(272) Day2スタート前②
◇◇◇ 武道館 ◇◇◇
コンサートの集合場所で、上空に幽霊が現れた。
「幽霊!」
「天使です」
ノノンだ。
急に叫んだことで、全員の足が止まり
オレに注目する。
最初に反応したのはカイだ。
「ハル、どうした?忘れ物か?」
滑舌が悪かったのか、オレが何を言ったか
聞き取れてないらしい。
「いや、何でもない。
ちょっと足をくじいて焦っただけ。
急ごう!」
みな、驚かせるなよって表情をし、
歩みが再開される。
驚かされたのはオレの方だ。
まさかノノンが幽霊で現れるとは、
予想していなかったのだから。
というか幽霊モード、久しぶりじゃね。
存在をすっかり忘れてたわ。
ここ最近の嫁とのラブラブが脳裏を駆け巡る。
それをノノンに見られてなくてホッとする。
いや、本当に見られてなかったのか?
幽霊の出現によって、ノノンの行動が理解できた。
なぜ、日曜日分のチケットをすんなりメンバーへ渡したのか。
なぜ、この場に来ずに帰宅したのか。
幽霊としてコンサートを見ることを
想定していたからだと。
オレは、小声でノノンと会話する。
「驚かすな!」
<<驚かしてないもん。
博士が勝手に驚いたんでしょ>>
「まさか、その姿でコンサートを見る気か?」
<<だってチケット無いんでしょ?
なら、これで見るしか方法なくない?>>
「1人席なら余ってるぞ」
<<えぇ1人?
やだよ。
しかも今からじゃ間に合わないし>>
一理ある。
「日曜日も見たいならもっと早く言えよ。
方法考えたのに」
とは言ってみたものの、
策が考えつくとは思えん。
<<だってチケット無いって言ってたじゃん>>
こうなってしまった以上、あきらめるしかない。
ということで、ノノンがいることを伏せたまま
我々は入場の列にならび、
ステージのあるメインホールへ入ったのである。
チケットは2人席と4人席の2か所に分かれている。
座席の振り分けは嫁とクルミちゃんペアー、
それ以外に分かれたのである。
本来は、オレと嫁で2席にする予定でいた。
だが、クルミちゃんを初対面の野獣どもに
放り込むのは酷だし、
ノノンもいるのでそう決断したのだ。
「ハル、スゲェな」
カイは、青い炎が舞い上がるのを見てつぶやく。
それは、円形状のステージの縁、8カ所から
青い火の玉のようなものが断続的に現れ、
天井に向かって舞い上がる光景であった。
カイよ!
それ、お前の父親が作った装置なんだぞ。
知ってるか?
「コンサートが始まる前から
こんな演出見るの初めてだよ」
「入り口から凄かったもんな。
始まる前からワクワク感が止まらない」
鈴木とレンも興奮している。
<<昨日と違うんだね。
やっぱ来て良かったよ>>
ノノンも感動してる。
突然、嫁とクルミちゃんが、
手を繋いでオレらの所へとやって来た。
開演まではまだ時間がある。
それまでの暇つぶしかな?
「どうした?」
嫁がオレの正面まで来たので声を掛けると
「クルミちゃんがハルキと代わりたいって」
要するにクルミちゃんとオレの席を
交換したいということだ。
クルミちゃんが言うには、
カイたちと見た方が楽しそうだからという理由だが、
どう見てもオレと嫁に気をつかっている。
「ハル!クルミちゃんの言う通りだ。
オレらと一緒の方が100倍楽しめる。
な、クルミちゃん?」
「クルミちゃんに気を使わせるな。
2人で見るのが楽しみだったんだろ?」
「そうだよ。
クルミちゃんはオレらに任せろ」
野郎どもに、こう言われたら何も言い返せない。
確かに嫁と一緒がいいが、
一番はみんなに楽しんでもらえること。
特にクルミちゃんには。
気は使わせてはいけない。
よくよく考えれば、カイたちは全力で
盛り上がるだろうからクルミちゃんも
一緒の方が楽しいかも知れないと思い始めて来た。
「分かった。クルミちゃん!
白川さんと2人になりたいので
代わってもらえる?」
「ヒューヒュー」
恥ずかしさMAXだが、
それ以上に嫁が恥ずかしそうにしてる
のを見れて満足。
ということで。
クルミちゃんを猛獣どもに預け、席を移動した。
念願の2人きりになれたのだ。
<<楽しみ、早く始まらないかなぁ>>
だが、最悪なことにノノンがいる。
ここは嫁に伝えておかないと。
「実はノノンが来ているんだ」
「そうなの?場所はどこ?」
周囲を見渡す嫁。
<<ノノンはここだよ>>
嫁の前にノノンが立ち、手を振る。
ノノンよ。
それギャグ?それとも天然ですか?
「幽霊として来てる」
<<天使です>>
「そうなんだ」
「だから直接会話することはできない。
家に帰ってから会話してくれ」
♪あー、あー、マイクテスト、マイクテスト。
そんな時、会場にマイクによる女性の音声が流れ出す。
昨日と同じシチュエーションだ。
♪みんな元気!エミリンだよ
「おおぉ」
観客の9割が男子。
会場全体に低音の声が鳴り響く。
エミリンは、昨日と同様に注意事項と
少ししたら開演することを伝えた。
◇◇◇ ステージ裏 ◇◇◇
「エミリンでした」
そう言って、アイミーはマイクのスイッチを切り
集合場所へと向かう。
その頃、演者であるアイドル達は、
既に全員集合しており輪になっている。
輪の1人にリリカが居て、
スタッフからの連絡事項を説明していた。
「お待たせ」
リリカの説明が終わると同時に
アイミーが輪の中へと加わる。
「ではエミリンから、みんなへ挨拶があります」
そう言って、リリカはアイミーへパスする。
「皆さん、昨日はお疲れ様でした。
最高のパフォーマンスでした。
昨日もお伝えましたが、
今日のみ参加するお客さんもいます。
なけなしの小遣いで来ている学生さんもいます。
遠くから来ている人もいます。
今日来てよかったと思わせたい。
一生忘れない思い出にしたい。
まだ昨日の疲れが取れないとメンバーもいるでしょう。
今日が最後です。
全力でやり切りましょう」
「はい」
アイコンタクトを取ってリリカが話し出す。
「このメンバーで一緒にやれるのは今日が最後です。
私達も良い思い出になるよう。
悔いのないように!」
「はい」
「では、いつものやります」
メンバー全員が手をつなく。
「ファイト」
「オー」
全員が腕を上げて叫ぶ。
「スタンバイしてください」
スタッフの掛け声で、アイドル達は
所定の場所へと各人移動するのであった。




