2人が
ようやくステージに登場。
♪みんな!楽しんでますかぁ?
「パチパチパチ」
アイミーの掛け声に会場は拍手で答える。
♪私も楽しい。
この時間が永遠に続けばって思ってる。
♪勘弁して、私はしんどいよ。
♪それ、昨日も言ってなかった?
「ハハハ」
そして、ここまで歌ってきた感想を
中心に話題が続く。
・・・
♪楽しい時間はあっという間だね?
次に歌う曲が2人で歌う最後の曲となります。
「えぇぇぇ」
アンコール曲は2曲。
エルピースとして歌うのはこれが最後。
その次は、全グループのメンバーで
歌って締めくくる。
あと2曲でコンサートは終了。
確かにあっという間だ。
楽しむ前に終わってしまう。
まぁ、プロデューサーになった時点で
何時間あろうと楽しめなかっただろう。
いや、違う。
オレは既に満足している。
だって隣の嫁が楽しんでいるのだから。
♪最後の曲は、私達エルピースの原点である
デビュー曲になります。
この曲があったからこそ
今のエルピースがあったと言えます。
フィナーレとして、この曲以外考えられません。
それでは聞いてください。
ドリーム・トリップ
ここでイントロが始まると思いきや
照明が落ち、会場全体が闇に包まれる。
そして、数か所のドローンが支えるモニターに
赤文字で大きく『重大発表』が表示された。
♪重大発表って、なぁに?
アイミーとリリカ、
そして会場のみんながモニターに釘付けとなる。
そりゃあ、そうだろう。
本人達も知らないのだから。
モニターに『リリカ、ドラマヒロイン役決定!』
という文字が表示された。
♪ネットドラマ『フラッシュバックLOVE』だって
11月中旬より放送開始って書いてある。
甲高い声でアイミーがモニターに映し出された内容を
読み上げると、両手で顔を覆うのであった。
♪ちょっと待って!
なんでエミリが泣いてるのよ。
とぎれとぎれの声でリリカが問う。
♪あんただって泣してるじゃん
これはリリカにとって、単に女優として
夢が叶ったというものではない。
♪だって
♪リリカが好きだったマンガよね?
ドラマ化するんだ。私も嬉じぃ~
2人して抱き合い号泣する。
エルピースで売れたのはアイミーだけ。
リリカにも注目して欲しいと願ってきた。
最高の形で夢が叶ったのだ。
アイミーも自分事として嬉しいのである。
この発表は偶然などではない。
オレがリサーチして、このマンガが好きだと知り
出版社にドラマ化を持ち掛けたのだから。
それだけ喜んでもらえるとオレも嬉しい。
続けてモニターには『第二弾』が表示。
♪まだ何かあるみたい
『エミリ、来年の夏アニメ主題歌決定!』
が記載される。
アイミーのデビューも決定された。
♪おめでとう!
リリカがアイミーに拍手で祝福する。
正式な事務所の移籍は明日からだ。
移籍後のスケジュールについては
彼女らには知らされていない。
この発表は彼女らへのプレゼントではあるが
ファンへの宣伝でも兼ねているのだ。
♪エミリ。夢のソロ活動だね
「パチパチパチ」
アニメの制作委員会には、
アイミーが作詞作曲するとは伝えてない。
決定はアイミーがソロで歌うというだけ。
その辺どうするかは、アイミーの意志を
聞いてからだな。
♪やばい。
こんなに早く2人の夢が叶うと思ってなかった。
これも応援してくれるファンの皆さんのおかげです。
ありがとう
♪ありがとう
「パチパチパチ」
するとモニターに『第三弾』が表示
♪えぇ~
『リリカ、来年1月。舞台出演決定!』
♪リリカ!主役だって。
2人は手を握ったまま、その場に崩れる。
続けて『第四弾』が表示
『エミリ、来年4月。
アニソン野外フェス、ゲスト出演決定』
これはエルピースのアニメ主題歌を
アイミーが単独で歌うというもの。
♪なんかぁ。
一生面命やってきてよかった
どうだ。この重大発表は?
ファンの皆も安心できただろうよ。
そして『第五弾』
♪まだあるの?
2人は立ち上がりモニターを見つめる。
『エリカ、エミリ、ゲーム声優デビュー決定』
♪新作ゲームのキャラクターボイス担当だって
やったー
リリカとアイミーは抱き合ってジャンプする。
これは、2人が同じゲームのキャラクターボイスを
担当する告知である。
サブキャラクターではあるが、重要な役回りだそうだ。
オレがゲーム会社に行った理由が
この仕事を取るためであった。
♪トライデント社って、
有名なゲーム会社だよね?
♪リリカ知らないの?
世界的に超~有名な会社だよ。
新作ゲームだって、凄くない?
しかも友達同士の役だよ。
卒業後も一緒に仕事できるね。
別々の道を進むはずが、
一緒の仕事があるのが告げられファンも喜ぶ。
「パチパチパチパチ」
まだまだ重大発表は続く。
『第六弾』が表示。
♪えぇ~
♪テネルの町からお届けラジオ
10月より毎月放送だって
これは、先ほどの新作ゲームを宣伝するための
インターネット番組である。
発売は2年後。
それまで盛り上げてもらうコンテンツだ。
2人がゲームキャラのVTuberとなって、
ゲーム世界から開発状況やイベント情報を
お届けする内容となっている。
♪発表の中で、2人の番組が
一番最初じゃない?
♪ちょっと待って!
もしかして。
イベントで一緒に出演する
可能性もあるってことだよね?
そうだ。
制作サイド次第だが、東京ゲームショーや
数々のイベントで2人がMCやゲスト出演する
可能性を秘めている。
それを狙って、このラジオ番組を提案したのだ。
キャラの人気がでれば、ユニットで
歌を歌う可能性だって期待できる。
未来はキミ達のガンバリに掛かっている。
会場が明るくなり、モニターには
2人のアップへと切り変わる。
重大発表が終わったことが示されたのだ。
♪えーっと、ファンの皆さんは
驚かれたと思いますが、
私達自身も驚いています。
エミリ知ってた?
♪聞いてないわよ。
知ってて、リアクションしてたなら
私も女優になれるわ。
「ハハハ」
♪正直、心の整理がついてないです。
なんだか夢を見てるよう。
何度も言いますが、これはファンの皆さんの
応援があったからだと思ってます。
オレがサポートしてやれる事はここまでだ。
オレはいずれ自分の世界に戻らなくちゃならない。
あの大盛社長に頭を下げてまで作った道なんだ。
その先は、自分の力で作ってほしい。
♪いやぁ、顔がグチャグチャだけど
もういいです。
このまま行きましょう。
それでは仕切り直しになりますが、
聞いてください。ドリーム・トリップ




