(274) ラストコンサート②
◇◇◇ メインホール ◇◇◇
MCが長すぎて、次の曲がなかなか始まらない。
「ハハハ」
観客には、まだ気付かれてないけど
オレは動揺している。
流石に細かいタイムスケジュールまでは
覚えていないが、明らかにおかしい。
エルピースにとってファーストコンサート
であるが、卒業コンサートでもあるのだ。
中断にでもなったら彼女らに一生悔いが残る。
アンコールで卒業発表を予定しているんだ。
最後まで駆け抜けて欲しい。
そんな時
♪お待たせ!
アイミーとリリカがウエディングドレス
のような純白の衣装で登場したのである。
え!
それ、卒業発表の衣装だろ。
どういうこと?
会場を盛り上げていたMC担当は
ステージ裏へと下がり、
主役へとバトンタッチする。
♪みなさん、楽しんでますかぁ?
「おぉぉ!」
アイミーとリリカはアイコンタクトを取り
深く息を吸う。
そしてアイミーが真面目な表情で語り出す。
♪ここで、ファンの皆さんに
大事なお知らせがあります。
彼女が発するただならぬ口調に
会場の温度が一気に下がる。
何を言おうとしているのか観客に伝わった。
だって、噂になっていたのだから。
♪北条 愛美梨と石川 凛々華は
アイドルを卒業します。
そして、本日をもってエルピースは解散します。
えぇぇ!
会場だけでなく、オレ自身も驚いている。
だって発表はアンコール後の予定だったから。
横を見ると嫁が泣いている。
嫁は事前に知っていた。
分かっていても本人の口から
直接言われるとショックなのだろう。
熱狂的なドルオタファンだったのだから。
それが解散して消滅するのは辛い。
オレは嫁の腰に手を回し、
引き寄せるようにして密着させた。
オレも寂しいよ。
最近存在を知ったからこそ、
もうちょっと見ていたかったという思いはある。
アイドルを止めた後について触れられた。
アイミーはシンガーソングライターを目指し、
リリカは女優を目指すとのこと。
それぞれが別々の道を歩むと告げられる。
<<解散しちゃうんだ。
あ~あ、もったいない。
アイドルのまま、やりたい事すればいいのに>>
台無し。
ノノン!ちょっと黙っててくれないか。
感動が半減する。
彼女らは損得で動いてないんだよ。
♪私達が卒業しても、アーツファクトリの
応援よろしくお願いいたします
2人が深々と頭を下げる。
♪パチパチパチ
するとアーツファクトリの全アイドルが
手に数本をまとめた花束を持って登場する。
メンバー全員泣いていた。
『辞めないで!』というのが
巨大スクリーンに映る彼女らの表情で伝わる。
それを見て、もらい泣きする観客も続出する。
だが、オレはその光景を見ても泣けなかった。
理由はこの演出を知っていたからではない。
メンバー達の関係性にある。
アイミーを尊敬してたり、憧れていた素振りが
感じられなかったからだ。
その涙はビジネスか?って疑っている。
堀北さんが試合会場で引退宣言したら
きっと多くの選手が泣くだろう。
それは容易に想像できる。
だがアイミーは違う。
オレの感覚がおかしいのだろうか。
<<何でみんな泣いてるの?
新たな旅立ちでしょ?
笑顔で送り出さないと>>
感動できないのはノノンのせいもある。
♪この日のために卒業ソングを作ってくれました。
社長には感謝しかありません。
次の曲はそれを歌います。
♪それでは聞いてください。
『メモリーBOX』
唯一のバラード曲だ。
観客に手を振り、
ゆっくりとステージの端を1周する。
そして、横一列並んだメンバーから
アイミーとリリカは1人ずつ花束を受け取る。
その時、メンバーは一言を添えている。
何を伝えたかは聞き取れないが、
胸が苦しくなるような感動的なことであるのは
スクリーン越しに伝わって来る。
その光景が、更にファンを感動の渦に
巻き込むのであった。
<<ノリノリの曲の方が良かったなぁ>>
ノノンが幽霊で良かったよ。
お前、今頃8000人から
ボコボコにされてたぞ。
曲が終わると、2人は花束を抱えて
観客に向けて大きく頭を下げる。
♪パチパチパチパチ
一呼吸おいて次の曲のイントロが始まる。
アイミーとリリカを残し、
メンバーはステージ裏へと下がる。
リリカの表情が自信に満ち溢れ
マイクを握る。
♪私達の最初で最後のコンサート。
みんなで思い出作りましょう。
♪みんな、まだまだ行けるよね?
「おぉぉぉ!」
お通夜状態だった会場は、
一変し活気を取り戻す。
ここで卒業発表したのは
正解だったのかも知れない。
残りの1曲1曲を噛み締めることになり。
解散へのカウントダウンを
会場全員で味わうのだ。
急遽セットリストを変更した理由は
この時知らなかったが、
後日RS社の社長から説明を受けた。
変更理由は、アイミーとリリカが
疲れ切っていて動けなくなっていたからだと。
なるほど。
そして、そんな変更をいとも簡単に
こなしてしまったRS社には脱帽しかない。
優秀な社員でオレも鼻が高い。
卒業発表後、アイミーとリリカは、
6曲歌い切ってステージ裏へと戻る。
◇◇◇ ステージ裏 ◇◇◇
ステージから戻ってきたリリカとアイミーは
スタッフの顔を見るなり安心したのか、
2人とも同時に足元から崩れたのである。
「残り3曲できそう?」
♪アンコール、アンコール
スタッフの声をかき消すほどの
アンコールがステージ裏にまで響く。
「できます」
メインの2人にはもう立ち上がる体力が残ってない。
だが、ファンの声が彼女らに気力を与えてる。
医者は、継続はお勧めできないと忠告するも
2人はやる気まんまんだ。
これが最初で最後のコンサートだからこそ、
「2分休んで、着替えましょう」
スタッフも彼女らを止められない。




