(258) 父との再会
◇◇◇ 都内のマンション ◇◇◇
ハルキから受け取った父への手土産。
中身は写真集であった。
「これは?」
「友璃さんが亡くなった日に撮影されたものです。
まさか製本されてたとは私も驚いてます」
初の写真集。
あの日、これを出すために撮影したものだ。
だが、本人が亡くなったのだから
完成しないものと思い込んでいた。
こうして本として完成してくれたのは嬉しい。
ハルキの心遣いに胸が締め付けられる。
父は表紙をジーっと見つめている。
それはウエディング姿の娘。
悲しそうな父の顔を見てられない。
おそらく、ウエディング姿の娘を
楽しみだったに違いない。
白川さんは、心の中で
『ごめんなさい、お父さん』
と叫ぶのであった。
白川さんの頬に熱いものが伝わる。
「ありがとう、ございます」
父は無言で、ティッシュを白川さんの前に
そっと置いてくれた。
そして、父は1ページ目をめくって手が止まる。
だって、へそ出し、生足、半乳出しの
半裸な衣装だったのだから。
とてもじゃないが、父と娘が一緒に
見るようなものではなかった。
「奇抜な衣装ですね」
静寂した重い雰囲気から父が絞り出した一言。
もし、自分が生きていたら写真集を作った
事さえ父には内緒にしていただろう。
だけど今は違う。
「これ、ゲームキャラクターなんです。
最近のゲームは衣装が派手なんです。
友璃さんはこのキャラクターを
とても気に入ってました」
写真集の衣装は、
事務所が選定して無理やり着せたのではなく
全て娘さんが選んだものであること。
それらの衣装は、大好きなゲームやアニメ、
マンガのキャラの服装であることを説明する。
そして1ページめくるたびに、
なぜその衣装を選んだのか、
なぜそのキャラクターが好きなのか
を事細かく説明したのであった。
その間、父は何度も目をぬぐっていた。
その光景を見る度に、
白川さんも目頭が熱くなり一緒にぬぐったのである。
この写真集は、父だけでなく、
白川さんにとっても特別のものであった。
撮影時は完成を楽しみにしてたし、
なによりもゲームファンの反応が見たいと
思っていたから。
白川さんは、事務所のオンラインサイトへアクセス。
すると、ユーリ写真集の発売が掲載されており
予約中であることを知る。
「この写真集、予約中になっていて
来月発売されるみたいです。
友璃さん、きっと喜んでいますよ」
父親にとっては複雑な心境だ。
価値観が古いのかもだが、
どうみてもエロ写真集にしか思えない。
それが発売されるというのだから。
だが、娘は自ら写真集を出したくて
事務所に頼んだと聞く。
どのページも『私を見て!』って表情で
自信に満ち溢れていた。
そんなんを見せられたら親戚中の恥だとか
という概念もぶっ飛ぶ。
「そうですか。
娘が望んで作ったのだから世に出るのは
父としても嬉しいです。
発売するからには多くの人に見てもらいたいですね」
まさか、出版を進めていてくれてたなんで
白川さんは想像をもしていなかった。
ハルキに感謝するのであった。
最後のページは、貴族の令嬢がドレス姿で
食事しているシーン。
「テーブルにある料理、見てください」
「美味しそうですね。
作り物にしては良くできてます」
「本物ですよ。全て食べられます。
これ全部、友璃さんの手作りなんですよ。
しかもアニメで出て来た料理を
そのまま再現してあるんです」
白川さんは、自身の携帯を取り出し、
アニメのワンシーンを見せる。
「これ見てください。アニメと同じです。
凄くないですか?」
「本当だ」
見た目だけでなく、
味も美味しくなるよう何度も試行錯誤した
ことも父に付け加える。
「友璃さん、料理得意だったんですよ」
「へぇ、一度でいいから娘の手料理を
食べてみたかったですね」
「私が作りましょうか?
友璃さんから沢山教わってました。
得意料理も再現できます」
「是非、食べてみたいですが悪いですよ」
「それは気にしないでください。
実は私、来週から海外に行くんです」
来週は冷凍保存される。
父と会うのは、これが最後。
「もう、日本には戻って来れないかも知れません。
ここに来るのは今日が最後になるでしょう」
白川さんの願いは最後に親孝行したい。
娘の存在を少しでも残したい。
という気持ちが高まる。
「お願いします。
私、友璃さんに凄くお世話になりました。
お父さんにお返しさせてください」
白川さんは、半ば強引にお願いをする。
こんな美人にせがまれたら
「まぁ、そこまで言うなら」
そりゃ、断れんよ。
◇◇◇ 武道館 ◇◇◇
「すみません。
ちょっと中断していいですか」
オレは、ステージに上がり、
アイドル達のリハーサルを止めた。
何点か演出の変更を伝えるためだ。
アイドル達はオレの話を聞くために
振付師の先生と共にオレも元へと駆け寄る。
先ほど、RSテクノロジーの社長と状況を確認した。
明日がコンサート本番なのだが、
舞台装置は何点か完成していない。
今もリハーサルと並行して装置の
セッティングが行われているところだ。
「皆さん、お疲れ様です。
プロデューサーの田中です。
1Day、2Dayのセットリストが一部変更となりました
ので皆さんに共有致します。
後で詳細な資料を渡しますので
メモを取る必要はありません。
頭の片隅に入れておいてください」
まず、バルーンが中止となった。
機材はそろっているのだが、
設置に間に合わないというのが理由だ。
まぁ、見渡せば分かる事。
未だに作業が終わってないのだから。
バルーンには、アイミーとリリカが乗る
予定であったが、ステージで歌う方向で変更。
その間、他のグループは客席を回って
ハイタッチしていくという演出へ変更した。
ちなみに、アイミーとリリカは結果喜んでいた。
乗る前から2人して怖いと言ったからだ。
演者に影響する大きな変更は幸いにも
これだけで済んだ。
残りは、照明や登場のタイミングなど
細かい変更点を伝え、オレはステージを降り
観客席の最後列へと移動するのでった。




